事業成果

微生物の体内でプラスチック生産!

多用途の生分解プラスチックの実用化に目途2018年度更新

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株式会社カネカ/土肥 義治(公益財団法人高輝度光科学研究センター 理事長)
独創的シーズ展開事業 委託開発(現NexTEP-Aタイプ、NexTEP一般タイプ)
「植物由来生分解性樹脂」開発実施企業/代表研究者(H20-25)

広がるプラスチックによる海洋汚染

軽くて強く加工性に優れるプラスチックは、優れた材料として日常に欠かせないものである一方、原料として石油資源を大量に消費し、さらに自然界にゴミとして長期間残存するといった問題が指摘されている。現在全世界での生産量は年間2億tで、そのうち数100万tが海に流出し海洋汚染の原因となっているといわれている。独創的シーズ展開事業 委託開発 開発課題「植物由来生分解性樹脂」における代表研究者の公益財団法人高輝度光科学研究センター 土肥義治理事長は、この課題に対してポリエステルをつくる微生物がいることを知り、生分解プラスチックの研究をスタートさせた。

生分解プラスチックとしては、すでにトウモロコシやサトウキビなどのでんぷんからつくるポリ乳酸がよく知られている。しかし、ポリ乳酸は硬くて熱にも弱いため扱いが難しく、応用範囲も限られている。これに変わる新しい生分解プラスチックの開発が、土肥理事長らの研究目標となった。

図1

生分解プラスチックと従来のプラスチックのライフサイクル比較

生分解プラスチックをより多くつくる微生物づくり

土肥理事長らは1987年、体内で固いプラスチックから柔らかいゴムまで幅広い樹脂をつくることができる微生物を発見した。この発見は産業界から注目され、いくつかの企業との共同研究を実現した。さらに1992年、共同研究企業であった株式会社カネカの植物油工場の敷地から、さらに有望な微生物が発見された。しかし、これらの野生の微生物では体重の30%ほどのプラスチックを蓄えるにとどまっており、実用化にあたってはコスト高が課題だった。カネカと土肥理事長らはこの微生物を遺伝子組み換えにより改良し、2006年には体重の90%近くのプラスチックを蓄えることに成功した。この成果の実用化を目指し、2009年にはカネカが開発実施企業となりJSTの委託開発に採択され、生分解プラスチックの生産実証実験に着手したのだった。

図2

改良された微生物の顕微鏡写真。白っぽい部分が生分解プラスチックで、体内のほとんどを占めている。

年間1,000tの生分解プラスチック製造に成功

カネカはこの微生物の培養を実用化するために、実験室の10万倍の規模となる生産実証プラントを設置して開発を進めた。

実験室レベルではそれほど気を使うことのなかった温度や湿度の均一性も、容器が大きくなると当然、課題となる。通気、撹拌、原料の投入方法など、実証を繰り返して最適化を図り、実用レベルでの培養生産性の確立に成功した。さらに培養中の微生物が体内に十分なプラスチックを蓄えたことが確認されると、熱処理で微生物の動きを止め、精製工程へと移る。微生物の体内のほとんどはプラスチックで、外側にはたんぱく質や脂肪でできた殻がついている。微生物は非常に小さいため、殻を物理的にはがすことはできない。そこで殻は環境に配慮した溶剤で溶かすこととし、溶剤調整を繰り返した。こうしてプラスチックを回収する精製方法や連続生産可能な生産プロセスを開発し、2014年には実証設備ながら、年間約1,000tの生分解プラスチック生産体制が確立された。

図3

カネカ高砂工業所に敷設された生産実証プラント

農業フィルムなどの商業生産に目途

本研究で製造された生分解プラスチックは、土中や海中といった嫌気的条件、陸上の好気的条件下、コンポスト(堆肥中)条件下、いずれでも優れた生分解性を有することが確認され、日本バイオプラスチック協会が認定するグリーンプラのポジティブリスト(PLA4200)に登録された。成形加工性についても各種用途に対応可能であり、消しゴム、ボトルやトレー、コンポスト用の生ごみ処理袋など様々な用途の製品が開発されている。その中の代表例が畑のうねを覆う農業用マルチフィルムだ。素材が軟らかいため、トラクターを使ってフィルムを引きながら畑に敷くことができる。収穫後に土の中にすき込む作業も簡単で、土中の微生物などの分解条件にもよるが、3~ 6か月ほどで分解される。最終的には二酸化炭素と水に分解され、ほかの物質は残らないことも確認された。

ヨーロッパでは、石油由来樹脂の使用が抑制される傾向にあり、生分解プラスチックへの関心が急速に高まっており、今後のグローバル展開が大いに期待されている。

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農業用のマルチフィルム。トラクターでうねに敷いた(左)。収穫後はトラクターで土中にすき込める。