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社会技術・社会基盤

国を越えた科学技術協力で、食糧問題の解決へ

最先端育種技術によるベトナムニーズのイネ品種開発

画像:吉村 淳
吉村 淳(九州大学 大学院農学研究院 教授)
SATREPS生物資源領域 「ベトナム北部中山間地域に適応した作物品種開発」研究代表者(H22-27)

日本のイネゲノム科学技術協力による食糧自給率の向上

ベトナムは近年目覚ましい経済発展を遂げているが、北部をはじめとする地方には未だ食糧不足や格差等の問題が残ったままだ。

特に北部の中山間地域の食糧自給率は低く、冷涼な気候のため一期作しかできない地域もあり、主食となるイネの収穫量は少ない。そのため、この地域の住民は、長年にわたって慢性的な食糧不足に悩まされてきた。そこで、短期間で育ち収穫量が多く病虫害に抵抗力のある新品種を、日本が得意とするイネゲノム情報を駆使した効率的なイネ品種改良法によって開発した。この地域で栽培技術体系の確立を目指すとともに、食糧自給率の向上という大きな目標を掲げ、ベトナムへの先端育種技術の普及に取り組んだ。

吉村教授がベトナムで活動を始めたきっかけは、20年前に遡る。当時、九州大学農学部とベトナム農業大学(旧ハノイ農業大学)とは、国際協力機構(JICA)が実施するODAを活用した技術協力プロジェクト(1998-2003)を通し、研究開発や人材交流において深い関わりがあった。そのため、確固たる研究ネットワークが構築され、両国の研究者の間には強い絆が育まれてきた。これらを基盤として、SATREPSのチャレンジがスタートしたのである。

図1

ゲノム情報を駆使し、次世代型イネの育種研究を展開

吉村教授は日本の先端的なDNAマーカー育種技術と、ベトナムの地理的好条件を巧みに融合し、将来的に他地域への波及効果が望める効率的なイネ育種システムの開発に成功した。このプロジェクトで構築した育種システムは、大量の戻し交配、DNAマーカー選抜、世代促進がコンパクトにまとまっており、機動性の高いものといえる。今後この育種システムは、ベトナムをはじめとするASEAN諸国の稲作ニーズに沿ったイネ育種に利用できると期待されており、もちろん実現すれば、その波及効果は大きい。

また、今回プロジェクトで構築した育種システムを用いて、九州大学と名古屋大学が提供する有用遺伝子とそのDNAマーカー情報をもとに、有用遺伝子を単独もしくは複数保有する短期生育・高収量・病虫害抵抗性の有望イネ系統を多数(約50系統)育成した。さらに、有望系統に適した栽培法の確立も行なった。

ベトナムのニーズにあったイネの改良に成功

開発した有望系統の品種登録に向けて、有望系統の栽培特性や生理生態学的特性の調査を行い、一部の系統では品種登録を終え着々と品種の普及が進んでいる。この品種化へのプロセスは、科学的な根拠ばかりではなく、行政、農民、種子供給者等を巻き込む大きな事業であり、社会実装への歩みが着実に進んでいる。

特に、このプロジェクトで開発した短期生育型イネ(生育の早い新品種)は、北部ベトナム地域の農家が抱えていたイネへの洪水・台風被害を軽減し、農業政策にも大きな影響を与えている。

SATREPSでは、研究主幹 (Research Supervisor) が研究推進の節目において指導・助言を行っている。吉村教授は、プロジェクトスタート時における現地での研究主幹によるアドバイスが、その後の国際共同研究の着実な推進に非常に役立ち、JICAのODAの枠組みによる現地支援とJSTの科学技術研究支援という、これまでにない画期的なしくみが、効果的に機能したという。

現地での様子
(左)現地での選抜の様子 (右)農民への普及の様子

地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)

SATREPS(サトレップス)は、開発途上国のニーズを基に、地球規模課題を対象とし、社会実装の構想を有する国際共同研究を政府開発援助(ODA)と連携して推進するプログラム。

本プログラムでは、地球規模課題の解決及び科学技術水準の向上につながる新たな知見や技術を獲得することや、これらを通じたイノベーションの創出を目的としている。また、その国際共同研究を通じて、開発途上国の自立的研究開発能力の向上と課題解決に資する持続的活動体制の構築を図っている。
(2008年4月以降、世界46ヶ国で115プロジェクトを採択)

地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)課題一覧
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