個別事業紹介

幹細胞治療開発領域

研究課題名

複数遺伝子搭載型新規麻疹ウィルスベクターを用いた安全かつ効率的なヒトiPS細胞樹立技術の開発

実施体制

研究代表者
谷 憲三朗 (九州大学 生体防御医学研究所 ゲノム病態学分野  教授)
分担代表研究者
赤司 浩一 (九州大学 医学研究院 教授)
実施体制説明図

研究成果・進捗

造血幹・前駆細胞(以下造血幹細胞と略)においては血液疾患に対する造血細胞移植療法の細胞ソースとしてのみならず、多種細胞への分化能やその再生を補助する機能を有するという基礎的研究成果が報告されており、広範な再生医療に用いる細胞源としての有用性が期待されているものの、現在そのin vitro における高効率増幅法や具体的な他種細胞への分化法は開発されておらず、この点についても今後集約的研究の実施が急務であると考えられる。
以上の現状を鑑み、本委託業務の最終目的は申請者らがこれまでに報告してきた遺伝子導入による非ヒト霊長類ES 細胞よりの造血細胞高分化系を基本に、特にヒトiPS細胞ならびにヒトES 細胞への遺伝子導入による安全かつ高効率な造血幹細胞分化法を開発することである。
具体的には、(1)ヒト胎児肝臓cDNA 発現レンチウイルスベクターライブラリー等を用いたヒトES/iPS 細胞よりの造血幹細胞分化誘導技術の開発 (2)新規遺伝子導入ベクターを用いたヒトiPS 細胞の樹立技術の開発 を行うことにより、本事業目標の達成を目指している。

(1)ヒト胎児肝臓cDNA 発現レンチウイルスベクターライブラリー等を用いたヒトES/iPS 細胞よりの造血幹細胞分化誘導技術の開発

これまでに我々は小型霊長類コモンマーモセット(CM) ES 細胞にtal1/scl 遺伝子を導入することにより、ストローマ細胞非存在下で効率よく造血細胞へ分化誘導する系を開発してきた(Kurita et al. StemCells ,2006)。この系をヒトに応用すべく、tal1/scl 遺伝子発現複製不能レンチウイルスベクター(EF1a-tal1/scl-IRES-Venus)を構築し、本ベクターを用いてtal1/scl遺伝子を恒常的に発現するヒトES細胞株(理研バイオリソースセンターとの共同研究による)を樹立した。
これらのヒトES/iPS細胞株は未分化性を維持しており、血球分化誘導実験を行ったところ、図1に示すようにtal1/scl恒常発現ヒトES/iPS 細胞株由来血球前駆細胞コロニー中には、赤芽球、マクロファージ、顆粒球・マクロファージコロニー、さらに多種類の血球細胞から構成される混合コロニーのいずれもが観察された。 tal1/scl 遺伝子と協調的に作用し、ストローマ細胞非存在下にてさらに効率よく造血細胞へ分化を誘導する因子を探索するため、ヒト胎児肝臓cDNA 発現レンチウイルスベクターライブラリーによるスクリーニングを実施中であり、1次スクリーニングより得られた遺伝子を対象に2次スクリーニングによる候補遺伝子の絞込みを現在行っている。
また、我々はマウス胎盤造血幹細胞の免疫染色法による可視化技術を確立しており、本手法を用いて造血発生に重要な各種転写因子群ノックアウトマウスのAGM 領域の造血幹細胞サンプル及びマウスES 細胞由来サンプルを採取し、マイクロアレイ解析を行いここで得られた初期造血に重要と考えられる候補遺伝子についてさらにin vitro/in vivo での検討を行っている(図2)。

(2)新規遺伝子導入ベクターを用いたヒトiPS 細胞の樹立技術の開発

(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を挿入したレンチウイルスベクターを理化学研究所より供与いただき、CM 胎児由来線維芽細胞に遺伝子導入を行い、CM ES 細胞様のコロニーの樹立を試み、解析を行っている(図3)。

また、染色体非挿入型ウイルスである麻疹ウイルスを用いてヒトiPS 細胞の樹立を試みた。外来遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を挿入した分節型麻疹ウイルスベクターを用いてヒト線維芽細胞株に遺伝子導入を行い、ヒトiPS 細胞の樹立を試みている(表1図4

今後の計画

これまでに選択したヒト造血・血球分化誘導分子を用いて、in vitro および免疫不全マウスを用いてヒト造血再構築能を詳細に検討し、造血幹細胞をヒトES/iPS 細胞から高効率に分化誘導可能な条件を選択する。必要に応じ免疫不全マウスin vivo においてヒトES/iPS 細胞からの造血再構築能を詳細に検討する。また疾患対象として造血不全を起こす、再生不良性貧血、発作性夜間血色素尿症症候群に焦点をあて、その病態解析および治療法開発を目的とした患者iPS 細胞バンク作製に向けた準備を行う。

麻疹ウイルスにて樹立したヒトiPS 細胞の発現プロファイル解析を行うとともに、その安全性についてin vitro および免疫不全マウスin vivo にて検討を行う。また既に報告されている染色体内遺伝子非組み込み型センダイウイルスベクターにより樹立されたヒトiPS 細胞との発現プロファイルについて比較検討する。麻疹ウイルスベクターの有効性が示唆される結果を得た場合には、各拠点と連携しながら、本ウイルスベクターの本事業における広汎な応用の可能性を検討する。

リンク情報

九州大学 生体防御医学研究所
http://www.bioreg.kyushu-u.ac.jp/index.html.ja