2017.09.29

採択にあたっての國領二郎領域総括からのコメント

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<領域総括総評> 國領 二郎(慶應義塾大学 総合政策学部 教授)

ブームと言っても良いAIへの関心が高まる中で、本質に迫る取り組みを進めるべく、本年は採択する対象を絞りこむことにいたしました。すなわち、募集要項において、採択対象を「AIなどの情報技術を使った機械が製作者たる人間の直接的介在なく自律的に学習・判断・自己再生産などを行うと考えられる範囲が拡大し、機械と人間からなるシステムにおける人間の役割の根本的再検討が求められるようになってきていることに伴う社会的課題への対応」と、従来よりも絞り込んだ形で記述させていただきました。絞ることで応募数が減るかと心配もしてみたのですが、蓋を開けてみたら、66件もの応募をいただきました。改めて応募の労をとって下さった全ての皆様にお礼を申し上げます。また、激戦だった帰結で、とても優れた提案のいくつかを、涙をのんで見送るようなことにもなりました。それらの提案者の皆様にはお時間を使っていただきながら、ご期待に沿えなかったことをおわび申し上げます。

本年採択された取り組みの中には、昨年の採択ではカバー仕切れなかった労働市場へのインパクトについてのものがあるほか、今までになかった他の新しい切り口が加わっています。継続して下さるプロジェクトも含めて、全体としてより幅広く、深く当領域の問題意識をカバーできる体制が整って参りました。

当領域も2年度目に入ったわけですが、取り組みを進めれば進めるほど、この領域として成果を生み出す難しさも感じさせられています。技術ないしは社会的問題において、顕在化していない、潜在的なものを扱うとする領域にとっては宿命ともいえるのですが、課題を記述する概念も、課題の程度を計測する手法も、政策や技術に対してフィードバックを行う手法も、まだ暗中模索の状況といっていいように思います。また、募集の際に「製作者の意図から独立した機械の自律性は存在するのか、そもそも自律性とは何か」という根源的な問いも研究の範疇内、とさせていただいたことに象徴されるように、知性の主体が揺れ動く今回の研究対象は、単なる技術の社会インパクトを検討するのとは、質的に異なる側面を持っています。

一方で、この分野は日本が世界に対してユニークな貢献を行いうる分野であることの確信も深まってきています。日本には、長い歴史を持つAIやロボット研究の思索の歴史があるほか、自然や機械と共生する西洋文明とは異なる世界観があって、より自然な形で技術と社会が共進化するモデルを構築する素地があるように思います。新しいモデルをいかに形式知化し、世界に発信していけるか否か、我々の手腕が問われているようにも感じています。新体制のもと、皆様のご指導を仰ぎながら前に進んでまいりますので、どうかよろしくご支援のほど、お願い申し上げます。