2014年(平成26年)3月31日をもちまして、領域の活動は終了致しました。

活動報告

脱温暖化をめざして
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領域活動通信

第2回領域シンポジウム 「地域のヒト・モノ・カネ・エネルギーを脱温暖化につなぐ」

東京都新宿区 ベルサール西新宿(2010年4月23日)

平成22年4月23日、「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」研究開発領域の第2回シンポジウム「地域のヒト・モノ・カネ・エネルギーを脱温暖化につなぐ」をベルサール西新宿1Fホール(東京都新宿区)にて開催致しました。このシンポジウムは、地域のヒト・モノ・カネ・エネルギーを脱温暖化につないで、豊かで持続的な地域社会を実現するという社会技術的なアプローチの開発をさらに推進するために、最先端の情報に基づく活発な議論を行うことを目的として開催したものです。同時に本シンポジウムでは、平成22年度の公募(最終)にむけたメッセージの発信を行うことも企図いたしました。

あいにく冷たい雨の降る日でしたが、会場には朝から総勢200人の方々が集い、熱気にあふれ、8時間にわたるシンポジウムはあっという間に終わりました。

シンポジウム開催概要

  • 日時:平成22年4月23日(金)10:00~18:00
  • 場所:ベルサール西新宿(東京都新宿区西新宿4-15-3 住友不動産西新宿ビル3号館)
  • 参加費:無料
  • プログラム
10:00-10:10(10分) 開会挨拶
篠崎 資志<JST社会技術研究開発センター企画運営室長>
  10:10-11:00(50分) 講演「地域のヒト・モノ・カネ・エネルギーを脱温暖化につなぐ
~平成22年度領域公募のメッセージ」
堀尾 正靱<領域総括・東京農工大学名誉教授>
  11:00-11:50(50分) 基調講演1「生産者と消費者を脱温暖化に向けてつなぐために」
永田 潤子<大阪市立大学大学院創造都市研究科 准教授>
  11:50-12:45(55分) 昼食休憩
  12:45-13:45(60分) ポスターセッション(当領域採択プロジェクト)
  13:45-14:35(50分) 基調講演2「農山村再生の課題-人々でにぎわう地域に向けて-」
小田切 徳美<明治大学農学部食料環境政策学科 教授>
  14:35-14:50(15分) ポスターセッション講評
川村 健一<領域アドバイザー・広島経済大学 教授>
  14:50-15:10(20分) 休憩
  15:10-17:50(160分) パネルディスカッション
「地域のヒト・モノ・カネ・エネルギーを脱温暖化につなぐ」
ショートトーク1
 ◆島谷 幸宏<九州大学大学院工学研究院 教授>
 「多自然型川づくりを核とした主体形成と脱温暖化」
 ◆桑子 敏雄<東京工業大学大学院社会理工学研究科 教授>
 「地域主体形成における「佐渡島加茂湖水系再生研究所」の役割」
 ◆原田 淳志<総務省地域政策課長・緑の分権改革推進室長>
 「地域主権と緑の分権改革」
ディスカッション1

ショートトーク2
 ◆吉本 哲郎<地元学ネットワーク主宰>
 「弥栄における地元学の生成を見て」
 ◆梅原 真<梅原デザイン事務所>
 「マイナス1×マイナス1=プラス1」
 ◆田中 優<一般社団天然住宅>
 「地域に力を呼び戻す地域金融」
ディスカッション2

全体討論
 進行:堀尾 正靱<領域総括・東京農工大学名誉教授>
 パネリスト: 講演者、領域アドバイザー
  17:50-18:00(10分) 閉会挨拶
堀尾 正靱<領域総括・東京農工大学名誉教授>

【堀尾総括講演】
篠崎資志・社会技術研究開発センター企画運営室長の開会挨拶の後、領域総括の堀尾正靱・東京農工大学名誉教授が、「地域のヒト・モノ・カネ・エネルギーを脱温暖化につなぐ~平成22年度領域公募のメッセージ」と題し、講演を行いました。

堀尾総括の講演では、温暖化をめぐる問題の本質は「石油漬け「近代」システムの展開」である以上、脱温暖化・環境共生という目標を掲げる当領域の研究開発はそのような「近代」を作り直すという課題だととらえて始めて本格的な設計が可能となることがまず指摘されました。またその設計のためには、これまでの縦割り的な枠組みから脱却し、過疎化、雇用危機、燃料価格乱高下、生物多様性の喪失などの問題と連動させたヨコグシ的対策を促すという柔軟な社会技術的アプローチを行い、現実的効果のある温暖化対策の構築と検討を行うことが各プロジェクトに期待されていることが、進行中のプロジェクトの事例紹介などを行いながら説明されました。さらに、そういった研究開発を進めるための、当領域のR&Dマネジメントの試みや公募方針などが紹介されました。

堀尾総括

堀尾総括

【基調講演】
午前中の基調講演Ⅰでは、永田潤子氏(大阪市立大学大学院創造都市研究科准教授)から、「生産者と消費者を脱温暖化に向けてつなぐために」と題して、脱温暖化につながる消費者マーケティング戦略についての講演が行われました。永田潤子氏は、現在、当領域の「名古屋発!低炭素型買い物・販売・生産システムの実現」プロジェクトに関わり、流通業の現場を舞台に生産者、消費者、行政が、市民生活とそれを支える生産・流通の総合的な脱温暖化型への移行をどう開拓できるかについて、総合的な研究開発のプランを構築してこられました。この講演の概要は以下の通り:暮らしを通じて社会を変えていくことを目指し、企業にとっても消費者にとっても価値のあるものは何かを模索する、という観点から行った「女性のあした研究所」などの調査結果にもとづいて、生産者と消費者を脱温暖化につなぐための考察を行った。その結果によると、女性生活者は、男性が仕事を通じて社会を見る傾向があるのとは反対に、日々の生活の延長から社会を見ており、カーボンオフセットやグリーン調達などの大きな環境の視点より、ペットボトルのはがしやすさやつぶしやすさなど、商品やその企業がやっている個々のサービスを見て、企業を評価しているようだ。また、環境への関心は高いものの、その意識の高さと実際の購買行動については開きがある。実は消費者も企業も、そのギャップについてはよくわかっていない、とうのが現状。このように実際の行動とは開きがあるものの、消費者の意識は高い。この実態を踏まえると、消費者の購買行動を脱温暖化に変容するためのアプローチ・仕掛けについて、単に社会的価値(あるべき論)や責任論に基づいて意識の変容や購買行動の変容を促すだけでは購買行動は変わらないのではないかといえる。実際に行動を変えるためには、消費者の個人的価値を高めるようなアプローチも必要であり、そのためには、これまでの受け身の消費者という立場から、企業と消費者が対等な立場で共に創り出す参加・協働型アプローチ、消費者の幸せ感を引き出すようなアプローチ等も検討する必要がある。

今回女性の意識や購買行動に重点を絞り講演されたことに対し、フロアからは、消費者の半分は男性ではないか、という意見も出されましたが、永田氏より、家庭の購買行動の7-8割の決定権は女性が握っているという(衝撃的な!?)事実が示されました。この言葉で、家庭の消費の実態を振り返り、なるほど、と思われた男性参加者も多かったのではないかと思います。

永田潤子氏による基調講演I

永田潤子氏による基調講演I

午後の基調講演Ⅱでは、小田切徳美氏(明治大学農学部食料環境政策学科教授)から「農山村再生の課題-人々でにぎわう地域に向けて」と題し、豊富なフィールド研究に基づく農山村の現実と再生の可能性について講演が行われました。この講演では、農家所得の減少や生活上の困難の拡大など、農山村の危機的状況はあるものの、全国各地では、旧来の自治組織を補完し、革新的な地域づくりを行う新しいコミュニティの構築のきざしや、地域資源を活用するだけでなく、資源の保全、さらにそれらの資源を磨くことを目指す「地域資源保全型経済」、地域農林水産物を加工、販売する「第6次産業」、ゲストとホストを同時に成長させてくれる「交流産業型経済」、これらの産業の担い手の大部分が女性であることから「女性活き活き型経済」、意外と住民の追加所得要望は小さいことから「小さな経済」という、これらの新しい5つの経済による地域産業構造の構築のきざしがあることが紹介されました。また、それらの取り組みを「地域の自立(自律)に向けた内発的発展」と捉えるならば、そうした活動の基盤を支える国家の取り組みも同時に必要となることが示され、総務省による「緑の分権改革」は、まさに内発的発展を目指すものとして紹介されました。「内発的発展」については、フロアから「内発」の重要性を認めつつも、「外発」も地域の発展に重要なものであるから、「双発」という言葉を使うべきだ、という意見が出されました。

小田切徳美氏による基調講演Ⅱ

小田切徳美氏による基調講演Ⅱ

【ポスターセッション】
昼食休憩後、当領域の採択プロジェクトによるポスターセッションが会場前ロビーで行われ、参加者は各プロジェクトの説明を熱心に聞きました。

「中山間地域に人々が集う脱温暖化の『郷(さと)』づくり」プロジェクトでは、昨年度より、地元学ネットワーク主宰、吉本哲郎氏の指導の下で、島根県浜田市の弥栄自治区にて、地域住民を中心に弥栄の暮らしの「底力」を掘り起こす「地元学」を行ってきました。ロビーの壁面にはこの地元学で作成した絵地図が所狭しと展示されました。地域の知恵や宝がいっぱいつまっていて、見ていて楽しい、ともっぱらの評判でした。

各プロジェクト多種多様なポスターが面白いというご意見の一方で、参加者からは、目標や成果のアピールの仕方が物足りない、PDCAサイクルがよく見えない、といった意見も出されています。各プロジェクトは、これまで必死で地域との関係を築きながら、研究開発を進めてきましたが、平成20年度採択のプロジェクトももう3年目であり、目に見える成果を挙げ、さらにそれらを全国の人々に向けてわかりやすく伝えていくことが急務となっています。時代の課題と人々の期待に応えるため、領域一丸となって取り組みをさらに進める必要があります。

ポスターセッション1 ポスターセッション2
ポスターセッションの様子

【ポスターセッション講評】
ポスターセッション講評は、ご事情により急きょ欠席された、当領域アドバイザー川村健一氏(広島経済大学教授)に代わり、同じく当領域アドバイザーの山形与志樹氏(国立環境研究所主席研究員)にお願いしました。山形氏は、全プロジェクトで共通する項目はバイオマスである、ということから、コメントに代えて林業についてのお話をされ、傾斜地が多いことや人件費が高いという点で日本と同様な条件にありながら、世界的に有名な林産材の輸出国であり、ヨーロッパでも有数のバイオマスをエネルギー活用の先進国となったオーストリアの事例が紹介されました。オーストリアでは、森の市民へのアクセスの保障が義務化されたこと、森の小径がしっかりと整備され、レクリエーションと森林管理に利用されていること、森林自然保護、レクリエーション、観光、林業、エネルギー利用、雇用、温暖化対策などが同時に実現されているとのことです。20年以上前は日本と同じような低迷状況にあったオーストリア林業は、森林管理局(OBF)の改革、エコ電力法(FIT)の導入、そして地域での自発的なバイオマス活用などで見違えるように再生したとのことであり、大いに学ぶことがありそうです。

山形氏によるポスターセッション講評
山形氏によるポスターセッション講評

【パネルディスカッション】
パネルディスカッションは、2つのショートトーク・ディスカッションと全体討論の3部構成で行いました。産・官・学・市民の様々なバックグラウンドを持つ方々により、バラエティ豊かで刺激的なトークが繰り広げられました。

ショートトーク・ディスカッション1では、まず、島谷幸宏氏(九州大学大学院工学研究院教授)より、「多自然型川づくりを核とした主体形成と脱温暖化」と題し、全住民・全関係主体が協働で行う多自然型流域治水の推進を手掛けてこられた具体的事例が紹介されました。「前向き、多様、多彩、人脈、人柄が信頼できる」6人の発起人が、寝た子を起こし(人々の関心を呼び起こし)、自由な参加、自由な発言、発言の場の提供(市民会議)を行い、地域の主体形成(主体的に進める母体が地域に形成されること)を成功させてこられました。市民会議では「反対意見を言う人が必要。敵が味方に変わるとき大きく主体形成がなされていく。人は変わるから素晴らしい。」とのことです。地域で主体形成を行っていくには、もめごとを避けるのではなく、それらの構造を把握し、前向きにとらえ、活かしていく度量やスキルも必要なようです。

次に、桑子敏雄氏(東京工業大学大学院社会理工学研究科教授)により、「地域主体形成における「佐渡島加茂湖水系再生研究所」の役割」と題し、地域活動と研究活動を融合した形での活動拠点「佐渡島加茂湖水系再生研究所(通称カモケン)」について紹介が行われました。この研究所は、行政や専門家の一方的な説明ではなく、住民側からの情報も積極的に取り入れ、対話することができるよう、メンバー一人一人が「研究員」である、という理念で運営されています。また、カモケンで建設的な議論を展開するための空間設計なども行っているとのことです。地域主体形成の取り組みを、カモケンという形で組織的に展開している事例の紹介は、島谷氏の主体形成のお話を構造的に理解する助けにもなったかと思います。

ショートトーク・ディスカッション1を締めくくるお話として、原田淳志氏(総務省 地域政策課長・緑の分権改革推進室長)に、総務省が進めている「地域主権と緑の分権改革」についてお話をいただきました。緑の分権改革は、『現在の縦割りの行財政制度を地域集権型に改革していくことに合わせ、個々人の生活や地域の経済についても、「人材や食料、エネルギー、資源等ができる限り地域で有効に活躍される構造」に変えていくことにより、ヒト、モノ、カネ、エネルギーの動きそのものを改革し、地域の持久力と創富力を高めるような社会システムの構築を目指すもの』とされています。基調講演1のなかで、小田切氏が位置づけられていましたように、「緑の分権改革」はまさに地域の内発的発展を促すものとなっているようです。

ショートトーク・ディスカッション1
ショートトーク・ディスカッション1
(左から、岡田氏、原田氏、桑子氏、島谷氏)

「緑の分権改革」のように、国の政策としても、「地域の力」を後押しする動きがますます高まってきています。そのなかで、ショートトーク・ディスカッション2では、実践者の立場から、地域における主体形成について、語っていただきました。

吉本哲郎氏(地元学ネットワーク主宰)には、「中山間地域に人々が集う脱温暖化の『郷』づくり」プロジェクトにおいて、島根県浜田市弥栄自治区で地域とプロジェクトとの間の関係性を作り直すために手掛けてきていただいた「地元学」について、お話を頂きました。吉本氏のトークは「地元学の目的はだまされないようになること。そして、地元学をやればどうなるかというと、人生を棒に振って下さい、ということ。だから皆さんは、私の話をお気をつけてお聞きになって下さい。」という辛口の冒頭挨拶に続き、弥栄における地元学を以下のように説明されました。「当事者のいない地域づくりは失敗である」という考えから、最初は当事者づくりに力点を置いて「あるもの探し」を行ってきた。次は「活用」や「磨く」、ということになると思われるが、これには時間がかかる。また、戦略的には地元の課題を創造的に解決していく方法を取ることが現実的であり、そこに脱温暖化に向けた行動が共に展開されていけばよい、と思っている。「弥栄では、高齢化が進み厳しい現実がある一方で、近代というものが忘れていた懐かしい日本があった。」吉本氏独特のぽつぽつとした語り口で、地元学によって、地域が発見していった宝の多様さ、弥栄の心に残る情景や人々の笑顔の輝き、心の動きが、私たちにも活き活きと伝わってきます。楽しくもどこか切ない思いになったのは、吉本氏の力で地域の人々の生きざまの琴線に触れることができ、心が揺さぶられたからでしょうか。

次に、デザイナー梅原真氏(梅原デザイン事務所)から「マイナス1×マイナス1=プラス1」と題し、梅原氏がこれまで手掛けてこられた地域を元気にするプロジェクトは、マイナスをプラスに変える発想の転換が基本となっていることが示されました。地元の人は何もないと思っている砂浜を、何でもないもので砂浜美術館にしてしまったり、高知県の84%の森林率を、co2吸収マシンとすれば時代の最先端だ!という発想で「タノシク」産業を興してしまったり、と鮮やかな発想の転換・手腕と、非常にユーモアあふれた語り口に、会場では笑いと喝采が起こりました。

ショートトーク・ディスカッション2を締めくくったのは、「地域に力を呼び戻す地域金融」として数々のNPOバンクを手掛けてこられた、田中優氏(一般社団天然住宅)でした。省エネ住宅を普及するために、高いイニシャルコストをランニングコストに分割して低金利で融資するNPOバンクの仕組み導入の実践や、地域内でモノが循環しているときが地域が活性化されているときである、という考えから地域の代替通貨の可能性についても言及されました。とれだけ地域にお金があっても、地域から出ていってばかりでは、地域は存続できません。お金は地域で循環してこそ意味がある。そのためにどういった仕組みを仕掛けていくのか、非常に重要な提案でした。

ショートトーク・ディスカッション2
ショートトーク・ディスカッション2
(左から、堀尾氏、田中氏、梅原氏、吉本氏)

最後に、全講演者・領域アドバイザー2名(岡田久典氏(NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク副理事長)・崎田裕子氏(ジャーナリスト・環境カウンセラー))も壇上に上がり、堀尾総括の司会で全体討論が行われました。ここでは、会場からの質問を中心に、熱のこもった議論が繰り広げられました。会場からの「農山村に若い人が行きたがらないのではないか」という質問に対し、小田切氏は、「若い人々が農山村の支援のために、農山村に住み込んで自分の力を発揮したいことをやりたい、という動きが強まっている。大学を休学したり、卒業した後に数年間地域で活動をしている若者は全国でおそらく500人以上いるであろう。そういった若者が地域支援から定着・定住に踏み出すことが重要で、そういう点でいえば、若者は農山村を捨てていないと思っている。その入り口が今開き始めたが、さらに一歩をどう踏み出すのか、というところに新しい政策が必要だと思っている。」と答えられました。500人という数字を多いとするか、少ないとするか、というところで意見は分かれるところだと思いますが、潜在的な興味、ということでは、現在の若者は思った以上に、農山村で何かをしたい、と思っているようです。では、研究者が地域に根ざして活動する、ということはどういう意味を持つことなのでしょうか。領域プロジェクトで、実際に地域に根ざして活躍している若手研究員からは、「地域ではなければ学べないことをたくさん学び、社会に本当に役に立つ研究をしていくうえで、非常に重要な経験をしている。」、「既存の学術研究をしたいと思って研究者となったわけではなく、多少のハードルは自分の力となると思っている。むしろ自分たちの新たな研究分野を作らなければならないと思っている。」といった力強い意見が出されました。指導教官の立場として、桑子氏からは、「フィールドに入りながら研究をしていくのは非常に難しく、研究の成果をどう発表していいのかも、試行錯誤である。」、また島谷氏からは、「学部や修士で卒業する学生なら良いのかもしれないが、こういうテーマで博士を取らせるには、就職がないのではないか、と不安でまだ勇気がない。こういったテーマで食べていけるには、あと2年くらいかかるのではないか。」といった本音も出されました。崎田氏は、これらの意見を受け、「研究者が地域と協働で活動を行う、ということは、地域実践で終わってしまうところを、科学的な裏付けや立証を通じて他の地域の普及にもつながることを意味しており、地域にとって非常に心強いことである」と評価したうえで、「地域で汗をかいたことが研究者にとって評価される社会になればよい」、という意見を述べられました。産・官・学・市民が地域で協働するには、相互のコミュニケーションをいかに取っていくかが大事です。梅原氏からは、今回のシンポジウムの講演・トークのなかで「まだ一般にわかりにくい内容が多かった。行政にも研究者にも、メッセージをわかりやすく伝える、という視点が欲しい。」とコミュニケーションデザインの重要性を訴えられました。また、「地域での大きな構想に基づいた取り組みも重要だが、地域の人々には、日々の生活のなかから、感じたことや、こうしたい、という思いがあり、住民が自ら一生懸命考え、主張して実践に移していく、地道な努力にも敬意を払いたい」、といった意見もフロアから出されました。総合討論の時間は、約1時間用意してありましたが、熱い展開にあっという間に時間が過ぎて行きました。終了後のアンケートでは、「発言が個性的で良かった」、「なんだか未来が明るく見えてきた」、「市民自身が自立した考え方を持って、行動することが大事であることがよくわかりました」など、概ね好意的な意見をいただき、それぞれの講演者・パネラーの熱い思いやメッセージが伝わったものと、うれしく思っています。一方で「論点が広がりすぎているのでは。」「ヒト(どんな人か?)、モノ(どんなもの?何か?)、カネ(money?)かセンスがない。」などの辛口コメントもありました。

パネルディスカッション・全体討論
パネルディスカッション・全体討論

最後に、参加の皆さまにご記入いただいたアンケートから、領域についてのコメントを一部ご紹介して開催報告を終わりにしたいと思います。今後、領域の成果を発信していくなかで、これらについても、領域のメッセージとしてより明確にお応えすることができるものと、考えております。あいにくの天候のなか、足をお運び下さった皆様に改めて感謝を申し上げます。領域の更なる展開を期待していただき、今後もお付き合いいただければ幸いです。

【シンポジウムアンケート:「領域について」のコメント紹介】
「成果の公開を期待しています。」(50代・男性) 「研究領域が何を狙うのか全体的に伝わりにくかった。エコで得するという話ではなく、心の再近代化という話かと思いました。」(40代・女性)
「今回、色々な提案がなされているが、それを産業側から見たとき妥当であるのかどうかの評価が必要ではないかと考えます。」(60代・男性)
「地道に継続的に活動支援することが肝心だと思います。大玉の打ち上げ花火をドンドンあげているとあたかも研究や活動が盛んに行われているように見えますが、こういう形だとなかなかお金も人のエネルギーも長続きしないと思います。地道に永く何かを続けるためには、見守ってくれる人、遠くには住んでいてもいつも気にかけてくれる人とのつながりが欠かせません。そういう心意気で各地域で生きている人々を応援してほしいと思います。」(30代・女性)
「まさに大切なことは以下のことと思いました。・わかりやすく・境界を越える・聞く、話す・回す」(40代・男性)
「堀尾先生がおっしゃったパラダイムシフトというキーワードが印象的でした。確かに既存の技術システムから飛躍したアイデアが必要だと思います。また、適正技術が、課題解決のキーワードであると感じました。」(30代・男性)
「堀尾先生は、ヒト、モノ、カネ、エネルギーの4要素を挙げておられますが、もうひとつ重要な要素として、インフォメーションがあり、この要素も考慮に加えるべきと存じます。その5要素を考慮しつつ、新たな価値を生み出すコミュニケーションと研究、討議のプロセスが創出されることが、イノベーションを生み出すために不可欠なように思います。」(60代・男性)
「実践型の素晴らしい領域。とはいえ知的エリートによる知的エリートのための知的体操。既に恵まれた地位にいる研究者、機関でなく、地域の活動に直接資金を回してあげてはいかがですか?」(40代・男性)
「「地域に根ざした」というところで多様で面白いアイデアがでてくると期待できる。実践を根付かせるための仕組みが今後必要と考える。」(40代・男性)
「研究開発テーマに先進性が認められる場合の、推進促進のサポート方法を検討してほしい。」(60代・男性)

社会技術研究開発センター アソシエイトフェロー
重藤 さわ子 


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