山中らによりヒトiPS細胞が樹立されているが、ヒトES細胞を含め多くの幹細胞の未分化での増殖培養法は未だに最適化されておらず、また分化誘導方法についても胚様体を経た手法が一般的である。ヒトES細胞の培養法は、近年多くの研究者によって無血清培地による培養法が研究されており、実際に商品化されている手法もあるが、いずれの場合も細胞の接着基質としてマトリゲルを用いているため、完全には“defined condition”とは言い切れないのが現状である。また、iPS細胞についても、フィーダー細胞上で樹立、フィーダー細胞上もしくはマトリゲル上で維持されており、より適した培養系の確立がこれから早急に検討すべき課題であると考えられる。我々はすでに、マウスE-カドヘリン、ヒトE-カドヘリン、マウスN-カドヘリン、マウスLIFなどの固定化が可能なモデルタンパク質分子を開発しており、同様の手法によりマトリックスとして同定できる各種サイトカイン類のモデル分子の作成に着手している(図1)。マウスES細胞から始まり、現在サルおよびヒトES細胞の未分化維持に関わる可能性が指摘されている、bFGF、Wnt、activin-A、IGF等々のモデル分子を作製中である。本研究では、準備段階としてはマウスおよびサルES/iPS細胞も対象としつつ、(1)ヒトES細胞およびヒトiPS細胞の新しい培養基質の開発、(2)ヒトES細胞およびヒトiPS細胞の分化誘導が可能な培養基質および培養条件の検索と最適化を目的とする。