個別事業紹介

幹細胞治療開発領域

研究課題名

iPS細胞由来血管前駆細胞を用いた新規血管再生医療の展開研究

実施体制

研究代表者
室原 豊明 (名古屋大学 医学系研究科病態内科学講座 教授)
分担代表研究者
沼口 靖 (名古屋大学 医学部プロテアーゼ臨床応用学 准教授)
実施体制説明図 実施体制

研究成果・進捗

(1) iPS細胞由来血管前駆細胞(iPS VPC)の分化誘導方法の検討
マウスiPS細胞由来の血管前駆細胞(iPS VPC)の分化誘導および培養を行った。コラーゲン・タイプⅣ コート培養皿に、マウスiPS細胞を播種(1.7x10³/cm²:10 cm dish,および60 mm dish)し、血清入り分化誘導培地にて培養し、フローサイトメトリーにて、Flk-1陽性細胞出現率を評価した。iPS細胞やES細胞由来のFlk-1陽性細胞は、血管内皮細胞・血管平滑筋細胞・心筋細胞にも分化できるため、血管前駆細胞(Vascular progenitor cell: VPC)とも呼ばれている。Flk-1 陽性細胞を定量すると、培養4.5日目のFlk-1陽性率が最も高かったため、4.5日目を目安としてMACS(磁気細胞分離装置)、もしくはFACS sortingにてFlk-1陽性細胞を分離した。最大35%、平均17% のFlk-1陽性細胞を認め、再現性をもって発現することが確認された(図1)。これらのiPS細胞由来Flk-1陽性細胞を蛍光標識した後、ヒト臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cell: HUVEC)とともに共培養し、マトリゲル上での内皮管腔形成網(血管新生構築)への細胞組み込み能を検討した。iPS細胞由来Flk-1陽性細胞の血管内皮管腔形成網への取り込みが確認された(図2:赤色がFlk-1陽性細胞で無色が HUVEC)。
(2)iPS細胞由来血管前駆細胞(iPS VPC)の安全性と血管新生能の検討
ヌードマウスにおいて、片側大腿動脈を結紮削除することにより、下肢虚血モデルを作成し、上記(1)のご とく単離したマウスiPS 細胞由来Flk-1陽性細胞(6X104cell/mice)を虚血側の骨格筋内に移植して、下肢虚血後の虚血改善効果について評価した。図3に示すようにflk-1陽性細胞移植群では、コントロール群に比して術後3,7,14日で有意に下肢虚血側の血流の改善を認めた(●:細胞移植群,○:コントロール群)。これらの血流改善促進作用は、血管新生促進作用によると思われ、組織内の毛細血管密度の増加も伴った。さらに、移植細胞の細胞数によって、用量依存性(dose dependency)も確認された(図4)。次に細胞移植にともなう血管新生作用の機序として、血管新生因子の一つ、VEGFの発現を検討した。図5に示すようにflk-1陽性細胞移植群ではコントロール群と比較して、術後3,7日目の下肢虚血側骨格筋内でVEGFの発現が増加していた。移植後の安全性に関しての検討では、比較的短期(移植後60日)での奇形種(teratoma)の形成は肉眼的に認められなかった。
(3)iPS細胞由来VPCの細胞シート作成
名古屋大学工学部が有する磁気シート工学技術を利用し、マウスiPS細胞由来Flk-1陽性細胞を用いた移植用細胞シートの作製を試みた(図6)。培養4.5日目のiPS細胞に磁性ナノ微粒子(MCL)を取り込ませた。低接着性培養皿上に直径7mmのリングを配置し、リング内に2x106cell/wellのiPS細胞を播種、培養皿底部に磁石を設置し24時間培養することにより、細胞シートの作成に成功した。この作成されたiPS細胞による細胞シートの組織学的検討、シート特性等を検討中である。同時に、MACS(磁気細胞分離)もしくはFACS sortingを用いて、Flk-1陽性細胞を単離した後、細胞シートを作成すること(マウスiPS細胞由来Flk-1陽性細胞による移植用細胞シートの作成)を試みている。現在、iPS細胞単独シートではシートの強度に難点があり、大型シートやシートの大量精製に困難を極めている。実施体制そこでiPS 細胞単独シートの作成と同時に、iPS 細胞と脂肪細胞由来幹細胞(adipose-derived regenerative cell: ADRC)とのコンビネーションシートの作成にも着手している。ADRCは我々や他の研究施設からの報告により、細胞移植により、血管新生効果を発揮する事が明らかとなっている。しかしながら、ADRCはFLK-1陽性細胞の発現が見られず、血管内皮への分化も認めない事が知られている。以上から、iPS細胞由来Flk-1陽性細胞とADRCという特性の違う2つの幹細胞群をコンビネーションすることにより、より強力な血管新生作用とシート作成の上での難点であった、強度や大量精製が実現可能と仮説した。我々は最近、下記のごとく、iPS細胞由来Flk-1陽性細胞とADRCとで重層するシートの作成に成功している(図7)。ADRCとiPSをモザイク状に混合した場合にはシートが非常に脆弱であったが、ADRCシート上にiPSを播種した2層構造のシートは、ADRC単独シートと同程度の強度を有していた)現在、これらコンビネーション・ハイブリッド細胞シートの細胞移植後の血管新生作用(ヌードマウスin vivo)に関して検討中である。実施体制

今後の計画

以下を予定している。
(1)iPS由来血管前駆細胞(VPC)の分化誘導技術の確立
a) 高齢マウス iPS細胞からの分化誘導効率や、若齢マウス由来iPS細胞と比較検討。
   
b) ヒトiPS細胞からの血管前駆細胞分化誘導法の確立。
   
c) 循環器領域における疾患特異性iPS細胞の作成。
高齢化社会の到来により、虚血性心疾患・閉塞性動脈硬化症などの患者数は顕著に増加している。循環器領域における疾患特異的iPS細胞のバンク登録は非常に有益だと思われる。また、ヒトiPS細胞での分化誘導技術の確立や、エイジングによる影響、疾患特異性の有無を検討することにより、臨床応用への至適条件の探索を行うことは必須と考える。
(2)iPS由来血管前駆細胞(VPC)の分化誘導技術の確立
a) 年単位でのiPS細胞由来Flk-1陽性細胞移植後の安全性確認。
   
b) ミニブタ(大動物)を用いた前臨床研究。iPS細胞由来Flk-1陽性細胞の冠動脈投与により、心筋梗塞巣の縮小効果を有するか否かを検討する。
   
c) 効率化に向けて、シート化技術への移行。
   
d) ヒトiPS細胞を利用した血管新生効果の確認
iPS細胞由来Flk-1陽性細胞の血管新生効果は確認されたため、今後は、臨床応用に向け、ミニブタを用いた前臨床研究とヒトiPS細胞の利用。効率性を計るため、シート化技術への移行を行う。
(3)iPS細胞由来血管前駆細胞・心筋細胞のシート化技術の確立
a) マウスiPS細胞由来Flk-1陽性細胞を用いた移植用細胞シート作製
iPS細胞由来Flk-1陽性細胞単独シートとiPS細胞と脂肪細胞由来幹細胞とのコンビネーションシートの2種のシートを作成。その血管新生効果をマウスへの移植にて確認する。