事業成果

次世代の全固体電池に有望

導電率が高い硫化物系電解質と大容量電極材料2019年更新

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辰巳砂 昌弘(大阪府立大学 学長)
戦略的創造研究推進事業CREST
二酸化炭素排出抑制に資する革新的技術の創出「固体界面を制御した全固体二次電池の創製」(2010-2015)
先端的低炭素化技術開発ALCA
次世代蓄電池「全固体電池チーム」研究開発代表者(2013-2022)

2000回充放電を繰り返しても劣化なし

ALCA研究開発代表者チームリーダーである辰巳砂昌弘教授の研究チームは、次世代の全固体電池として期待される「リチウム-硫黄二次電池」の電極材料として、世界トップレベルの導電率をもつ硫化物複合体を開発した。容量密度が非常に高い硫黄を最大限利用するための新しい電極構造の確立にも成功した。この電極は、硫化リチウムベース固溶体に硫化物固体電解質を組み合わせており、これまで報告されているリチウム-硫黄二次電池の中で最も高い容量とすぐれた寿命を示した。硫化リチウムベース固溶体を用いた電極は、硫化リチウム単体を用いたときよりも2倍以上大きな容量を示し、2000回充放電を繰り返しても劣化はなく、安定的に作動している。

無機固体電解質の中でも特に硫化物系無機固体電解質はイオン伝導度が高いことから、全固体リチウム電池への応用が期待されている。従来、全固体電池は出力の低さや低温では動作しにくい点が懸念されていたが、最近、従来のリチウムイオン電池に用いられている有機電解液を上回るイオン伝導性を有する硫化物系固体電解質が発見され、むしろ従来のものよりすぐれた出力と低温作動性能を発揮できる可能性が出てきた。この点から、特に電気自動車や家庭用の電源として注目されている。

図1

試作した硫化物型全固体電池でLEDを点灯

安全性、寿命、低容量が壁に

従来のリチウムイオン電池は長寿命で繰り返し充電ができ、高いエネルギー密度を示すものの、電解液に可燃性の有機溶媒を用いているため、発熱に続いて発火する事故が相次ぐなど安全性に問題があった。そこで近年では、有機溶媒を硫化物のような不燃性の無機固体電解質に置き換えた全固体電池が次世代電源として注目されている。

新しいリチウム-硫黄二次電池を実用化するためには、発熱や発火を抑えて安全性を確保し、広い温度域でも使用できるようにすること、さらなる高エネルギー密度化および長寿命化などが求められている。

有機電解液を用いるリチウム-硫黄二次電池はまた、電極反応時、中間反応生成物である多硫化リチウムが電解液に溶出するため、電池容量が劣化するという問題があるが、全固体リチウム-硫黄二次電池ではこの問題を根本的に解決出来る。硫化リチウム自身が絶縁体であるため、高エネルギーを実現するためには導電性の付与による高容量化も必要とされている。

短い電池寿命や小さい容量を解決するために、これまでさまざまな改善方法が検討されてきたが、1000サイクル以上繰り返し充放電をしても高容量を保持する硫化リチウムはこれまで報告されていなかった。

図2

電子顕微鏡で発熱の要因を解明

辰巳砂教授は高イオン伝導性物質の開発とその材料応用技術研究において、世界トップレベルの研究チームを組織して、まず電池の本質的安全性確保に必須である電極の発熱反応のメカニズム解明に取り組んだ。発熱は電池の寿命を劣化させる要因にもなるので、電池材料がどういうメカニズムで発熱するかを確認し、発熱反応の要因を解明することは非常に重要である。そこで、森茂生教授らと連携して試料の微細構造や組織の変化を観察し、材料の熱的な安定性について解析した。

電極材料や無機固体電解質を加熱しながら熱的挙動を調べたところ、300~400℃で発熱反応があった。この発熱の要因を明らかにするため、電子顕微鏡でリアルタイムに観察した結果、電極材料に接触する部分の無機固体電解質の結晶化が発熱の主な要因であることがわかった。

次の課題として、結晶化エネルギーの計算を含めた発熱反応の要因の一層の明確化や非結晶状態の解析に着手している。辰巳砂教授は「電池材料の発熱挙動とその要因についてさまざまな角度から評価し、全固体リチウム電池の実用化に貢献していきたい」と話す。

図3

充電後NMC-LPS正極複合体の示差走査熱量測定結果
300~400 ℃の温度範囲に2つの発熱反応が存在

2倍のエネルギー密度を求めて

今後は実質的に利用できる電池のエネルギー密度を増大させるために、正極層の厚膜化、固体電解質層の薄膜化、高容量負極材料の開発を行い、それらを組み合わせることによって、従来のリチウムイオン電池よりも2倍のエネルギー密度を有する全固体リチウム-硫黄二次電池の構築を目指す。研究をさらに加速させるべく、技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)との連携を始めている。

硫化物系無機固体電解質以外にも、酸化物型全固体電池についても研究を進めた。固体-固体界面でのイオン伝導性の改善に集中して取り組み、室温での酸化物型電池の安定作動に成功している。

安全で高エネルギーな次世代型電池が社会に普及すれば、自動車や身近な電化製品の性能や安全性が飛躍的に向上すると期待されている。

図4

菅野了次教授らと構築している硫化物系固体電解質の材料マッピングの例