個別事業紹介

幹細胞治療開発領域

研究課題名

脳室周囲白質軟化症の幹細胞治療の実現化

目 的

 現在の再生医療の研究は高齢者の疾患を対象としたものが多いが、組織中に幹細胞を豊富に含み発達過程にある新生児の疾患は、再生医療の実現が特に期待できる対象であると考えられる。未熟児新生児における脳性麻痺の主原因である脳室周囲白質軟化症(PVL)は、脳の未熟性に加え周産期の低酸素虚血が原因となって生じる新生児脳疾患であるが、現在根本的な治療法は存在しない。本研究では、研究代表者が明らかにした脳室下帯神経幹細胞による神経再生機構と、長年名古屋市立大学で培われてきた本疾患の臨床・基礎の知見を結集し、内在性幹細胞の活性化・細胞移植により、本疾患に対する再生医療の実現化を目指す。

実施体制

研究代表者
澤本 和延 (公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 教授)
実施体制説明図
 名古屋市立大学の臨床・基礎教室の連携によって本研究を遂行する。
 澤本 和延(研究代表者,再生医学分野)・戸苅 創(新生児・小児医学)らは、PVLの臨床所見に基づき適切なモデルマウスを作製し、内在性幹細胞を用いた再生法について検討する。
 飛田 秀樹(脳神経生理学)・浅井 清文(分子神経生物学)らはiPS細胞を用いて移植細胞の調整法を確立し、モデルマウスへの細胞移植による治療法について検討する。中西 真(細胞生化学)らは、移植細胞の腫瘍化防止操作を確立し、その効果をモデルマウスにおいて検証する。
実施体制

概 要

脳室周囲白室軟化症の幹細胞治療技術の開発を行う。
(1) 内在性神経幹細胞によるPVL治療法の開発
既に確立しているラットPVLモデル作成方法を応用して、マウスPVLモデルを作成し、以下の解析を行う。
・PVLモデルマウス脳の傷害部における各種細胞の脱落・増殖とその経時的変化、傷害後の脳室下帯における細胞産生・移動とニューロン・オリゴデンドロサイトへの分化の変化について、各種細胞マーカーに対する抗体を用いた染色により解析する。
・各種ウィルス・遺伝子改変マウスを用いた領域/細胞種特異的な細胞標識法により、再生に関与する細胞を同定する。
・再生に寄与する細胞を産生する幹細胞・前駆細胞の増殖・移動や、新生細胞の分化・生存を促進する分子を、脳室下帯初代培養細胞を用いた低分子化合物のスクリーニングによって検索し、その再生促進効果をPVLモデルマウスを用いて検討する。
・コモンマーモセット低酸素・虚血モデルを作成し、脳内における細胞の増殖・移動・分化への影響を各種細胞マーカーに対する抗体を用いた染色により解析する。
   
(2) iPS細胞由来神経系細胞の移植によるPVL治療法の開発
慶應義塾大学生理学教室で行われているiPS細胞からの神経幹細胞の誘導方法を習得し、名古屋市立大学において培養技術を確立して、ドナー細胞としての適性を評価する。
・低酸素虚血によってPVLモデルを作成し、細胞移植を、様々な移植時期、投与方法により実施する。
・(3)で作製された腫瘍化防止処置を施したiPS細胞について、モデルマウスに移植を行い、腫瘍形成の有無を評価する。またこの細胞において、再生に関わる細胞機能に変化が生じていないか検討を行う。
(3) 腫瘍化防止技術の開発
未分化iPS細胞に強制的な早期老化形質を導入し、移植後の腫瘍化を防止する。

平成20年度の計画と目標

(1) 内在性神経幹細胞によるPVL治療法の開発(澤本・戸苅)
・マウス新生仔の正常脳における脳室下帯・脳室周囲白質の発達の組織学的解析
・PVLモデルマウスの作製と、その傷害部の組織変化の解析
・傷害後の脳室下帯における神経幹細胞・前駆細胞の増殖・移動の解析
・マーモセットの飼育準備と新生児正常脳の脳室下帯・脳室周囲白質の組織学的解析
   
(2) iPS細胞由来神経系細胞の移植によるPVL治療法の開発(飛田・浅井)
・iPS細胞からの神経前駆細胞・オリゴ前駆細胞の誘導法を検討
・PVLモデルマウスに作製した細胞を移植し、移植細胞の生存・分化について免疫組織染色により定量的に解析を行い、移植細胞の種類・移植時期・移植部位・移植法を検討
   
(3) 腫瘍化防止技術の開発(中西)
・iPS細胞に老化誘導遺伝子を導入し、iPS細胞への老化形質誘導能を培養細胞を用いて解析

リンク情報

名古屋市立大学大学院医学研究科再生医学分野
http://k-sawamoto.com/