個別事業紹介

幹細胞治療開発領域

研究課題名

iPS細胞由来血管前駆細胞を用いた新規血管再生医療の展開研究

研究目的・概要

高齢化社会の到来により、虚血性心疾患・閉塞性動脈硬化症などの患者数は顕著に増加している。通常はバイパス手術やカテーテルによる血管内治療を行うが、このような治療が不可能な重症例も増加している。このような症例に対して、虚血部周辺の組織から血管再生や側副血行路の発達を促し、虚血領域とその周辺組織の血流を改善し、組織障害や壊死を軽減させる新しい治療に「血管新生療法」がある。
本研究ではマウスiPS細胞から血管前駆細胞(Vascularo progenitor cell:VPC)を分化誘導し、さらにこれらの細胞から内皮前駆細胞 (Endothelial progenitor cell: EPC)および血管平滑筋前駆細胞(Vascular smooth muscle progenitor cell: SMPC)の分化誘導を行う。これらの細胞群を用いた新規の血管再生療法、我々が開発してきた磁気ビーズと磁場を利用した細胞シートの作製とシートによる虚血心筋の血管新生療法、ならびに小口径動脈グラフトの開発(Tissue engineering)などを行う。

実施体制

研究代表者
室原 豊明 (名古屋大学 医学系研究科病態内科学講座 教授)
分担代表研究者
柴田玲 (名古屋大学医学部循環器内科特任講師)
実施体制説明図 実施体制

最新の研究成果・進捗状況

(1)iPS細胞由来血管前駆細胞の分化誘導方法の検討
将来のiPS細胞の臨床応用を考えたとき、大半の患者は高齢者である事が予想される。この点、高齢者の体細胞から作られた iPS細胞と、若年者から作られた iPS細胞は、血管再生に関して同程度の機能を保持しているか否か、が一つのポイントとなる。そこで、胎児由来iPS細胞 (Young-iPS 細胞)と20ヶ月マウス由来iPS細胞 (Old-iPS 細胞) (文献1)を用いて、iPS細胞からの血管前駆細胞分化誘導効率の比較検討を行った。 その結果、我々の血管前駆細胞への分化誘導法を用いると、Old-iPS 細胞を用いても、血管前駆細胞への分化誘導は、Young-iPS 細胞と同程度の機能を保持し得ることが明らかとなった。
(2)iPS由来血管前駆細胞の血管新生能と安全性の検討
ヌードマウスに下肢虚血モデルを作製し、Young-iPS細胞とOld-iPS細胞由来Flk-1陽性細胞を虚血側にそれぞれ細胞移植したところ、Old-iPS細胞由来flk-1陽性細胞移植群は、Young -iPS細胞由来Flk-1陽性細胞移植群同様に、下肢虚血側の血流改善を有意に認めた(文献2)。また、細胞移植を行っても、移植後90日間に奇形種の形成は認められなかった。
(3)iPS由来血管前駆細胞の細胞シート化の実用化検討
上記(1) (2)で示したごとく、老化マウス由来のiPS細胞で、血管新生効果を確認し得た。そこで、より効率的、かつ効果的な細胞移植法の作成に着手した。我々は、名古屋大学が有する磁気シート工学技術(文献3,4)とコラーゲン包埋法を組み合わせることにより、iPS 細胞由来Flk-1陽性細胞の多層(10-15層)シート作製に成功した(図1参照)。
次に、ヌードマウスに下肢虚血モデルを作製し、iPS 細胞由来Flk-1陽性細胞シートを虚血側に移植したところ、iPS 細胞由来Flk-1陽性細胞シートは、有意に下肢虚血側の血流の改善を認めた(図2参照)。移植された細胞シート内には、豊富な血管の形成が認められた。コラーゲン包埋法を組み合わせたことにより、細胞間に隙間を作り、多層シート内への血管形成を可能とし、移植後のシート内への血管供給が、移植細胞の細胞死を予防し、移植効率や生着率の向上に寄与していると考えられる(特許申請中)。
参考文献)
(1) Cheng Z, Ito S, Nishio N, Xiao H, Zhang R, Suzuki H, Okawa Y, Murohara T, Isobe K.Establishment of induced pluripotent stem cells from aged mice using bone marrow-derive myeloid cells. J Mol Cell Biol. 2011 Apr;3(2):91-98.
(2) Suzuki H, Shibata R, Kito T, Yamamoto T, Ishii M, Nishio N, Ito S, Isobe K, Murohara T. Comparative angiogenic activity of induced pluripotent stem cell derived from young and old mice. PloS One. 2012. (印刷中).
(3) Shimizu K, Ito A, Lee JK, Yoshida T, Miwa K, Ishiguro H, Numaguchi Y, Murohara T,Kodama I, Honda H.Construction of multi-layered cardiomyocyte sheets using magnetite nanoparticles and magnetic force. Biotechnol. Bioeng. 2007;96:803-809.
(4) Ishii M, Shibata R, Numaguchi Y, Kito T, Suzuki H, Shimizu K, Ito A, Honda H, Murohara T. Enhanced angiogenesis by transplantation of mesenchymal stem cell sheet created by a novel magnetic tissue engineering method.omparative angiogenimethod. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2011 Oct;31(10):2210-2215.

今年度の展望・最終目標等

ヒトでの実用化の可能性を探るため、大型化iPS細胞シートの作製に着手する。また、大動物(ブタ)での心筋梗塞モデルを作製し、iPS細胞の血管新生療法に向けて前臨床研究を予定している。

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