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環境エネルギー

森林の力で二酸化窒素を無害化!

樹木精油で空気浄化を実現

日本かおり研究所株式会社/大平辰朗(国立研究開発法人森林総合研究所 樹木抽出成分研究室長)
独創的シーズ展開事業・革新的ベンチャー活用開発「樹木精油を利用した環境汚染物質の無害化剤」開発実施企業/代表研究者 (H19-23)

日本の空気環境改善へ注目したのは「森の空気」

大気汚染の大きな要因のひとつである二酸化窒素(NO2)は、健康へ及ぼす悪影響も大きいと考えられている。気管支炎や肺気腫、ぜんそくなどのリスクを高め、多くの人が苦しむ花粉症もNO2と花粉のタンパク質が結び付くことで反応が強く出やすいという。

そこで、日本かおり研究所と森林総合研究所が最初に注目したのが「森の空気」だった。空気とかおりを研究する彼らにとって森の空気はまさに特別なものであった。これを利用して日本の空気環境を改善できないか、両研究所のこんな思いから始まったのが、樹木の葉から抽出した精油を利用する試みだった。森林総合研究所は、すでに幹の部分よりも葉の方が精油の含有量が多いこと、精油が有機化合物の一種を無害化することを突き止めていた。他にも樹木の精油で大気汚染物質の浄化機能があるのではと考えて、独創的シーズ展開事業・革新的ベンチャー活用開発として、森の間伐材を活用して、汚染された都市の空気を改善するプロジェクトがスタートしたのだ。

トドマツの精油が持つ圧倒的なNO2除去能力

彼らはまず、樹木の精油が持つ空気浄化能力を調査した。すると、トドマツの葉から抽出した精油が、NO2を除去する能力が圧倒的に高いことがわかった。トドマツに特に多く含まれるβ-フェランドレンやミルセンなどの成分が効果を発揮したのだ。ではなぜ精油がNO2を無害化できるのか。調査の結果、精油に含まれる成分が空気中のNO2と引き合って「凝集(粒子が寄り集まってより大きな集合体になること)」することがわかった。これは化学的に反応して別の物質になったわけではないが、こうなるとNO2は無害化される。しかも、紫外線や夏の高温下でもその効果はまったく変わることはなかった。

NO2の除去能力が高く、葉の精油含有量も多いトドマツの産地は95%あまりが北海道である。材料が集中していて産業化しやすいということもまた追い風になった。

樹木精油ガス(かおり)による二酸化窒素の除去能力比較
グラフ:樹木精油ガス(かおり)による二酸化窒素の除去能力比較
トドマツから抽出した精油は、ほかの樹木に比べて高いNO2除去能力を示した

省エネ&低コスト型の新抽出装置の開発に成功

こうして立ち上げられたのが「クリアフォレスト事業」である。これまでは廃棄されていた間伐材の枝葉を活用し、環境問題の改善を図ろうという画期的な試みだ。

最初に手がけたのが地域の連帯による「トドマツの枝葉の収集から抽出まで」の連続したシステムの開発だった。そのために、まず北海道釧路市にプラント(生産設備一式)を設営した。そして、トドマツの精油を効果的に抽出するため、今までの水蒸気蒸留装置とはまったく違う考え方の「マイクロ波減圧コントロール抽出装置」の開発を成功させた。この装置は抽出時間が短縮されるだけではなく、抽出温度や圧力の調整も簡単にできる。水蒸気蒸留ではないので、排水もなく手間がかからない。まさに省エネ&低コスト型の抽出装置なのだ。精油を抽出した後に残った葉にも脱臭効果があるので、消臭活性剤としての展開も今後期待できる。

森の資源を有効活用し持つ力をすべて使い切る。これは日本の森を再生させる、という面でも類を見ないシステムと言えそうだ。

釧路の拠点にあるトドマツの森
画像:釧路の拠点にあるトドマツの森
右下はトドマツから抽出された精油
マイクロ波減圧コントロール抽出装置
画像:マイクロ波減圧コントロール抽出装置
水を加えず、植物内の水分を使うため、抽出後の排水がない。また減圧コントロールを可能にしたため、成分を選択的に抽出することができる

事業展開もスタート!農林水産大臣賞他を受賞

このトドマツの精油を原料とした空気浄化剤(溶液)や自動車用空気浄化剤はエステーからブランド名「クリアフォレスト」としてすでに事業展開されている。私的空間の空気の改善はもちろんのこと、病院や介護施設、スポーツ施設、官公庁関連施設などパブリックスペースでの空気浄化システムとしての導入も始まっている。

そして、日本かおり研究所と森林総合研究所は、2014年には産学官連携活動において大きな成果を収めた事例に対してその功績を称える、第12回産学官連携功労者表彰「農林水産大臣賞」を受賞。さらに2015年には技術分野で権威のある「第40回 井上春成賞」を受賞した。新たな空気浄化剤開発の成果はもちろんのこと、民間企業、公的機関、そして北海道など地域との連携ネットワークを作り上げたことが大きな評価を受けたのだ。今後は、国内はもとより、環境汚染が進む中国や森林破壊が進むアジア諸国での事業展開にも期待が寄せられている。

トドマツ精油を使った空気浄化剤の商品化例
画像:トドマツ精油を使った空気浄化剤の商品化例
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