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本テーマの業務は平成27年4月1日より国立研究開発法人 日本医療研究開発機構に移管されました。
※記載内容は平成27年3月31日時点の情報に基づきます。

研究開発テーマ「革新的医療を実現するためのバイオ機能材料の創製」


顔写真

 プログラムオフィサー(PO)

 岩田 博夫

 京都大学 再生医科学研究所 所長/教授
 専門分野
 組織再生、バイオマテリアル、組織工学


■ 研究開発テーマの設定趣旨

1.研究開発テーマの概要

わが国は急速に高齢化が進み2025年には65歳以上の高齢者が人口の30%を超え、寝たきり人口が450万人になると予想されています。あらゆる分野でこの問題に対する対策を立てておく必要があります。医療の面に与える影響は極めて大きく、2025年には医療費が59兆円、さらに介護費を加えると94兆円にも上ると言われています。社会がこれを支えることが出来るのかと心配されています。また、東アジア圏でも急速に高齢化が進み、例えば中国で2025年には65歳以上の高齢者人口が2億8,000万人にもなります。高齢者の増加は、社会の負担の激増ですが、一方では、輸出産業の環境が新たに出来つつあるともとらえることが出来るでしょう。

近年の医療技術の革新には目を見張るものがありますが、その中身は大きな問題を抱えています。その一つが先端医療技術の多くが米国をはじめとする欧米から導入されたものであること、もう一つは人工透析に代表されるように多くの先端治療法は延命には絶大な効果があるものの病気が治癒したわけではない状態が持続するため、医療費の増大につながっていることです。患者が満足し、さらに、医療費の増大につながらない医療技術の開発が望まれています。

先端医療技術を支えるバイオ機能材料研究に目を向けますと、我が国の研究レベルは毎年世界の一流のジャーナルに多数の研究論文が発表されていることからわかるように世界のバイオ機能材料研究をリードしていると言っても過言ではありません。しかし、残念ながらその多くは先端医療技術の創製に結実してはいません。これは大学等で行われる研究と医療の現場で必要とされるものとの乖離、また、許認可の審査に多大な労力と長時間を要したという問題がありました。最近では大学等の医療工学研究者の意識も変わり、また、許認可の審査にも多くの改善が見られるようになりました。

本プログラムでは、医師および医療技術研究者をはじめとする医療が抱えている課題を熟知した人達と共に、「先端医療技術の開発に役立つか」という視点で、開発されてきたバイオ機能材料をふるい分け、先端医療技術の開発に必要であるバイオ機能材料を新たに開発します。すなわち、10年後に迎える医療の現場を見つめ、そこで真に必要とされる先端医療・在宅医療を想定し、それを実現するために必要なバイオ機能材料及びそれらを用いた革新的医療デバイスの開発を目的として実施されるものです。

2.プログラムオフィサー(PO)による公募・選考・研究開発テーマ運営にあたっての方針

本プログラムでは、将来の革新的医療を実現するために必要なバイオ機能材料を開発し、さらに、医療デバイスのプロトタイプの作製と動物実験の評価までを目的として実施するものです。一研究開発チームには、多くのセクターからの参加が必要です。立案から販売までの流れを考えると、@将来の先端医療を想定し、その実現に必要な治療イメージの明確化、A治療法実現に必要とされるバイオ機能材料の仕様の設定と合成、B治療法・デバイスの試作、C新規治療法・デバイスの動物実験による評価などが挙げられます。バイオ機能材料研究者だけではなく、医師および医療技術研究者をはじめとする医療が抱えている課題を熟知した人達、工作・加工を行う企業、新規デバイスの販売を行う企業などがチームに参画することが好ましいと考えられます。(必ずしもすべての参画が必須ではなく、また、研究開発途中からの参画でも差し支えありません。)なお本プログラム推進の中核となるバイオ機能材料の研究者に関しては、明確なデバイスイメージを実現するために必要な材料を設計し合成出来る能力があれば、必ずしも実績としてバイオ機能材料研究での発表論文数は問いません。


以下は、先日行われたワークショップで議論された研究開発課題例と、それらに対するPOのコメントです。ただし、これらの課題の採択を優先するものではありません。下記の枠に含まれない課題であっても、本公募の趣旨に適合した優れた提案であれば採択の対象とします。

1)健康寿命の延伸

介護が必要になった原因の第一は脳卒中で25.7%、第二は転倒骨折・関節疾患で21.4%です。脳梗塞に対しては酵素による血栓溶解療法やカテーテルによる血栓除去が行われていますが、十分な効果をあげているとは言いがたいのが現状です。血管壁を傷つけずに血栓除去を行える生体適合性に優れたカテーテルとガイドワイヤーの開発などが考えられます。また、脳動脈瘤破裂に対してはロタキサンゲルによる塞栓などが考えられます。転倒骨折・関節疾患の治療を行うためには、軽くて耐久性のある骨代替材料が望まれています。ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)に代表されるスーパーエンジニアリングプラスチックに期待が集まっていますが、骨組織との接着等のスーパーエンプラと生体との界面の制御を行う必要があります。

2)在宅医療システム

第5次医療法改正により、長期入院治療から在宅医療へと大きく舵が切られました。患者が在宅のため、近い将来に家族が操作を迫られる医療機器・デバイスとして呼吸器、透析器、糖尿病治療機器などがあります。現在のところ呼吸器、透析器、点滴ラインの確保は医師また看護師が操作すると定められています。在宅医療を推進するためにはこれらの治療機器を高齢者自身またその家族で操作できるようにしなければなりません。加えて、在宅医療を問題なく進めるためには、感染防止能のある経皮ポート、抗血栓材料、高効率酸素富化膜・中空糸等を開発する必要があります。さらに、使用した医療機器・デバイスのリサイクルまたは廃棄も視野に入れた材料・デバイス設計が求められます。

3)低侵襲医療用デバイス

低侵襲手術法、例えば内視鏡下手術、経皮的冠状動脈拡張術、脳血管内手術法の3つの手術法は、当初はさほど大きく展開するとは受け止められていませんでした。しかし、優れたデバイスが開発されると共に、侵襲の大きな従来法の手術に取って代わり、手術の様相が一変してしまいました。カテーテルやガイドワイヤー、血液−デバイス界面制御による抗血栓性や表面潤滑性付与、生体内吸収性ステント、血管の塞栓、核磁気共鳴対応等々に見られるように材料開発が進めば、デバイス性能の革新に繋がる余地は多く残されています。さらに、X線の被爆の心配のない核磁気共鳴イメージング下での血管内手術システムの構築など、材料開発を基礎に新しいイメージングモダリティーを積極的に用いた低侵襲治療法の提案も歓迎いたします。

4)再生医療

再生医学は革新的な医療を切り開くと期待されています。多様な体性幹細胞の発見、ヒトES細胞の樹立、さらにヒトiPS細胞の創生と細胞生物学においては革新的発見や技術が開発されてきました。現在、幹細胞から機能を持った細胞へと分化する研究が精力的に進められています。幹細胞またはそれから分化誘導された機能細胞を用いてin vitroまたin vivoで組織形成を行わせ再生医療として患者の治療に役立たせるには、種々のバイオ機能材料が必要です。例えば、細胞培養基材、in vitroでの組織構築用マトリックス、再生組織の保存に用いる材料、多種細胞を望みの順序で配列させ、さらに構造を形成させるための細胞間接着剤、細胞移植に用いるin situゲル化材料、in vivoの組織再生に用いる生体吸収性材料等々です。申請時には単なる材料開発の提案ではなく、具体的に治療を目指す対象疾患、再生させる組織の形態と大きさ、そこで必要とされるバイオ機能材料の特性を明確に述べることが望まれます。

5)体外循環

我が国で30万人近くの腎不全の患者が透析器を用いた体外循環で治療されているように、体外循環は安全に行える確立された治療法になっています。最近では潰瘍性大腸炎や関節リュウマチ等の免疫が関与する疾患に対して体外循環によって白血球を除去する治療が試みられています。この体外循環と、バイオ界面の創製技術、さらに制御性T細胞の同定等の最新の医学的知見を融合させることで、例えば癌や自己免疫疾患などのより精密な治療が行えると期待されます。新たな体外循環で治療するターゲット疾患、体外循環モジュールに要求される性能、そのモジュールを作成するのに必要なバイオ機能材料の開発、さらに、血液と材料界面の精密制御に関する提案を期待します。

<採択方針と実施について>

今年度の研究開発テーマ「革新的医療を実現するためのバイオ機能材料の創製」については、ステージTでは、目指す革新的医療のイメージの明確化とその医療を実現する治療デバイスとバイオ機能材料の試作、ステージIIでは、動物モデルを用いたデバイスの有効性評価とその結果を受けた試作品の改良、ステージIIIでは、さらなる有効性の評価と安全性の評価、ついで治験へ向けた準備を進める必要があります。応募者は、ステージ毎に申請課題に固有の具体的な目標を明確に記載した申請書を作成していただく必要があります。ステージTでは、要素技術の検討と材料合成が主なので、さほど高額な研究費を必要としないと考えます。優れた課題が多くある場合は、当初、5課題以上を採択することもあり得ます。その場合には研究開発費は採択件数に応じて減額もあり得ます。また、ステージTの終了時に研究開発目標とその到達状況を精査し、その実現性さらに医療機器産業の発展への寄与の点などから評価することにより、5課題程度からなる本採択課題への絞込みを行う予定です。ただし、絞り込みにあたり、類似・関連の課題については、それらを組み合わせることで1つの本採択課題とする場合があります。なお、本テーマについての公募は、今回のみとなります(新たな公募は実施いたしません)ので、十分ご注意下さい。


■ プログラムオフィサー(PO)及びアドバイザー

  氏名 所属・役職
PO 岩田 博夫 京都大学 再生医科学研究所 所長/教授
アドバイザー 今津 博文 読売新聞 大阪本社 宇治学研支局 支局長
アドバイザー 梅津 光生 早稲田大学 先端生命医科学センター センター長/理工学術院 教授
アドバイザー 興松 英昭 京セラ株式会社 法務知的財産本部 業務推進部部長
アドバイザー 國友 哲之輔 東レ・メディカル株式会社 顧問
アドバイザー 滝 和郎 医療法人財団 康生会 武田病院理事・脳卒中センター長
三重大学 名誉教授
アドバイザー 谷 敍孝 JSR株式会社 シニアサイエンティフィックアドバイザー
アドバイザー 新家 光雄 東北大学金属材料研究所 教授
アドバイザー 西村 隆雄 旭化成株式会社 研究・開発本部 ヘルスケア研究開発センター
医療IT研究部 副部長
アドバイザー 前田 瑞夫 独立行政法人理化学研究所  前田バイオ工学研究室 主任研究員
アドバイザー 松岡 厚子 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 規格基準部 医療機器基準課
テクニカルエキスパート

■ 課題

課題名 課題概要 PM
(※)
開発リーダー 評価結果
研究リーダー
免疫制御を目的とした体外循環治療の基盤技術の創製と応用 制御性T細胞(Treg)による免疫制御、およびT細胞非依存性抗原によるB細胞の活性化にかかわる基礎研究の成果に基づく基盤技術を、普遍的技術として確立されている体外循環システムと組合せ、免疫制御できる体外循環モジュールを開発します。開発する3種類のモジュールは、Treg選択除去、B細胞直接賦活化、Treg分離回収をそれぞれ可能とします。これらにより、免疫療法によるがんや自己免疫疾患への新しい治療技術を創出します。 安武 幹智
旭化成株式会社 ヘルスケア研究開発センター 細胞・再生医療研究部 部長
中間評価(ステージT)

木村 俊作
京都大学 大学院工学研究科 教授
金属系バイオマテリアルの生体機能化−運動骨格系健康長寿の要− 金属材料を基盤とした、あたかも生体組織として振る舞う革新的運動骨格系医療デバイスを開発します。これまでに蓄積された豊富なシーズを活用し、新合金開発、機能表面創製、新製造プロセスを三位一体として、参加各機関の有機的連携により、シーズの高度化、機能評価・製品化技術の検討、最終製品化の順に、マテリアル開発から製造プロセスまでの一貫した研究開発を実施し、10年後の運動骨格系医療に基づく健康長寿を可能にします。 中島 義雄
ナカシマメディカル株式会社 代表取締役社長
中間評価(ステージT)

塙 隆夫
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 所長・教授
mRNA内包バイオ機能構造材料による運動・感覚器機能再建 高齢化社会において、生活の質に重要な運動・感覚器機能を維持・再生することが、健康寿命の延伸に重要です。本研究では、周囲細胞の分化・増殖を制御し、in vivoで運動・感覚器機能再建を誘導する画期的なインプラント材料を創製することを目指します。具体的には、三次元構造を精密に制御したバイオマテリアルと機能再建に最適化したシグナル因子を発現するmRNAを融合し、位置・量・時間を制御して局所標的細胞に作用させるmRNA内包バイオ機能構造材料を開発します。 近藤 史郎
帝人株式会社 フェロー 近藤研究室 室長
中間評価(ステージT)

鄭 雄一
東京大学 大学院工学系研究科(医学系研究科兼担)教授
マテリアル光科学の創成を基盤とする超バイオ機能表面構築技術の開拓 加齢とともに健康障害が頻発する循環器系あるいは運動器系疾患に適用する医療デバイスの表面構築を実践し、医療デバイスの安全性を向上させ機能寿命を延長します。表面特性として血液適合性、組織親和性および高潤滑性に着目し、これを実現する基盤として高効率光反応性ポリマーの合成と光反応プロセスの確立を柱とする新しいマテリアル光科学を創成します。最終的にはマテリアル光科学を実装した医療デバイスを開発し、健康寿命の延伸に貢献します。 北野 茂
日油株式会社 ライフサイエンス事業部 ライフサイエンス研究所 所長
中間評価(ステージT)

石原 一彦
東京大学 大学院工学系研究科
教授
原子配列・ナノ構造制御による高次機能性TiNi合金製ステントの開発 下肢動脈疾患のステント治療において、デバイスの細径化やフラクチャーの抑制など、さらなる低侵襲化が望まれており、本研究ではそれを実現する次世代TiNi超弾性合金ステントを開発します。具体的には、粉末冶金法を用いた原子・ナノ構造化による高プラトー応力と高回復率の発現と、有限要素法解析によるステント・デザインの最適化を行い、耐久性試験、生体適合性試験、動物実験などの安全性・信頼性に関する検証を行い、早期商品化を目指します。 川西 徹朗
テルモ株式会社 研究開発本部 
コアテクノロジーセンター 
センター長
中間評価(ステージT)

近藤 勝義
大阪大学 接合科学研究所 
副所長 教授
革新的硬組織再生・再建システム創製 骨や歯などの硬組織欠損の再生再建を総合的に治療する革新的硬組織再生・再建システムを創製します。骨や歯の機能を代替するインプラント材に関しては、インプラント材が早く、強く骨と結合するようにCa表面修飾インプラント材を開発します。また、骨欠損が大きい場合には骨の再生を行う必要がありますが、骨リモデリングプロセスを活性化させ、迅速に骨に置換される炭酸アパタイト骨置換材を開発します。 熊谷 知弘
株式会社ジーシー 研究所所長
中間評価(ステージT)

石川 邦夫
九州大学 大学院歯学研究院 
教授
空間特異的な細胞の配置と分化誘導技術に基づいた臓器再生スキャホールド材料の創成 機能臓器の再生には、異種細胞・異種組織からなる3次元構造の再構築が必須です。人工レセプター・リガンド技術により3Dマトリックス中で機能細胞を適切に配置し、幹細胞の分化を誘導することで、生体の治癒力を最大限に引き出した臓器再生用の次世代スキャホールド基材を構築します。血管内・中・外膜を完全に再構築した小口径再生型血管の前臨床研究の完了に加えて、さらに複雑な構造を持つ組織再生のための基盤技術を構築します。 山本 敬史
株式会社ジェイ・エム・エス 
中央研究所 第4研究室 室長
中間評価(ステージT)

山岡 哲二
独立行政法人 国立循環器病研究センター 生体医工学部 部長
LAP陽性制御性T細胞およびTGF−βに対する選択除去材の創製およびがんの革新的治療法への応用 がん患者では血液中に免疫を低下させる制御性T細胞やTGF−βが増加しており腫瘍の増殖や再発・転移を助長するので、この制御性細胞、とりわけ、LAP陽性T細胞およびTGF−βを選択的に除去できる吸着材およびこれを満たす体外循環カラムを開発しました。そこで、カニクイザルを用いてこのカラムの効果と安全性を確認するとともに、このカラムと他のがん治療技術とを組み合わせて、悪性腫瘍の縮小ができるがん治療技術を開発します。 金子 正之
東レ株式会社
医薬・医療事業企画推進部 部長
兼技術センター企画室 主幹
中間評価(ステージT)

小笠原 一誠
滋賀医科大学 病理学講座疾患制御病理学部門 教授
※PM(プロジェクトマネージャー):各課題の取りまとめ役

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