事業成果

魚類の免疫力を高める物質の発見

魚粉に変わる養殖用飼料の原料を求めて2018年度更新

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三浦 猛(愛媛大学 教授)
研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP) 起業挑戦タイプ
開発課題「イエバエを利用した革新的養殖システムの創出」(H21-25)研究代表者

魚の養殖用飼料の課題を昆虫で解決

魚粉は養殖用飼料における動物性たんぱく資源として欠かせない原材料だ。近年、中国を中心とした新興国で水産物の消費量が増え、養殖の需要は世界的に激増している。魚粉の価格は20年前には1㎏あたり50円程度だったが、現在ではその4倍以上になっている。また魚粉の材料となる魚(主にカタクチイワシ)は天然資源なので、価格は不安定であることに加えて、獲り過ぎによる枯渇は、他の海洋生物にも影響を及ぼす。魚粉を極力使わない養殖用飼料の開発が望まれているのだ。

魚に代わる原材料として最も重要なことは、必要量を安価に確保できることである。そこで三浦猛教授らが目をつけた動物性たんぱく資源は「昆虫」であった。昆虫の生物資源としての量は、全人類の15倍を超えると推測されている一方で、たんぱく資源としてはほとんど活用されていない。この昆虫をたんぱく資源として積極的に利用することが研究開発の出発点であった。単一の昆虫を、通年安定して大量に確保する必要から、自然界の昆虫を採集する方法はあり得ない。人為的に増殖がコントロールでき、かつたんぱく資源として見込める昆虫として、カイコ、コオロギおよびイエバエの仲間が挙がった。

図1

世界及び、日本・ノルウェー・ベトナムの養殖生産高の推移
(FAOのデータに基づく)

昆虫で養殖魚が健康に成長

三浦教授らが着目した昆虫はイエバエである。衛生上の観点からマイナスイメージが強いイエバエだが、増殖速度が速いうえに人為的に生育を制御できること、イエバエの幼虫が家畜の糞尿をエサとしていること、また幼虫の糞は良好な肥料となることなど利点が多い。人類の廃棄物から有用な資源を作り出せる、優れた再生産システムと言っても過言ではない。実際、最新成果では養殖飼料中の魚粉を全てイエバエミール(幼虫粉末)に置き換えることに成功。天然資源を保全しつつ飼料用たんぱく源の安定供給に貢献している。

三浦教授らはイエバエのサナギを魚粉に混ぜて、効果の検証を始めた。その結果、飼育魚の摂食性が非常に良く、体長・体重とも魚粉のみで育てた飼育魚よりも大きくなる傾向があった。また、3つの効能が明らかになった。1つは飼料を魚が好んで食べること、2つ目は体色が鮮やかになること、3つ目は免疫が活性化して病気に強くなることである。マダイで強制感染の実験をしたところ、サナギを含まない飼料を与えたマダイは感染後12日で全て死亡したのに対し、サナギを含んだ飼料を与えたマダイは感染後15日間の実験期間中、1尾の死亡も認められなかった。これほどハッキリとした耐病性が得られることは予想外であった。三浦教授らの研究開発は、この免疫系を向上させる原因物質とそのメカニズムの解明へとつながっていった。

図2

イエバエのサナギ(左)。サナギ含有飼料は、成長性や体色などの面で、サナギを含まない魚粉飼料を上回った(右)

昆虫が飼育魚の病気を防ぐ

イエバエには、なんらかの魚類の免疫力を活性化する物質が含まれている。三浦教授らはイエバエを含め、13種類の昆虫について、魚類の免疫力への効果を調べた。その結果、多くの昆虫に魚類の免疫を高める効果があった。その中から効果が比較的高い、ウリミバエとヤママユのサナギから、免疫力を高める物質の単離と解析を進めた結果、どちらから得られた物質も、新しく発見された機能性の糖であることが明らかとなった。ウリミバエから得られたこの物質をディプテロース、ヤママユから得られたものをシルクロース®と命名した。

ディプテロースやシルクロース®を養殖現場で利用するには、大量かつ安価である必要がある。そこで人工的な生産量が少ないウリミバエ、ヤママユに代わり、ヤママユに匹敵するシルクロース®を含むカイコに注目した。カイコのサナギは、日本国内での生産は少ないものの、中国では生糸の副産物として大量に発生する。このためシルクロース®の原料としてカイコのサナギを利用し、商品化へ向けた様々な検証を進めた。

図3

カイコのサナギから新しい免疫を高める物質「シルクロース®」を発見

シルクロース®の事業化

シルクロース®0.1%を含む飼料で確かめたところ、ブリやマダイなどを用いた細菌およびウイルスの感染実験では、抗病性の明らかな向上が確認された。また成長性、表皮の免疫力アップ、ストレスの低減、身質の改善などの効能もはっきりと認められた。この研究開発成果は、養殖の課題解決や発展に寄与できることから、研究メンバーらが出資して事業化を行い、2012年、昆虫を利用した新しい養殖システムを創出するベンチャー企業「株式会社愛南リベラシオ」の設立に至る。

シルクロース®は2017年度より試験販売が開始され、魚粉の代替原料となる昆虫について、より廉価で大量生産する技術開発を行っている。

  • 図4

    試験販売を開始したシルクロース®

  • 図5