2016.11.25

採択にあたっての國領二郎領域総括からのコメント

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<領域総括総評> 國領 二郎(慶應義塾大学 総合政策学部 教授)

「人と情報のエコシステム」研究開発領域では初年度の公募を6月から8月にかけて実施いたしました。公募にあたっては東京と京都において説明会を開催し、本領域がめざす、人間と技術がなじみながら、共進化するエコシステムのイメージについて説明させていただきました。結果として研究開発プロジェクトの提案が54件、プロジェクト企画調査の提案が13件と多くの応募をいただきました。力と思いのこもった提案が多く、応募された皆様と、選考してくださったアドバイザーの皆様にお礼を申し上げます。

審査にあたっては、領域の目指す、人と情報技術がなじんで共進化するプラットフォームづくりに貢献してくださる可能性の高いと思われる提案を重視しました。採択された11提案は、テーマはさまざまですが、それぞれ、プラットフォーム形成に重要な礎石を提供してくださることを期待させるものです。

一方、レベルの高い提案でありながら、採択に至らなかった提案に二つのタイプがあったように思います。来年応募することを考えてくださる方々のためにご説明します。

一つは技術を活用しながら社会問題を解決することを目指すものです。共感は持てましたが、残念ながら特定の課題解決に特化しており、人と情報技術が共進化する一般化可能なプロセスとして定式化し、それをベースにプラットフォームを作って展開をはかる、という本領域の目指すゴールに合致していないものが多くありました。

もう一つのタイプは特定の情報技術の普及に向けて社会の理解の獲得を目指すものでした。そのようなプロセスも当然必要なのですが、本領域としては、むしろ技術の側がELSI※的観点から設計思想を修正していくようなプロセス作りを狙っています。そのため、開発する技術はあらかじめ決まっていて、その社会的受容を考えるというような姿勢が見える場合には、本領域の目指すところと異なると判断しました。もっと素朴に開発コストの一部を賄うための応募をされたように見えるものもありましたが、不採択とさせていただきました。

いずれのタイプについても、実証フィールドとしては非常に魅力的なものが多く、採択にいたらず残念です。本領域の狙いに共感いただけるようでしたら、上述の点を踏まえて、ぜひ再度挑戦していただきたいと願います。

審査を終えて、本領域の重要性と同時に、ただならぬ難しさを改めて感じています。情報技術は単なる便利な道具であることを超えて、人類を人類であらしめている「知」を、そしてあるいは「心」さえも作り出す圧倒的な力を持ち始めています。存在や倫理について真剣に考えて技術を育てることで、大きな果実を得ることが可能ですが、それを怠ると、大きな災厄を招いてしまう場合があります。技術の進化を止めることなく人間となじみを保っていくためには、技術の意味を理解し、正しく導く人間と技術の相互フィードバックを迅速かつ円滑に行っていかなければなりません。そのためには文理の壁を超えた議論のできるプラットフォームと人材づくりが欠かせません。それは言うは易くとも行い難い使命です。困難を乗り越えるべく取り組んでまいりますので、皆様のお力添えをよろしくお願い申し上げます。

※ELSI(Ethical, Legal and Social Issues):科学技術の倫理的・法的・社会的問題