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社会技術・社会基盤

支援の輪を広げるために

発達障害者の要支援度を評価

画像:船曳 康子
船曳 康子(京都大学大学院 人間・環境学研究科 准教授)
RISTEX
研究開発成果実装支援プログラム
「発達障害者の特性別評価法(MSPA)の医療・教育・社会現場への普及と活用」 実装責任者(H26-29)

支援が難しい発達障害の要支援度の評価

生まれつき脳の機能の一部に特性があることで、人とコミュニケーションが取れなかったり、行動するときに偏りがあったりして、社会生活に困難が伴う人がいる。「発達障害者」と呼ばれる人たちだ。

この発達障害は、生まれつきの特性で病気とは異なり、接し方の工夫や環境の整備など適切な支援があれば社会生活の支障を軽減することが出来る。しかし放っておくと学校や会社などで対人関係をうまく築けず、いじめの原因に繋がることや、うつ病や神経症など心の病気(精神障害)を発症してしまうこともあるのだ。つまり発達障害は子どもの時に分かることが多いため、早い段階での支援が重要なポイントとなる。

ただ、発達障害は、自閉症、アスペルガー症候群、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害、チック障害などいくつかのタイプに分かれ、複数のタイプが同時に現れることも多い。その現れ方は人それぞれ。必要な支援がどれぐらいなのか、基準を設けて評価するのが難しい。また、医師、心理士、精神保健福祉士、作業療法士、研究者などさまざまな他の職種のスタッフや地域間での共通理解がしにくく、支援の輪が広がらない面もある。2004年に発達障害者支援法が制定されて、支援センターの設立や診断書に基づいた支援制度などの枠組みが整ってきたが、個人差への対応は、その複雑さから試行錯誤が繰り返されてきた。

そこで、船曳康子准教授はこの問題を解決すべく、発達障害の要支援度評価尺度「MSPA(Multi-dimensional Scale for PDD and ADHD)」を作成した。この評価法を医療や教育などの社会現場に普及できれば、評価基準を一つにすることができ、関係者が共通言語 を持てるため、支援の輪を広げることが可能だ。JSTは、研究開発成果などを活用・展開し、社会の具体的な問題を解決する取り組みを支援する社会技術研究開発センター(RISTEX)で、船曳康子准教授らの取り組みを「研究開発成果実装プログラム」で支援した。

特性別に5段階で評価しレーダーチャートで表示

MSPAという評価法は、個人差が大きい発達障害者 の要支援度を特性別に細かく評価し、本人や支援者に一目で分かるレーダーチャートとして表示するものだ。既存の診断目的の評価法は、主に診断の妥当性を重視するが、このMSPAは支援を目的とするのが大きな特徴である。具体的には、発達障害者の要支援度を特性別に5段階で評価し、図示する。包括的な多軸評価にすることで、生活現場でのニーズに直結した「支援」を見えやすくするのだ。

この評価法が広く活用されるようになれば、さまざまな有効性が生じると期待される。例えば、多様な発達障害者に対する支援の基準を公平化できる。また、この評価法をベースにすれば、さまざまな職種や他の地域と連携する時の共通言語ができ、支援の迅速化や待機期間の緩和を図ることも可能だ。そしていじめや引きこもり、就労問題などの社会問題の緩和や、発達障害に対する理解を促進することで人材育成を図ることも容易になっていくと考えられる。更には、うつ病や神経症など二次障害の予防に繋がることや、この評価法では「障害」という表現を用いておらず、偏見の緩和に役立つことも期待できるのだ。

図1

MSPAを教育や医療の現場で展開していく

発達障害の特性に由来する社会問題の解決には、医療・教育・社会をまたぐ支援の輪が不可欠となる。支援者の間でこの評価法を共有できれば、効果的な支援・連携モデルの構築が可能となるはずだ。

船曳准教授らは、関係者を巻き込んで、発達障害者のライフステージごとの評価支援マニュアルを策定しようと取り組んだ。同時に、定期的な講習会を開催して、この方法で評価できる専門家を各地で育成した。さらに、医療保険が認定されることも目指してきた。

活動としては、はじめに教育・社会関係では、幼児版、小学生版、中学生版、高校生版、就労支援版の評価支援マニュアルを作成するために、それぞれの関係者によるワーキンググループを立ち上げた。次に学校などでの現場のニーズを調査し、行動観察の項目や支援における留意点について整理することで、年齢層別MSPA評価支援マニュアルの草案を作り出していった。

医療機関には、このMSPAが医療保険に適応されることを目指し、まずは情報収集を実施した。そして、関係者との連携や協議、専門学会の診療報酬委員会などへの提案を通して、学会として推薦する流れが生まれた。また、さまざまな職種のスタッフ が、この評価法を用いて、発達障害者に対する要支援度の評価を基本的には30分で施行できるようにした。

MSPAの保険収載と今後の展開

 船曳准教授らは、さまざまな専門学会を通して、MSPAによる評価が診療報酬として承認されるように活動を展開していった。さらに、国内各地でMSPAの研修会や講習会、シンポジウムを開催してきた。このような努力の積み重ねが実り、ついに2016年4月1日よりMSPAが保険収載となった。

医療・療育など多職種での速やかな連携を可能としたことは、今後、当事者と周囲の双方に大きなブレークスルーをもたらすに違いない。船曳准教授らは、これからも精神科医や教師、保健福祉業務に従事する自治体の職員等への理解普及の活動を展開していく。

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