拠点事業紹介

iPS拠点事業

研究課題名

ヒト iPS 細胞等を用いた次世代遺伝子・細胞治療法の開発

実施体制

研究代表者
中内 啓光 (東京大学 医科学研究所 幹細胞治療研究センター センター長)
分担代表研究者
牛田 多加志 (東京大学 大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 教授)
宮島 篤 (東京大学 分子細胞生物学研究所 機能形成研究分野 教授)
道上 達男 (東京大学 大学院 総合文化研究科 准教授)
実施体制説明図

研究成果・進捗

達成目標
東京大学では、医科学研究所において平成20年度に発足した幹細胞治療研究センターを中心に、医学系研究科・医学部附属病院、分子細胞生物学研究所、総合文化研究科の4部局による研究協力体制を整え、特に医科学研究所附属病院、医学部附属病院という二つの病院を研究組織に組み込むことで、前臨床試験を前提とした研究を強力に推進する。患者から高品質ヒトiPS細胞を樹立するシステムの構築や、血球(血小板・赤血球など)、骨、膵臓、神経、平滑筋といった多臓器への効率的分化誘導法の確立を目指し、以下の達成目標を設定した。
(1) ヒトiPS細胞樹立のためのソースの選定ならびに安全で効率の良い樹立法を開発する。
(2) 患者検体より高品質ヒトiPS細胞を作製する。
(3) iPS細胞をヒトの治療に用いるための安全性確保のシステムを開発する(図1)。
(4) ヒトiPS細胞から種々の組織(血球、骨・軟骨、骨格筋、血管平滑筋、肝臓、膵臓、神経等)を構成する機能的細胞へ効率良く分化させる方法を確立する。
(5) 疾患・損傷治療モデルを用いてiPS細胞の有用性・安全性を明らかにする。
(6) センター内に細胞プロセッシング室と幹細胞樹立ユニットを設け、研究者からの要請に応じてiPS細胞を始めとする各種幹細胞の分離培養、臨床応用に向けた細胞プロセッシング法の開発、安全性の検討、遺伝子導入ベクターの準備などを行なう。
成果概要
(1) ヒトiPS細胞樹立のためのソースの選定ならびに安全で効率の良い樹立法の成果として、
(1) 臨床応用に適した高力価レトロウイルスベクター産生システムであるウイルス産生安定株の樹立に成功し ( 図2 )、臍帯血、骨髄血液細胞、末梢血からのヒトiPS細胞の樹立方法を確立した。
(2) ヒトES細胞で得られた無血清、無フィーダー、合成ハイドロゲル等による培養技術をヒトiPS細胞に適用し、樹立および未分化性の維持に成功した。
(2) 患者検体より高品質ヒトiPS細胞を作製の成果として、本計画の推進の中心をなす東京大学ステムセルバンクを医科学研究所内部に整備し、3疾患(ADA欠損症、無巨核球性血小板減少症、DiGeorge症候群)については、疾患特異的iPS細胞の樹立に成功した。
   
(3) iPS細胞をヒトの治療に用いるための安全性確保のシステムの開発の成果として、
(1) 臨床応用に適した高力価レトロウイルスベクター産生システムであるウイルス産生安定株の樹立に成功。
(2) 薬剤依存性の細胞自殺システムをiPS細胞に導入し、マウスモデルにおいて奇形腫の発生を予防できた。
(3) 複数のヒトiPS細胞株を用いた高密度SNPアレイによるゲノムの安定性の網羅的評価により、樹立・継代により一定の頻度でゲノムコピー数の異常な領域を生ずるクローンが出現することを確認した。
   
(4) ヒトiPS細胞から種々の組織(血球、骨・軟骨、骨格筋、血管平滑筋、肝臓、膵臓、神経等)を構成する機能的細胞へ効率良く分化させる方法の確立の成果として、
(1)ヒトiPS細胞から各種血液細胞(血小板、赤血球、肥満細胞)へ分化誘導することに成功した(図3)。
(2) マウスiPS細胞からインスリン産生膵島(β細胞)への分化誘導を確認し、ヒトiPS細胞からの誘導も低頻度ながら確認した。
(3) 平滑筋についてインディケーターマウスからのiPS細胞の樹立に成功した。さらに平滑筋細胞の分化誘導も確認した。
(4) 骨・軟骨分化をモデルとした分化誘導系の開発に向けた検討を行った。物理的刺激、特に静水圧により軟骨細胞への分化が促進された。また軟骨分化誘導に有効なスフェロイドをコラーゲンゲル内で培養することにより長期培養が可能であることがヒトiPS細胞で確認された。
(5) iPS細胞由来神経幹細胞から効率よくニューロンに分化させることを目的とし、ニューロン分化能をマウス脳発生時期特異的に制御する分子機構の一端を解明した。
(5) 疾患・損傷治療モデルを用いてiPS細胞の有用性・安全性を明らかにすることの成果として、
(1) 1個レベルの血小板の成体内部での挙動の観察を可能とするin vivo imagingシステムを開発した。これを応用した新規の生体内血栓形成評価系を構築し、ヒトiPS細胞由来の血小板の血小板減少症マウスモデル生体内での機能を評価することに成功した。
   
(6) 細胞プロセッシング室と幹細胞樹立ユニットを設置に対する成果として、平成20年に発足した東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター内に、幹細胞プロセッシング部門(責任者:辻 浩一郎)と幹細胞樹立ユニットであるステムセルバンク(責任者:江藤浩之)を設置した。

今後の計画

(1) iPS細胞に関する標準化(プラットフォーム事業の継続)
末梢血液細胞など、非侵襲的に容易に採取できる細胞をソースにしてiPS細胞を樹立する技術開発とともに、本iPS細胞標準化プラットフォーム技術構築において得られた成果については4拠点間で密接に連繋・協議し、適切と判断されるクライテリアを選定することによって、標準化、品質管理の国内基準の制定を目指す。
   
(2) 樹立されたiPS細胞の各種長期培養におけるプロスペクティブなゲノム安定性の総合的評価
iPS細胞に関する培養技術の標準化および臨床応用に向けた安全性強化技術の確立に供することを目的として、同一のiPS細胞株について種々の条件下に培養を行い、高密度SNPアレイ等を用いてプロスペクティブにゲノム安定性を比較検討する研究を開始する。
   
(3) iPS細胞を臨床応用するための各種細胞への分化誘導システムの確立
血液細胞(造血幹細胞、血小板、赤血球、肥満細胞、Tリンパ球)、内分泌系(成熟膵臓細胞誘導による膵島の形成)、骨・軟骨、血管(血管平滑筋)、神経(ニューロン)をiPS細胞から作成する分化誘導システムを確立する。
   
(4) iPS細胞から誘導した分化細胞による前臨床研究推進のためのモデル開発
生体内評価系の確立のため、最終的には次年度以降にラットやウサギなどの中型動物以上を用いたin vivoでのiPS細胞由来細胞の挙動を確認する技術開発を目指す。
   
(5) iPS細胞の臨床応用における安全性強化技術の確立
   
(6) 各種ソースから樹立される健常人および疾患特異的iPS細胞の樹立・保存・供給システムの整備・運営 
   
(7) iPS細胞の基本的な培養技術講習会・培養トレーニングプログラムの実施

リンク情報

ヒトiPS細胞等研究拠点整備 東京大学
http://www.ips-u-tokyo.org/