個別事業紹介

幹細胞操作技術開発領域

研究課題名

E-カドヘリンキメラタンパク質を接着マトリックスとした
ES/iPS細胞の新しい単細胞培養システムの開発

実施体制

研究代表者
赤池 敏宏 (東京工業大学 生命理工学研究科 教授)
実施体制
東京工業大学大学院生命理工学研究科赤池・田川研究室で実施する。

研究成果・進捗

今までに、マウスE-cad-Fc上にマウスiPS細胞を培養し、接着実験とキレ-ト剤による脱着実験を行った。図1に示すように、マウスiPS細胞はマウスES細胞と同様に E-cad-Fc上において単一細胞レベルで分散し、未分化を維持した状態で増殖することが確認された。
今回、実験に用いたマウスiPS細胞は、理研細胞バンクから供与を受けたもので、4因子(Klf4,Sox2,Oct3/4,c-Myc)を導入して得られたiPS細胞(株名:iPS-MEF-Ng-20D-17)と3因子(Klf4, Sox5, Oct4)を導入して得られたiPS細胞(株名:iPS-MEF-Ng-178B-5)である。これらの両方の株ともにE-cad-Fc上では単一細胞レベルで分散することが確認された。さらに、図1に示したようにE-cad-Fc上で培養されたiPS細胞はCa2+キレ-ト剤EGTAにより容易に剥離することが可能であった。単一状態に分散したマウスiPS細胞に、Ca2+キレ-ト剤EGTAを加えると進展していたiPS細胞はすみやかに丸い状態になり、軽く洗浄するだけで完全に基質から剥離することが確認された。また、剥離した細胞を同じ基質に播種すると再接着して単一細胞レベルで増殖することも確認された。同じ基質上で可逆的に脱着が可能な単一細胞レベルによる培養系の確立は本プロジェックトでもきわめて有用である。今後、長期間にわたる脱着実験を行い、得られたiPS細胞の未分化維持及び多能性維持の確認を行う予定である。
さらにE-cad-Fc上の単一細胞培養系と従来のゼラチン上のコロニー形成型培養系におけるマウスES細胞の肝細胞への分化誘導効率を比較検討した。それぞれの培養系で培養されたマウスES細胞の肝細胞への分化マーカーの出現を追跡した結果、E-cad-Fc上では12日目においてアルブミンの発現が観察され、従来のコロニー形成型培養系よりも効率的に分化誘導が行えることが見出された(図2)。
(2)ヒトiPS/サルES細胞の未分化維持培養系の開発
当該年度においては、ヒトE-カドヘリンの細胞外ドメインを有するヒトE-cad-Fcの作製を行った。ヒトiPS細胞は、MEFと共培養を行い、培地はiPSellon(Cardio)を用いて未分化維持培養を行った。ヒトE-cad-Fc上で培養する場合は、MEF上で培養されたヒトiPS細胞を10 µM Rockインヒビターで一時間処理した後にアクターゼで細胞を分散し、10µg/mLヒトE-cad-Fcでコーティングした培養皿に播種した。同時にマトリゲル上での培養も行った。ヒトE-cad-Fc上においてヒトiPS細胞の培養を行ったところ、マウスES細胞やマウスiPS細胞と同様によく接着することが観察された。しかしながらマウスES/iPS細胞で観察されたような顕著な分散形態は観察されず、ややコロニー化しているような単層状態が観察された。しかし、増殖が進むにつれ、コロニーから細胞が離れ徐々に分散する傾向も観察された(図3)。
基本的には、コロニーが広がって平面上に広く培養できる可能性が期待された。また、E-カドヘリンを発現しないMEFの接着がほとんど観察されず、ヒトiPS細胞のみの状態で接着できることが明らかになった。マトリゲル上での培養では、MEF細胞もヒトiPS細胞同様に接着することが観察され、初期の段階ではMEF上で培養している状態とほとんど変わらない状況であった。マトリゲル上では、細胞選択性がないためにMEFや分化したE-カドヘリンを発現しない細胞も同様に接着することが考えられた。
以上の結果から、本法はヒトE-cad-Fc上でのヒトiPS細胞の培養では、ヒトiPS細胞と共存していたMEF細胞を効率よく除去できる極めて有効な手段となりうることが明らかになった。ヒトiPS細胞を分化させ応用する場合に異種の細胞であるMEF細胞を効率よく取り除くことが重要である。このようなことからMEFを取り除く手段としてこのヒトE-cad-Fcを利用できる可能性が新たに見出されたことになる。さらに従来のヒトiPS細胞の未分化維持培養では、コロニーの周辺や中心部から分化の進んだ細胞の出現が必ず観察される。このような場合は、未分化が維持されているコロニーをピックアップして継代する必要がある。このため、従来の未分化維持培養では十分な細胞数を得ることが難しい。ヒトE-cad-Fc上でiPS細胞を培養した場合、分化の進んだ細胞はE-カドヘリンの発現が低下するためにヒトE-cad-Fc上において接着できないことが考えられる。本方法を用いる事によりE-カドヘリンの発現が高い未分化な細胞のみを選択的に培養することができる。
このようなことから、ヒトE-cad-Fc上の培養において未分化を維持したヒトiPS細胞のみを培養できる選択培養器材としての可能性が示唆された。

今後の計画

今後は、本研究の目的である
(1)ヒトES細胞およびヒトiPS細胞の新しい培養基質の開発
(2)ヒトES細胞およびヒトiPS細胞の分化誘導が可能な培養基質および培養条件の検索と最適化
を目指して、未分化維持大量培養法と純度の高い目的細胞を獲得可能な分化誘導法を実現し、ヒトiPS細胞のXeno-free, Feeder-freeな培養基質としての確立を行う。