JSTトップ > 事業成果 > ライフサイエンス > 食品ラップよりも薄く羽よりも軽い 生体と調和する有機デバイス

ライフサイエンス

食品ラップよりも薄く羽よりも軽い

生体と調和する有機デバイス

画像:染谷 隆夫
染谷 隆夫(東東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻 教授)
CREST
「プロセスインテグレーションによる 機能発現ナノシステムの創製」
「大面積ナノシステムのインタフェース応用」領域 研究代表者(H21-24)
ERATO
「染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクト」 研究総括(H23-29)
SICORP
「皮膚貼り付け型センサーによる高齢者健康状態の連続モニタリング」 日本側研究代表者(H28-30)

生体と調和する柔らかいエレクトロニクス

近年、情報通信・エレクトロニクス分野はめざましい発展を遂げている。ポータブルのセンサーやスマートフォンなどの電子機器を用いての健康管理も普及しつつあり、生体が発するさまざまな情報を読み取り、利用する技術に対する期待は大きい。しかし、これまでのエレクトロニクスは、ほとんどが無機の硬い材料でできており、柔らかい生体との適合性が低く、医療・バイオ分野への応用は限定的であった。このため、柔らかい有機材料を用いた生体と調和できるエレクトロニクスの開発が求められている。

JSTの戦略的創造研究推進事業総括実施型研究(ERATO)「染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクト」では、染谷隆夫教授らが生体とエレクトロニクスの調和が可能な次世代デバイスの開発に挑んでいる。

有機デバイスで体が出す情報を読み取る

染谷教授は、生体表面の動きに追従し、生体が発する情報を読み取る装置「生体プローブ」を実現しようと考えている。生体組織との密着性が増せば、細胞からの微細な電気信号を低ノイズで測定できる。この技術は、単なる健康状態をモニターするセンサーの開発にとどまらない。生体内への埋め込みが可能なバイオ有機デバイスも開発できれば、細胞間のネットワークを可視化できるようになる。生体プローブを応用しウェアラブルやインプランタブルなセンサーが実現できれば切り開く未来は無限大だ。

しかし、細胞などの生体組織は、硬い素材に触れると炎症反応を起こすことが多々ある。そこで染谷教授らは、柔らかくて、かつ生体と調和する有機半導体分子など分子性ナノ材料に着目した。この材料で作る機器「有機デバイス」は、ディスプレイ、照明、無線タグなどで研究開発が進められており、印刷による作成が可能で、柔軟な高分子フィルム上に容易に作り上げることができる。有機材料ならではの特異的な機能を生かせば、生体と調和し、融合する新しいデバイスを簡便な方法で開発できる。

ただ、そのままの形では、バイオ医療には応用できない。より生体に適合した有機材料を用いることが必須なため、特殊なインク(バイオインク)を新たに開発し、これで細胞に接する生体プローブの作製を進めている。

世界最軽量・最薄の柔らかい電子回路を開発

2013年、染谷教授らは、世界最薄(2 μm)で最軽量(3 g/㎡)の柔らかい電子回路の開発に成功した。厚さ1.2 μmの高分子フィルム上に作り込んだ高性能な電子回路は、厚さ2 μmと一般的なラップの5分の1の薄さだ。その重さは羽よりも軽い。しかも、くしゃくしゃに丸めても壊れない。

染谷教授らは、この技術を用いて、湿布のように体に貼り付けるだけで生体計測ができるシート型電子回路を実現した。高分子フィルムに、高性能な有機トランジスタの集積回路を作り、生体と直接接触する電極部分だけに粘着性のあるゲルを盛った。表面は粘着性があるため、ずれたり取れたりしない。計測対象となる人の皮膚やラットの心臓の表面に直接貼り付けたところ、皮膚や心臓の動きなどの生理電気信号を測定できた。また、世界で初めて高温の滅菌プロセスに耐え得る柔らかい有機トランジスタの作成にも成功しており、これらの技術を応用すれば、装着感のないヘルスケアセンサーや、ストレスフリーの福祉用の入力装置、医療電子機器用のセンサー、衝撃に強いスポーツ用のセンサーなど多方面で画期的な機器が開発できる。

  • 世界最薄かつ最軽量の柔らかい電子回路
    世界最薄かつ最軽量の柔らかい電子回路
  • 体に貼り付けられる生体計測用シート型電子回路
    体に貼り付けられる生体計測用シート型電子回路
    大きな歪みが加わっても、はがれたり壊れたりしない。

生体計測による生活の質の向上を目指して

染谷教授らが目指すのは、柔らかいエレクトロニクスで私たちの日々の暮らし、特にヘルスケア・医療・福祉などの分野に革新を起こすことだ。このため、プロジェクトでは多種多様な応用を模索している。

染谷教授らは、ワイヤレスで電力とデータを伝送できる、水分検出センサーシートの開発にも成功している。高効率の長距離ワイヤレス電力伝送と通信が可能なこのセンサーシートは、柔らかく、装着感も少ないことから、水分を検出して介護士に知らせるおむつなど衛生的な使い捨てセンサーへの応用が考えられているのだ。この原理は、温度や圧力など、さまざまなセンサーにも応用でき、ばんそうこうのように簡単に貼り付けるだけで多様な生体情報を衛生的にモニタリングできるセンサーなど、幅広い用途への展開が可能だ。

この他にも、肌に貼り付けられるほど柔軟で極薄の有機LEDや貼るだけで血中酸素濃度等の測定が出来るセンサーを作成するなど、次々に新たな成果を打ち出している。

さらに、1回のプリントだけで高い伸縮性と導電性を持つ微細なパターンを形成できる新型インクの開発にも成功している。このインクを用いてスポーツウェア用の布地両面に印刷し、腕に巻くサポータータイプのセンサーを試作したところ、微弱な筋電位を計測できた。いつでもどこでも筋電位を含むさまざまな生体情報を全身から同時に計測することができれば、服のように身につけられるウェアラブルデバイスとしてのさらに幅広い応用に繋がっていくだろう。

少子高齢化社会を迎える我が国では、国民の生活の質の向上や、医療コストの軽減が喫緊の課題になっている。このプロジェクトで開発したバイオ有機デバイスを最先端の情報基盤やエレクトロニクス技術に融合し、ヘルスケア・医療分野で活用することにより、少子高齢化社会に伴うさまざまな問題の解決が期待される。

超柔軟有機LED 〜貼るだけで人の肌がディスプレイに〜

超柔軟で極薄の有機LEDの大気中安定動作に成功。
厚さ3μm、曲げ半径100μm。赤、緑、青の出力を実現。
(Science Advances. doi :10.1126/sciadv.1501856)

  • ディスプレイ
    ディスプレイ
    折り曲げ自在で、皮膚のどこにでも直接貼りつけられる超柔軟有機LEDデバイス。貼るだけで簡単に人の肌をディスプレイにできる。
  • センサー センサー
    超柔軟な有機受光素子と組み合わせることで、超柔軟な血中酸素濃度/脈拍数・センサーとして、装着感の無い計測が可能。
図5
布地に印刷できる導電性インク
伸縮性のある布地にも、電極や配線を一度に印刷できる導電性インク。元の長さの3倍以上に伸ばしても導電性が保たれる。着るだけで筋電情報が計測できるセンサーを実現した。
図6
  • 前のページ
  • 一覧にもどる
  • 次のページ