研究開発テーマ「スピン流を用いた新機能デバイス実現に向けた技術開発」
プログラムオフィサー(PO):安藤 功兒(独立行政法人 産業技術総合研究所 フェロー)
■ 研究開発テーマの設定趣旨
公募説明会における本研究開発テーマのPO発表等については、「公募情報」ページの「■公募・選考スケジュール」内の「POメッセージ及び公募説明会発表資料」にてご確認ください。
1.研究開発テーマの概要
電子は電荷とスピン(磁化)の二つの自由度を有していますが、従来これらの自由度は別々に産業に利用されてきました。二つの自由度を結びつける手段としては、効率の低い電磁コイルしかなかったからです。しかし80年代後半の巨大磁気抵抗(GMR)効果の発見はこの事情を大きく変えました。電荷とスピンの間で直接働く量子力学的相互作用を利用することで、二つの自由度を効率よく結合することが可能となりました。このパラダイムシフトが生み出したGMR素子は磁化の情報を直接電気情報に変換する高効率な情報読み取りヘッドとして、ハードディスクの容量の飛躍的向上をもたらしました。スピントロニクスと呼ばれるこの技術分野からは、その後も、トンネル磁気抵抗(TMR)素子や不揮発性メモリである磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)が市場に出て行き、現在、ストレージ・メモリ産業を大きく変えつつあります。これらのスピントロニクス素子の成功は、いずれも、固体中におけるスピン偏極、スピン注入、スピントルクなどのスピン流と呼ばれる特異な物理現象を利用することにより実現されたものです。スピン流の学理は最近さらに急速な発展を見せつつあり、スピンポンピング、スピン蓄積、スピンホール効果、逆スピンホール効果、スピンゼーベック効果などの新しい概念が続々と出現してきています。そのため、スピン流からはさらに新しい応用デバイスが生み出されるものと大きな期待がかけられています。
わが国はスピントロニクス・スピン流の基礎研究とその実用化の両面において、世界的にずば抜けた実績を誇っています。このような背景をもとに、本研究開発は、スピン流の新たな革新的応用可能性を探ることを目的として実施されるものです。
2.プログラムオフィサー(PO)による公募・選考・研究開発テーマ運営にあたっての方針
本研究開発はスピン流という新しく発展しつつある学理に基づくものですが、基礎研究ではなく、具体的な応用デバイスの開発を目指すものです。10年間の研究開発が終了した時点で、企業が本格的な実用化開発の活動を始めることのできるような、応用デバイスの観点からの実体ある成果を出すことが求められます。
以下は、先日行われたワークショップで議論された研究開発課題例と、それらに対するPOのコメントです。ただし、これらの課題の採択を優先するものではありません。下記の枠に含まれない課題であっても、本公募の趣旨に適合した優れた提案であれば採択の対象とします。
@スピントルク高周波素子
スピン流がもたらすスピントルクを用いたマイクロ波領域の高周波素子です。現時点における、この技術の発展レベルを考慮して、単純な発振器や検波器の開発は本研究開発の対象外とします。スピントルク高周波素子自体の高性能化に加えて、そのナノスケールの微小サイズ性や、電流や外部磁場により発振周波数を変化させることができるなどの特徴を活かした革新的な応用システムの開拓を期待します。ワークショップでは、三次元磁気ストレージシステムや超高感度磁気センサへの応用などが話題になりました。システムデモンストレーションを含む提案を期待します。
Aスピン熱デバイス
スピン流と熱の相互作用を用いるデバイスです。ワークショップではゼーベック素子やペルチェ素子としての可能性が話題になりました。従来のスピントロニクス素子とは異なり、スピン以外の現象を用いても実現されるデバイス機能を目指すものですので、発電効率やコストなどの面で既存技術に対する明確な実用的優位性を実証する提案を期待します。
Bスピントランジスタ
スピンを用いた論理素子用デバイスです。論理素子への不揮発性機能の付与という点では、スピン固有の強みを活かした応用デバイスですが、スピン自由度を用いてCMOS論理回路を越える高エネルギー効率情報処理素子を開発するという期待もあります。最終目的とする機能を明確にした上で、その実現までの具体的マイルストーンを明示した提案を期待します。
Cスピン光デバイス
スピン依存の物性を用いる光デバイスです。非相反性を用いて実現される半導体集積回路用光アイソレータや、不揮発性機能の光素子への付与などがワークショップでは話題になりました。最終目的とする機能を明確にした上で、その実現までの具体的マイルストーンを明示した提案を期待します。
採択に当たっては、デバイスが実現された場合のインパクト性と、それを実現するための具体的マイルストーンの提示、そしてそれを実施しうることを担保するこれまでの研究実績を重視します。
スピン流の学理がまだ若く、かつ急速に変化しているという事情を考慮して、ステージTでは、優れた提案が多くある場合には採択件数は4件に限りません。ただし、その場合、ステージTの研究開発費は採択課題数により予算の調整を実施し、さらに、ステージU移行時に実施する中間評価の結果等を総合的に考慮し、課題数の絞込みを行います。
課題の実施に当たっては、POおよびPOが指名する専門家による研究進捗モニターを頻繁に実施するとともに、必要に応じて採択課題間の協力を要請しますので、対応していただきます。
■ プログラムオフィサー(PO)及びアドバイザー
| 氏名 | 所属・役職 | |
|---|---|---|
| PO | 安藤 功兒 | 独立行政法人産業技術総合研究所 フェロー |
| アドバイザー | 小野 輝男 | 京都大学化学研究所 教授 |
| アドバイザー | 川端 清司 | ルネサスエレクトロニクス株式会社 主任技師 |
| アドバイザー | 小柳 剛 | 山口大学大学院理工学研究科 教授 |
| アドバイザー | 城石 芳博 | 株式会社日立製作所 研究開発本部 主管研究長 |
| アドバイザー | 高梨 弘毅 | 東北大学 金属材料研究所 副所長/教授 |
| アドバイザー | 田口 隆志 | 株式会社デンソー 基礎研究所 担当次長 |
| アドバイザー | 田中 雅明 | 東京大学大学院工学系研究科 教授 |
■ 課題
| 課題名 | 課題概要 | PM (※) |
開発リーダー |
|---|---|---|---|
| 研究リーダー | |||
| 3次元磁気記録新ストレージアーキテクチャのための技術開発 | 記録ビットの極微化によって高密度化の限界に直面している磁気記録のブレークスルーを目指し、新原理に基づく3次元磁気記録技術の開発を行います。具体的には、スピン流を用いた新機能素子であるスピントルク発振素子が記録媒体中に誘起する磁気共鳴現象を利用して、多層磁気媒体への選択的記録・再生を行います。この技術により、磁気記録の飛躍的な高密度化を可能とし、新原理に基づいた超大容量ストレージを実現します。 | ○ | 佐藤 利江 株式会社東芝 研究開発センター フロンティアリサーチラボラトリー 室長 |
| 久保田 均 独立行政法人産業技術総合研究所 ナノスピントロニクス研究センター 金属スピントロニクス研究チーム 研究チーム長 |
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| トンネル磁気抵抗素子を用いた心磁図および脳磁図と核磁気共鳴像の室温同時測定装置の開発 | 生体からの微小磁場検出装置の開発を行います。従来のSQUIDによる生体磁気計測では、液体ヘリウム容器が障害となりセンサーを生体に密着できませんでした。本研究では、室温で動作する多数のトンネル磁気抵抗素子を鎧帷子状に配置し胸・頭部の皮膚に密着させて心磁図・脳磁図を得ることができる装置を開発します。これにより、近接計測による空間分解能を格段に向上できるため、安価で実用的な医療機器として飛躍的普及が期待できます。 | 西川 卓男 コニカミノルタテクノロジーセンター株式会社 LC事業推進室 マネージャー |
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| ○ | 安藤 康夫 東北大学大学院 工学研究科応用物理学専攻 教授 |
