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社会技術・社会基盤

レーザー技術で打って聞く

コンクリート内部を遠隔で高速検査

画像:緑川 克美
緑川 克美(理化学研究所光量子工学研究領域 領域長)
SIP
インフラ維持管理・更新・マネジメント技術
「レーザーを活用した高性能・非破壊劣化インフラ診断技術の研究開発」 研究責任者(H26-)

コンクリートの社会インフラをどう守るか

わが国には、トンネルや橋など、コンクリートを使った社会インフラが多数ある。その多くは高度経済成長期に建設された物で、現在高経年化が懸念されている。

これらのインフラをより長く維持して利用していくためには、適切な保守メンテナンス管理技術が不可欠だ。また、その技術は、維持管理・更新のコストを押さえつつ、従事する人材不足の深刻さも緩和するものでなくてはならない。損傷を早期に発見して補修する、予防的な維持管理を可能にする技術開発が今求められているのだ。内閣府総合科学技術・イノベーション会議が司令塔となって推し進めている「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の課題の一つである「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」では、国内の第一線で活躍する研究者らがこの難題に取り組んでいる。

この課題には、5つの研究開発項目がある。その内の1つが「点検・モニタリング・診断技術」だ。本項目の研究開発課題「レーザーを活用した高性能・非破壊劣化インフラ診断技術の研究開発」の研究責任者を務める理化学研究所 緑川克美領域長らと共同研究グループ(量子科学技術研究開発機構、日本原子力研究開発機構、レーザー技術総合研究所)は、旧来の方法とは一線を画す新しい検査技術を確立しようとしている。レーザーを使って、高速でトンネルコンクリートの健全性を検査するという試みだ。

レーザーでたたいた音をレーザーで聞き分ける

トンネルの場合、コンクリート内部に「ひび割れ」や「浮き」などの欠陥があると、崩落事故のような深刻な事態につながる可能性がある。そのため定期的な検査で欠陥を確実に検出し、切除・補修をしなくてはならない。しかし、トンネルは車道や鉄道など、さまざまなところにあり、その数は膨大だ。

現在の検査方法は、打音法と呼ばれるものが主流だ。熟練の検査員がハンマーでコンクリートをたたき、その際に発生する音の違いで健全性を診断していく。しかしこの打音法は検査速度が遅く、膨大な数のトンネル検査には多くの時間を要してしまう。しかも接触式の検査なので検査員に危険も伴うため、以前より、高速かつ非接触の検査技術の開発が望まれていた。

そこで考案されたのが、「レーザー欠陥検出法」と呼ばれる新手法である。レーザーを使ってコンクリート内部の欠陥を遠隔・非接触で検出する手法であり、「振動励起レーザー」と「レーザー計測システム」という2つのレーザー技術を用いることが特徴だ。

「振動励起レーザー」は、強いレーザーをトンネル内壁にパルス照射することで、ハンマーでコンクリートをたたくようにコンクリート表面に振動を与えることができる。「レーザー計測システム」は、そのコンクリート表面の振動の様子をレーザーの反射の具合で調べ、ちょうどハンマーで表面をたたいたときの音色を耳で聞き分けるように、特異な振動成分が混ざっていないかどうかを検出するのだ。

この方法の原理については、JR西日本、鉄道総合技術研究所、レーザー技術総合研究所の共同研究チームが実証している。しかし、現状では計測の速さが2秒間に1回程度に限られており、さらなる検査速度の向上が望まれていた。そこで緑川 領域長らの合同研究グループが、この高速化に取り組んだのである。

レーザー欠陥検出法(イメージ)
レーザー欠陥検出法(イメージ)

内部の欠陥を50倍の速さで検出する技術

トンネルコンクリートの検査を高速化するには、1秒間に何十回という高い頻度でレーザーパルスを発生させる必要がある。従来の技術では、高速動作に伴う熱の影響で、レーザーの品質が低下し、数メートル離れた検査対象をレーザーでたたけなくなる。そこで、緑川領域長ら合同研究グループは、熱のゆがみを低減させる専用の水冷機構を組み込んだ「光増幅器」や関連装置を開発した。これにより、最大1秒間に50回(50 Hz)の高速動作が可能な振動励起レーザーを作り出せるようになった。

また、高速でトンネル内のコンクリートを検査するには、検査領域内にレーザーを正確に素早く導いてスキャンする必要がある。緑川 領域長らは「ガルバノ鏡」と呼ばれる、電流の調整で高速かつ精密に動きをコントロールできる特殊な鏡を用いることとで、振動励起レーザー光とレーザー計測システムのレーザー光の両方を高速かつ正確にスキャンできるしくみを開発した。

この2つの開発に加えて、振動計測や欠陥判定についても計算手順等を改良することで高速化した。これらの技術を組み合わせることで、計測から欠陥判定・結果表示までをリアルタイムで行うことが可能な「高速掃引レーザー計測システム」を作り上げたのだ。そして、従来の方法の50倍の早さに相当する1秒間に25回(25Hz)の速度で、コンクリート内部のひび割れなどの欠陥をレーザーで正しく検出することに世界で初めて成功した。

高速掃引レーザー欠陥検出装置(概略図)
高速掃引レーザー欠陥検出装置(概略図)
高速動作が可能な振動励起レーザー用の光増幅器(外観写真)
高速動作が可能な振動励起レーザー用の光増幅器(外観写真)
高速掃引レーザー計測システム(外観写真)
高速掃引レーザー計測システム(外観写真)
高速動作が可能な振動励起レーザー用の光増幅器(外観写真)
コンクリート供試体の健全性を診断した結果
高速掃引レーザー欠陥検出装置を用いて、模擬的な欠陥を埋め込んだコンクリート供試体の健全性を診断した。黒点が検査箇所を表し、コンクリート内部に欠陥がある場合には、特定の振動(卓越振動)周波数が強く観測された。

精度の詳細な検証と確認で検査の高速化へ

実際のトンネル内部には、深さ・形状・大きさなどさまざまなタイプの欠陥がある。今後は、検出精度の詳細な検証と確認を積み重ねながら、これまでの打音法で蓄積された多様な欠陥に関わる音の膨大なデータベースと、このレーザー欠陥検出法で得られる振動データを関連付けることで、打音法と互換できる遠隔・非接触の検査技術の確立を目指す。

この事業で開発されたレーザー欠陥検出法は、検査の自動化も可能なので、検査の効率化や低コスト化に寄与するとも考えられている。さらに将来的にはトンネルのみならず、いろいろな建築物を遠隔・非接触・高速・安全にも検査できる技術になることが期待されているのだ。

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