個別事業紹介

幹細胞操作技術開発領域

研究課題名

iPS細胞から膵β細胞への分化制御と糖尿病再生医療の基盤開発

実施体制

研究代表者
粂 昭苑 (熊本大学 発生医学研究センター 幹細胞部門 多能性幹細胞分野 教授)
分担代表研究者
遠藤 文夫  (熊本大学 医学薬学研究部 教授)
尾池 雄一  (熊本大学 医学薬学研究部 教授)
山縣 和也  (熊本大学 医学薬学研究部 教授)
実施体制説明図

研究成果・進捗

今回の事業では、iPS細胞から膵β細胞への分化制御の技術開発、マウスiPS細胞由来の分化細胞についての性状解析、分化能の評価を行う。ヒトiPS細胞についても適用する条件を検討する。ES細胞およびiPS細胞由来膵β細胞系譜細胞をマウスに移植し,生体移植効率及び機能向上を検討する。
(1)試験管内における分化誘導条件の検討
培養基材の検討
これまでの支持細胞を用いた分化誘導研究で得られた知見より、細胞基底膜上の分子を介した作用が膵臓系譜細胞への分化において重要な役割を果たすことが強く示唆された。遺伝子発現解析や阻害実験の結果より、支持細胞の細胞基底膜成分のラミニンα5が膵臓への分化誘導に寄与することを明らかにした。また、細胞本体を溶解させ、細胞基底膜のみを露出させた擬似基底膜 (国立環境研持立克身上級研究員より提供)を用いて、マウスES/iPS細胞からインスリン産生細胞へと分化誘導できることを示した。細胞基底膜分子のラミニン以外にも、へパラン硫酸プロテオグリカンなどの分子が分化誘導時の微小環境(ニッチ)の形成に寄与している。これらの知見により、ES/iPS細胞の基底膜の作用を引き出せるような新規な基材を利用した方法が有効であると考えられた。ゼノフリーの観点からも、人工化合物の利用が望まれる。現在のところ、ゼノフリーな培養系を用いて膵β細胞を分化誘導する方法を確立した。
   
培養液の検討
培養液に関しても、成長増殖因子、基礎培地成分などの検討を行った。その結果高効率な分化誘導方法を開発した。また、iPS細胞から膵β細胞の生成効率を促進する低分子化合物のスクリーニング系も立ち上げた。
(2)移植による分化成熟の検討
本研究ではマウス及びヒトiPS細胞から膵β細胞を培養下並びに動物の微小環境の力を利用して作成することを目標としています。特に、成熟膵β細胞に成熟化させるために、生体内の微小環境が重要である。上記の擬似基底膜の方法により、マウスES細胞を試験管内で分化誘導し、さらにマウス腎皮膜下へ移植して成熟化させた結果、成熟マーカーNkx6.1, MafAを発現し、各種内分泌細胞が誘導されている成熟膵島様細胞塊を形成することに成功しました。(図1にinsulin-GFPで発現を追跡出来るES 細胞株を用いた結果を示す)。今後はさらに、分化誘導、機能維持するための培養条件の検討、糖尿病病態マウスへの移植により得られた分化細胞の性状と病態改善効果を解析し、安全性評価系を構築するなど、様々な技術開発を行い、糖尿病治療への応用を目指します。

今後の計画

(1) In vitroおよびin vivo における分化能を向上させるための検討を継続。検討項目としては、a)分化誘導用の培養基材の最適化、b)立体培養から接着培養への接続による長期分化誘導の効果:細胞基底膜を破壊せずに長期培養するための技術開発を行う。また、ヒトiPS細胞へのマウス細胞の分化誘導技術を適用させ、ヒトiPS細胞の由来の膵β細胞がin vitro において誘導出来る最適な条件を決定する。 iPS細胞由来膵β細胞のインスリン分泌能を促進する低分子化合物、成長増殖因子の探索・培地組成・立体培養法について、ここの成分を検討するとともに、有効な成分を組み合わせた方法を最適化することも検討する。
   
(2) 培養液の検討
免疫不全糖尿病病態モデルマウスに移植し糖尿病改善効果の検討。ヒトiPS細胞由来膵β細胞を効率的に移植する方法を検討する。糖尿病病態モデルマウスの糖尿病改善効果、インスリン分泌能の評価を行う。

リンク情報

熊本大学 発生医学研究所
http://www.imeg.kumamoto-u.ac.jp/divisions/stem_cell_biology/