阿久津 英憲 | (国立成育医療研究センター研究所 生殖・細胞医療研究部 室長) |
藤本 純一郎 | (国立成育医療センター 研究所 副所長) |
(1) | 完全ヒト型ヒトES細胞培養システム開発 成育ヒトフィーダー細胞と成育完全ヒト型培養液を霊長類ES細胞を用いて開発する。ヒト組織より樹立した細胞の網羅的遺伝子発現解析を行い、バイオインフォマティクス解析からES細胞未分化維持及び分化能に関連する細胞を解析しヒトフィーダー細胞を開発していく。 現在のところES細胞の未分化維持に働くフィーダー細胞としては、マウス線維芽細胞(MEF、STO細胞等)が最も有用である。そこで本計画では、成育医療センターから得られる組織(成育バイオリソース)から樹立した細胞株を、霊長類ES細胞及びヒトEC細胞を用いた未分化・分化検定システムに展開しヒトES対応のフィーダー細胞を樹立する。前実験結果より、細胞外基質因子としてCOL1A1、COL3A1、COL5A1、FN1、HSPG2など、成長因子や他因子としてGREM1、TGFB1、IGFBP3、FGF2などを必須発現因子として検定解析を行っていく。ヒトフィーダー細胞は従来のマウスフィーダー細胞(MEF)との比較により、遺伝子発現、タンパク質発現レベルでの比較検討を遺伝子発現マイクロアレイ解析、質量分析によるタンパク質解析を行い未分化維持の重要因子(群)をヒトフィーダー細胞で明らかにしていく。将来的には、それら因子によりフィーダー細胞の検定応用、あるいは異種成分を排除した培養液構成成分としても適応可能と考えられる。成育バイオリソースは、周産期及び成育期組織を多く含む世界的に見ても希有な細胞ソースライブラリーである。これにより、未分化維持に働く細胞増殖因子、サイトカイン、細胞外マトリックス成分等を検定し異種成分を排除したヒトES細胞培養液を中心とした培養基盤に関する独創的な研究が可能となる。尚、ヒト組織を利用する本目的に関して、国立成育医療センター倫理委員会の承認が得られている(受付番号49、受付番号55、受付番号88、受付番号146)。 |
(2) | 幹細胞特性評価と評価基準の確立へ向けた研究開発 安全で高品質のヒト幹細胞再生医療を供給するため、異種を排除しつつ幹細胞の性質を保った培養環境を確立する。完全ヒト型培養システムが幹細胞性質やゲノム安定性に与える影響を評価し、安全性及び品質に関し科学的明確なエビデンスの獲得に寄与する。具体的には、ES細胞の未分化マーカーの策定と抗体の品質評価。免疫不全マウスへの移植方法及び評価系の開発、シアル酸などの細胞膜糖鎖解析基盤の開発を行う。多分化能性評価に関しては、適切な三胚葉分化を評価できる抗体の選定を重点的に行っていく。具体的なヒトES細胞長期培養工程における安全性評価検定に関しては、ヒトES細胞の樹立計画と連動することになるため、現時点で胚提供が得られていない状況から、本年度は霊長類ES細胞、ヒトEC細胞、ヒト間葉系細胞及びヒトES細胞マテリアルを各解析系へ適宜用いて、マイクロアレイCGH、遺伝子発現マイクロアレイ、マイクロRNAマイクロアレイ解析を行い、ゲノム安定性にかかる具体的なゲノム領域、ゲノム変異動態、遺伝子発現変化を捉える解析を行い、ヒトES細胞へ展開できる基盤を確立していく。ヒトES細胞樹立計画において、新たに胚提供医療機関として1機関(2施設)の登録が成育医療センターヒトES細胞研究倫理審査委員会で承認を受けたところであり、ヒトES細胞樹立研究に対して飛躍的な進行が期待される。 |