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研究者・研究内容

研究者・研究内容

再生医療の実現化に向けた研究開発における倫理上の問題に関する調査・検討・支援
 
代表機関:国立大学法人東京大学
代表研究者:武藤 香織(むとう・かおり)
        医科学研究所 教授



これまで、京都大学大学院医学研究科および東京大学大学院医学系研究科・ 医学部倫理委員会委員長として、 ES 細胞の樹立・使用に関する研究、ヒト幹細胞を用いる 臨床研究、遺伝子治療の臨床研究などを含む膨大な数の医学研究の倫理審査に従事してきました。 特に東京大学では、医学系研究科・医学部の研究者を対象とした研究倫理セミナーを企画・開催し、東京大学における研究倫理教育の質の向上にも努めています。今回の研究課題「再生医療研究における倫理的課題の解決に関する研究」では、実務面では再生医療倫理相談窓口等を通じて研究者・研究機関からの助言依頼に対応すると同時に、再生医療にまつわる倫理的・法的・社会的諸問題の研究 (ELSI 研究 ) を推進します。このようにして、学際的な生命・医療倫理学の分野から、臨床応用に向けた再生医療研究の推進と、社会と調和した再生医療研究の推進に寄与することを目指しています。




再生医療の実現化のためには、臨床応用を明確に見据えた研究開発を推進し、臨床研究に取り組む体制を早期から確立する必要があります。再生医療の臨床研究の適切な実施に際しては、各研究機関において、基礎研究の段階から研究者に対する一貫した倫理支援が提供されると同時に、倫理審査委員会で十分な審議が行われなければなりません。しかしながら、現在我が国においては、研究機関ごとに倫理支援や倫理審査の体制の質にばらつきがあり、標準化されたシステムが確立されているとまでは言い難いです。くわえて、再生医療の分野にはそれ特有の倫理的課題があるとされていますが、再生医療に特化した倫理支援や倫理審査のあり方は必ずしも明確ではありません。そこで本研究では、まず、再生医療の臨床研究に従事する研究者、研究機関、施設の倫理委員会等に、具体的な倫理支援を提供します。また、再生医療研究に関する倫理的・法的・社会的課題( ELSI )に対して、学際的な研究グループを組織して包括的に取り組むことにより、再生医療における倫理支援・倫理審査体制の確立を目指します。

具体的には、以下の三つの側面から研究・支援活動を行う。第一に、個別の研究者や研究計画に対して助言を与えるベンチサイド・コンサルテーション窓口を開設します(研究者支援)。第二に、各研究機関で再生医療の特性を反映した倫理審査が実施されるために、再生医療倫理審査フローシートやインフォームド・コンセント書式のひな形、倫理審査委員養成プログラムなどの開発・提供を行います(研究機関支援)。第三に、再生医療が社会と調和した形で推進されるために、再生医療の倫理的・法的・社会的課題に対して、調査研究と理論研究から成る学際的研究チームにより、課題解決型の研究を行います( ELSI 研究)。具体的には、トランスレーショナル・リサーチに伴う倫理的問題、幹細胞バンクのあり方、幹細胞ツーリズム、動物細胞との融合・混合の個別の論点に即して、理論的・実証的研究を行います。いずれも各国の規制状況や生命・医療倫理学の議論動向を精査したうえで、研究者・一般市民双方への意識調査研究を行い、最終的には論点ごとに日本の現状に即した具体的な問題解決に向けての提言を行います。








近年、再生医療にまつわる倫理問題が世界的に大きな関心を集めつつあり、諸外国のいくつかの大学では幹細胞研究に特化した倫理審査委員会が設立されています。ですが、再生医療に対する研究規制の具体的なあり方をめぐる問題は、その議論が開始されてからさほど時間はたっておらず、標準的な倫理審査モデルが十分に確立されているとまでは言い難いです。また、再生医療の研究をめぐる倫理的課題を指摘する文献は多いが、それを具体的に克服するための動きは現在のところ見られません。そうした中で、再生医療の実現化に向けた具体的な倫理支援・倫理審査の確立を目的とする本研究は、世界的に見てもきわめて独創的かつ先駆的なものであると同時に、研究現場のニーズに応えるものです。本研究の成果により、再生医療の実現化に向けた倫理支援・倫理審査の質が標準化され、日本の再生医療が世界トップレベルの座に位置するための倫理的側面からの基盤整備が果たされます。

 
 
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