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ナノテクノロジー・材料

ナノ構造の半導体で

テラヘルツ光源を開拓する

画像:淺田 雅洋
淺田 雅洋(東京工業大学 教授)
産学共創基礎基盤研究プログラム
「テラヘルツ波新時代を切り拓く革新的基盤技術の創出」
「共鳴トンネルダイオードによる超小型・高効率の室温テラヘルツ発振器の研究」研究リーダー(H23-27)

テラヘルツのギャップを乗り越える試み

電波と光の中間にある1THz前後の周波数はテラヘルツ帯(あるいはサブミリ波帯、遠赤外)と呼ばれ、これまでは未開拓な領域だった。半導体デバイスにおいて、テラヘルツ波を発生できる光源や検出器は、まだ十分には開発されていない。研究者の間では、テラヘルツギャップとも言われている。

近年、この周波数帯の光源が、超高速の通信や情報処理、イメージング、分光分析、計測など、とても広い分野で応用できることが明らかになり、盛んに研究されるようになっている。テラヘルツ周波数帯の光源の開発は、産業界では大きなポイントの一つとなっているのだ。

JSTは、産業界で共通する技術的課題に対して、解決に資する大学などによる基盤研究を推進するため「産学共創基礎基盤研究プログラム」を実施している。このプログラムの中で、淺田雅洋教授がテラヘルツ周波数帯の光源の開発で大きな成果を出している。半導体デバイスである共鳴トンネルダイオードを用いて、1.92THzの波を出すことに成功したのだ。

図1

周波数1THz周辺には満足な光源がなく谷間になっており、テラヘルツギャップと呼ばれている。現在、室温で1THzを超える周波数を単独で発生できるのは共鳴トンネルダイオードしかなく、テラヘルツギャップを埋める素子として期待されている。

共鳴トンネルダイオードで室温テラヘルツ発振に成功

テラヘルツ帯の高性能な光源や検出器を実現するには、ナノメートルオーダーで極微細構造の半導体を作り出すことが、有力な方法の一つだと考えられている。電子の走行時間を大幅に短縮するとともに、ナノ構造によって生じる新たな電子物性を引き出すのだ。

淺田教授らは、テラヘルツ波に対する半導体ナノ構造の新しい現象の追求や、ナノ構造による高性能テラヘルツ発振・検出デバイスの実現を目指して、研究を進めてきた。そして、ナノ構造の半導体素子の一つである共鳴トンネルダイオードを用いて、電子デバイスでは初めての室温テラヘルツ発振に成功した。ただ、まだ出力が小さいため、高出力化やさらに高い周波数での発振を目指して、研究が続けられている。

この他にも、淺田教授らは、テラヘルツ検出デバイスやその集積回路など、新しいテラヘルツデバイスを目指した研究も展開する。テラヘルツ波が使えるようになれば、数十〜百Gビット/秒の超高速無線通信が可能となるはずだ。このような無線通信応用を目指して、新しい原理のテラヘルツ変調素子や、それらを集積したデバイスの研究にも着手している。

図2
共鳴トンネルダイオードによる、電子デバイスで初めての室温テラヘルツ基本波発振。左は素子構造。右は発振スペクトル。

高周波・高出力化から無線伝送まで多くの成果

淺田教授らがテラヘルツ光源の開発を通して得た成果は、数多くある。まず、高周波化に成功したことだ。無線通信用アンテナの一種である微細スロットアンテナと、共鳴トンネルダイオードを集積したコンパクトなテラヘルツ発振器を作製した。これによって共鳴トンネルダイオードの電子遅延の短縮と、アンテナ損失の低減を実現し、半導体電子デバイスでは最高周波数の1.92THzの室温発振に成功した。また、アンテナ構造の最適化などで高出力化を可能にして0.62THzで0.61mWなど、この周波数帯では単独発振器として最高となる出力を得たのである。

シリコン半球レンズが不要な発振器も開発した。これまでの方法で使われてきたシリコン半球レンズは、高い指向性を持つものの、大型であったり、光軸調整が必要であったり、表面で損失が生じたりなど、短所が多々あった。これに対して、シリコンレンズの装塡(そうてん)が不要なアンテナを集積した発振器を提案し作製したところ、高指向性・高出力の見通しを得る事ができた。

周波数の可変機能を作り出すことにも成功した。容量値が可変なダイオードの一種であるバラクタダイオードを、共鳴トンネルダイオード発振器に集積することで、電気的な周波数変化が可能となる発振器を作製できた。この発振器は、単体素子で0.78〜0.9THz、4素子集積アレイで0.58〜0.9THzの周波数を引き出せる。この素子は、有機物の吸収スペクトル測定に応用できた。また、多素子集積アレイは、1THz以上の広い可変幅や、分光分析用の超小型集積チップが可能だ。

出力の高速直接変調が可能な共鳴トンネルダイオード発振器の構造も考え出し、バイアスの変調により、30GHzまでの高速変調を得た。この特性は、種々の測定や高速通信に有用で、応用の一つとして30Gbpsの無線伝送を行にも成功した。

図3
通信用に作製した共鳴トンネルダイオード送信モジュール(左)。右は、共鳴トンネルダイオードおよびショットキーバリアダイオードを用いた送受信系。

テラヘルツ分野におけるキーデバイスの開発へ

共鳴トンネルダイオードの特長は、室温での動作が可能なことと小型という点だ。また、テラヘルツ波の特長は、物質の透過性と物質識別のための指紋スペクトルの存在が両立する0.8〜2.4THz帯であることだ。社会実装において、共鳴トンネルダイオードによるテラヘルツ波に関わる技術は、例えば空港での不審物チェックなど、さまざまな用途が期待される。

淺田教授らは引き続き、テラヘルツ波のさまざまな応用においてキーデバイスとなる超小型・高効率光源の実現を目指す。今後は、共鳴トンネルダイオードとアンテナ構造の最適化で、周波数2THz・出力1mWを超える発振や、シリコンレンズを用いない超小型・高指向性の発振器の実現し、そして周波数可変素子の可変拡大と分光分析チップの構成、高周波(〜100GHz)の高速直接変調、高性能化した発振器の応用展開などで、テラヘルツ分野に寄与していく考えだ。

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