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  3. 高齢者の詐欺被害を防ぐしなやかな地域連携モデルの研究開発
写真:渡部 諭

渡部 諭秋田県立大学
総合科学教育研究センター 教授

詐欺への抵抗力を高める取り組み

特殊詐欺への抵抗力を判定するアプリの研究開発や、詐欺への抵抗力を向上させる普及啓発活動の拠点の構築に取り組みました。

概要

超高齢社会ならではの社会問題である高齢消費者被害は、有効な対応策が見出されないまま被害が高水準に推移しており深刻化しています。経験のみに基づく従来の対策から抜け出し、心理学やICTを駆使した科学的予測に基づく対応が求められる時期に来ています。
本プロジェクトでは、詐欺被害に遭いやすい心の「クセ」を認知心理学を応用した詐欺抵抗力判定アプリによって把握し、詐欺脆弱性予測に基づくオーダーメードの被害防止策を提供する体制の構築を行いました。それが、国・警察・司法・自治体等の「公」空間と高齢者の日常生活である「私」空間をつなぐ「間」に構築されるしなやかな地域連携ネットワークです。更に、高齢者の生活全般への目配りにも配慮し、生活全般の改善にも努めると共に、コロナ禍での特殊詐欺被害の変化にも対応できる連携にも努めました。

図

研究開発の成果

従来のような経験のみに基づいた特殊詐欺被害防止とは異なる対策を可能とする「特殊詐欺抵抗力判定アプリ」をプロジェクト活動の中で公開してきました。2021年4月からアプリ点検等のため、一時公開停止していますが、今後、再公開することを目指しています。次に、このアプリの利用に基づいて、高齢者の生活全般についてお話を伺い、適宜援助を行う体制が構築されました。この体制は、青森では大学を核とした地域連携、神奈川では一般社団法人を中心とした地域密着型の活動体制です。このような活動と並行して、軽度認知障害(MCI)および認知症高齢者の消費者被害防止研究にも着手することができ、「特殊詐欺抵抗力判定アプリ」の普及には警察にも協力していただいております。更に、研究活動を記録し、今後の活動の資料として活用する試みも行い、デモグラフィック分析チームを中心に論文発表も多数行いました(例えば、Who is next? A study on victims of financial fraud in Japan",DOI: 10.3389/fpsyg.2021.649565)。以上の研究活動は、国や自治体等からも注目され、多方面からの協力を得ることができました。

研究開発のアピールポイント

恒常的な詐欺抵抗力向上のための活動拠点の設置

アプリを用いて詐欺抵抗力向上のための普及啓発活動の拠点として、20名程度の高齢者が恒常的に利用できる「安全・安心・健幸交流カフェ」を青森大学内に設置し、令和2年10月の青森大学祭で最初の活動を実施しました。このカフェは青森大学の地域貢献活動の一環ですが、実際の運営は地域の包括支援センターや福祉法人等との協働で行うもので、プロジェクトの成果を継続的に発展させていく拠点です。また、ロコモ予防に役立つ「健幸aiちゃん」も利用できる設定となっていることから、高齢者は詐欺とロコモに対する抵抗力の向上を目指すことが出来ます。更に、アプリの使用方法等を動画としたDVDを用いてカフェの普及・広報活動を展開していきます。

高齢者の詐欺被害を防ぐしなやかな地域連携モデルの実現に向けた政策提言

「特殊詐欺抵抗力判定アプリ」のプライバシーポリシーや事後の情報利活用等について、高齢者の消費者問題あるいは特殊詐欺被害問題の解決のための政策提言をしました。詐欺脆弱者(=心理的な罠や落とし穴に引っかかりやすく、心に鍵をかけることが難しい人)の見守りには、地域における個人情報の共有が必要になります。そのための法的ネットワークの運用等について、本研究プロジェクトを通じて整理を行い、関係省庁に提案できたことは意義が大きいと考えられます。

成果の活用場面

青森実装グループの役割は、大学主導型地域連携ネットワーク(地域連絡協議会)を構築し、アプリ等を用いて高齢者の詐欺抵抗力の向上のための活動を行うことです。ポンチ絵に示されるように、青森県警、青森市、地域の町会、福祉団体等との連携の中、大学主導型のしなやかな地域連携を軸に詐欺抵抗力判定アプリの運用・啓発・相談等の活動を行ってきました。今後は、連絡協議会を軸に「安全・安心・健幸交流カフェ」を活動の場の中心としながら、外部にも出張し活動を展開していきます。
公益目的での個人情報の利活用に関しては、個人情報保護委員会のガイドラインにおいても2021年に示される予定ですが、本研究プロジェクトにおける検討成果も同内容に一部取り入れられる見込みです

青森実装フィールド

図

成果の担い手・受益者の声

担い手
高齢者はアプリの操作時間に個人差があり、想定外の不具合も起こるため、大人数に同時にアプリ体験してもらう事は計画通り進まず難しい。操作に慣れると楽しんでいる様子が分かる。学生サポーターも、高齢者と直に課題解決できるため勉強になる。(サポーター職員:青森県生協連合会、福祉施設職員、学生)
受益者
アプリ判定結果の説明が良く分かり、周りの方との会話も弾みます。学生の寸劇が面白く、詐欺について興味を持てた。ロコモティブシンドローム予防のための「健幸aiちゃん」による体力測定も合わせてできるため、楽しみながら参加できる。(青森市在住高齢者)

目指す社会の姿/今後の課題

「詐欺抵抗力判定アプリ」の利用を中心として、青森においては大学を核として金融機関や医療機関、生協等が連携する地域連携協議会が構築され、神奈川では一般社団法人を中心とする地域密着型の連携体制が構築されました。それらの体制の中で、アプリの判定を契機としながら、高齢者の生活全般について相談に乗る活動が走り始めました。今後は、公的機関との連携の更なる深化が求められると共に、詐欺被害防止を担う次世代の養成が期待されるでしょう。その意味で、プロジェクトで実施したアクションリサーチに基づく青森での消費者教育や神奈川でのサポーターの養成は今後期待できる活動であると思います。

研究開発の関与者

  • 秋田県立大学
  • 京都府立医科大学
  • 青森大学
  • 広島大学
  • 慶應義塾大学
  • 八戸工業大学
  • 一般社団法人シニア消費者見守り倶楽部
  • 青森県警察本部
  • 青森市役所
  • 青森市社会福祉協議会
  • 青森県消費者協会
  • 青森県生活協同組合連合会
  • 青森商工会議所
  • 青森県中小企業家同友会
  • 社会福祉法人宏仁会
  • みちのく銀行
  • 青森市幸畑地区連合町会
  • 医療法人芙蓉会芙蓉会病院
  • 青森市南地域包括支援センター
  • 秋田県警察本部
  • 世田谷区役所危機管理室地域生活安全課

内容に関する問い合わせ先

〒010-0195 秋田県秋田市下新城中野字街道端西241-438
秋田県立大学 総合科学教育研究センター
渡部 諭
TEL:018-872-1553
watanabe314[at]akita-pu.ac.jp ※[at]は@に置き換えてください。

〒030-0943 青森県青森市幸畑2丁目3-1
青森大学JST/RISTEX研究開発プロジェクト
研究プロジェクトリーダー:澁谷 泰秀
TEL:017-738-2001(内線:736)/FAX:017-738-2001
sibutani[at]aomori-u.ac.jp
araya[at]aomori-u.ac.jp ※[at]は@に置き換えてください。

事業に関する問い合わせ先

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)
[連絡先] pp-info[at]jst.go.jp ※[at]は@に置き換えてください。