2014年(平成26年)3月31日をもちまして、領域の活動は終了致しました。

活動報告

脱温暖化をめざして
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領域活動通信

第2回領域合宿

東京都新宿区 日本青年館ホテル(2009年12月3~4日)

 平成21年12月3~4日、「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」研究開発領域の合宿を、日本青年館ホテル(東京都新宿区)にて開催致しました。各プロジェクトから平均4-7名の参加があり、会場は、総勢90名超の熱気に包まれました。昨年の合宿では初年度ということもあり、主にプロジェクトの紹介と、領域の目標を共有するための議論を中心に行いましたが、本年度はセッションごとにメインテーマを設定し、そのテーマに沿って活発な議論を行うために、主に関連するプロジェクトがそれぞれ発表を行い、議論を行う、ミニ学会方式をとりました。

【1日目】12月3日(木)
 開会に際し、篠原孝民主党議員(衆議院財務金融委員会筆頭理事・衆議院議員)が駆けつけて下さり、現政権には理系出身者が多く、篠原議員も理系出身であること、エコロジストとして、当領域の活動に共感をえるところがあること、政権交代に伴い、少し視点を変えていくことも必要であること、などと、当領域の活動に励ましのお言葉をいただきました。

【篠原孝議員】
篠原孝議員

 堀尾総括の講演では、現在採択しているプロジェクトの概要を紹介するとともに、当領域の目標は「近代」の作り直しととらえて始めて本格的な設計が可能となること、またその設計のためには、「適性技術」概念をよりどころにした技術戦略の作り直し、心の作り直し、主体形成の視点を欠いた従来の「たて割・ぬるま湯・うえから目線」を「れんけい・沸騰・なかから目線」に変えていく必要があること、また都市的な発想によらないところから始めることが様々な「作り直し」に通じるのではないかと考えられること、などが強調されました。

【堀尾正靱総括の講演】
堀尾正靱総括の講演

 テーマ1「地域でのco2大幅削減のシナリオづくり~総論として」では、内藤プロジェクトから「滋賀県の場合、何がco2削減の決め手となるのか 」、黒田プロジェクトからは、「環境共生の山形を地域間産業連関分析でどう設計・計画するのか 」について、発表が行われました。

 これらのプロジェクトでは、産業連関表の基本単位である県レベルのデータ分析を地域の個々の環境活動行動の分析に活かすための試みが行われています。しかし、県レベルの削減可能性とそのメニューが示された後には、それをどのように実効に移していくのか、という大変難しい課題に直面します。co2大幅削減を地域レベルの課題とどう結び付けて実効性のある取り組みをしていくのか、次テーマにつながる熱い議論が行われました。

 今回はポスターセッションで個々のプロジェクトの紹介を行ってもらいました。各プロジェクトから力作が持ち寄られ、時間が短い、というぼやきが出るほど熱心にプロジェクト間の情報や意見の交換が行われたようです。

【ポスターセッション】
ポスターセッション1 ポスターセッション2

 テーマ2「co2大幅削減はどのように地域の課題に結びつくのか」では、亀山プロジェクトから「観光地の作り変えと交通を切り口にして 」、桑子プロジェクトからは「ヨシ原の持つco2削減ポテンシャルをどう捉えるか」、両角プロジェクトからは「分散型エネルギーの導入を切り口にして」、千頭プロジェクトからは「生産者と消費者を脱温暖化に向けて変革する流通業の活動を設計する」という、それぞれの地域の課題を切り口とした発表が行われました。従来のアプローチと比べた独自性について、co2削減の評価の仕方や削減に関わる仕組みづくりを、地域の人々と一緒に作り上げていくということを重視していることが強調されました。

【テーマ2】
テーマ2

 テーマ3「地域主体をどう形成するか」では、駒宮プロジェクトから「小水力を核とした地域主体形成計画」、宝田プロジェクトからは「地元学調査を導入したことの中間総括と反省」、藤山プロジェクト地元学調査を導入したことの中間総括と反省」という、地域主体の形成に主眼を置いた発表が行われました。従来型のトップダウン、縦割りのアプローチをしていく限り、本領域が求める「地域に根ざした」実効性のある取り組みにつながっていきません。住民自ら動く状況をいかに作り出していくか、まだ課題を残しつつも、地元学調査を実践した二つのプロジェクトからの発表は、他のプロジェクトにも大きな示唆を示してくれたようです。

 テーマ4「一歩先へ~爆発的うねりを生みだすために」では、co2大幅削減のカギとなる活動が全国的に大きく普及していく切り札はなにか、という観点で発表をしていただきました。飯田哲也さん(飯田プロジェクト)からは最新のco2削減をめぐる政府の動きについて、上坂博亨さん(駒宮プロジェクト)からは領域がプロジェクト横断的に社会的インパクトのある成果を上げていくためのタスクフォースの活動についての紹介を、相根昭典さん(外岡プロジェクト)からは、森と街の直接連携により日本を変える、という視点で取り組まれてきた天然住宅プロジェクトについて発表をしていただきました。また、個々のプロジェクトで完結しないためにも、どう金融や制度など、それらを支える仕組みも作っていけるかについても、意見が交わされました。

【テーマ4】
テーマ4

 夜の部では、有吉佐和子以来の有機農法の歩みを実践し、むら丸ごと有機栽培の地域に育て上げるという、大きなお仕事をリーダーとしてされてきた山形県高畠町の星 寛治さんと、高畠町立二井宿小学校の校長先生として生徒とともに、給食の自給率50%への素晴らしい活動を実現しておられる伊澤良治先生においでいただき、早稲田環境塾塾長・毎日新聞論説委員・早稲田大学特命教授の原 剛先生の司会でお話を伺いました。星さんからは、「変わり者」のレッテルを貼られた、有機農業を始めた頃からの苦労、高畠で有機農業が根付いた背景には、新たな集団が生まれた際に、そこにこれまで培ってきた全てのノウハウを注ぎ込む努力を惜しまなかったこともあること、有機の土は生命力にあふれ、多少の気候変動にも影響を受けにくいことなどが、詩人でもある星さんらしい、大変美しい言葉で語られたことに感銘を受けました。また、伊澤先生からは、子どもたちが自分たちで食べる食べ物を作ることにより、農だけでなく生命とふれあいのなかで思いやりの気持ちが育まれること、また地域の人々に支えられ農業を行っていくことで、地域の人々への感謝の気持ちも培っていくことなどが、率直にかつユーモラスに語られ、心を打ちました。ここで紹介された、高畠の高い精神性に触発され、熱気ある議論を行うことができました。

【星寛治さんのご講演】 【井澤良治先生のご講演】
星寛治さんのご講演 井澤良治先生のご講演

【2日目】12月4日(金)
 テーマ5「人々の連携で地域再生・脱温暖化を目指す」では、本領域のアドバイザーである山形与志樹さんにより、「もりの小径で出会う人とエネルギー:オーストラリアで進む低炭素化」というタイトルで発表が行われました。オーストリアの林業は20年前には日本と同様衰退したものの、様々な政策により林業の活性化が成し遂げられた事例から、日本が学ぶ点について、例えば林道の整備が日本ではされているものの、作業道の整備が搬出コストを抑えるためには重要であること、また固定買い取り制度などにより、バイオマス利用が進む仕組みが作られていること、「林業」が前面に出るのではなく、森林自然保護、リクリエーション、観光、林業、エネルギー利用、雇用、温暖化対策が同時に実現されていること、などが指摘されました。また、田中優さん(外岡プロジェクト)からは、私たちの未来を決めるのはお金の流れ、という考えから非営利のバンクを市民事業のために興してきたこと、また東京にお金が集中することを防ぐためには、小さなバンクが全国多数広がる必要があること、得になる仕組みをどう作り出せるか、など、地域の活動を支えるファイナンスの仕組みの重要性について発表が行われました。これを受けて、本来このような役割を果たすべき信用金庫の現状や課題についても、参加者から意見が出され、熱い議論が行われました。また、日本でオーストリアのように作業道の整備が進まないことについて、所有権が分散化していることが問題であり、いかに所有権を集約化していくかが課題であることなどが参加者からも指摘されました。

【テーマ5】
テーマ5:1 テーマ5:2

 総合討論では、堀尾総括より、①co2大幅削減のシナリオと地域の活動はどうつながるのか、②環境教育のあり方、について議論することが提案されました。①については、地熱エネルギーにもっと目を向けてもらいたい、という意見が出たことに対し、温泉が無限にあればよいが、温泉組合との関係はどうするかという課題も示されるなど、技術シナリオを地域の経済活動に結びつける難しさも話題となりました。また技術によりco2削減が進めば進むほど、co2を更に削減することが難しくなっていくため、ワークスタイル、ライフスタイル、の変革などに最終的には結びつけざるをえなくなるのではないか、というような意見も出されました。また、②については新しい教育のイメージとの関連で議論され、日本の環境教育にはすばらしい蓄積があるので、それを見直すことも重要であること、また子どもを通した親教育のプロセスが研究できないか、などの意見が出されました。また、宝田プロジェクトや桑子プロジェクトなど、子どもを通じた活動も積極的に行っているプロジェクトからは、経験を通じたアドバイスなども出されました。その他、先端的でマニア的に捉えられがちであるが、非常に重要な活動をどのように普及させていくのか、ということについては、メディアをうまく活用していくことも重要であること、CDM(クリーン開発メカニズム)で数億円が海外に流れていることについて、国内でたくさんやることがあるのに、なぜ海外にたくさん払っているのか、国内に目を向けることも重要ではないか、など、様々な立場から、非常に熱い思いが語られました。

 プロジェクトに関わる産・官・学・市民の様々な立場の方々が日本全国から総勢90名超集まり、同じ目線で「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」づくりについて合宿という形で議論を行ったことは、日本広しといえども、研究開発の分野ではそうあるわけではありません。地域再生に大きなインパクトを与えるデザインで数々の実績を持たれている梅原真さんにデザインしていただいた当領域のロゴもこの合宿で初めて披露され、了承されました。この合宿が一つのきっかけとなり、領域内でも横断的に情報や人が行き交い、更には実質的な連携を生み、「ヨコグシ」を目指す領域にふさわしいプロジェクトの枠を超えた成果も生まれることを期待しています。

【領域ロゴ:梅原真デザイン】
領域ロゴ:梅原真デザイン

文責:重藤 さわ子 


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