2013年3月31日をもちまして、領域の活動は終了致しました。

 子どもが、自分を大切な存在だと思えなかったり、友だちや親との対人関係がうまくいかず、非行や犯罪に巻き込まれてしまうことがあります。子どもを被害者や加害者にしないために、これまで家庭や地域生活で育まれてきた社会性などを、学校で予防的に教育する必要性が高まっています。
 そこで、子どもの社会性を育て、怒りなどの情動のコントロールを学習するプログラム、SEL(Social and Emotional Learning)の開発に取組みました。プログラムは一般の小中学生向け(SEL-8S)と非行少年向け(SEL-8D)の2種類をつくり、効果を測定するテストも開発しました(図1)。

 開発したプログラムでは、あいさつや身の周りの整理整頓といった基本的生活習慣や、自己や他者の感情の理解、頼み方や断り方など意思を伝える方法、どういった時にイライラし、どうすればリラックスできるか、家庭や学校で自分にできる役割などを学習する単元を設定しました。これらを学ぶことで、対人関係や自己のコントロールなど、8つの社会的能力を育むことができます(表1)。
 SEL-8Sプログラムでは学校で取り入れやすいように、例えば職業体験学習の際にあいさつや自己紹介の方法を学ぶなど、他の学校行事と関連づけて行うことを提案してきました。また、SEL-8Dプログラムでは、ロールプレイやイラストを多用した教材をより多く取り入れるなどの工夫をしています。

 さらに、学習効果を測る2つのテストを開発しました。1つめは質問紙テストで、子どもや教員に普段の生活態度や意識について答えてもらうことで、自尊感情や対人関係能力などを測るものです。2つめは能力テストで、子どもに顔写真を見せて「この人はどんな気持ちですか?」などと尋ねて顔の表情への反応を測ったり、示された写真や絵の状況を理解して他人に共感する能力や危険を察する力をみるものです。

 SEL-8Sプログラムを小中学校で計画的に実施して効果を測ったところ、集団生活のルールを守る意識や、人の感情を察し、自分の感情を知って上手に表現する力がアップしました。また、SEL-8Dプログラムを児童自立支援施設で半年間実施したところ、人と関わるうえで大切なルールを守ることや問題解決能力などに改善がみられ、双方とも効果が見られる部分を確認できました。 開発したプログラムやテストが広く社会で活用されるよう、研究会を立ちあげて 継続的に取り組んでいく計画です。

代表者・グループリーダー
■小泉 令三:福岡教育大学教育学研究科 教授
■大上 渉:福岡大学人文学部 准教授
■箱田 裕司:九州大学大学院人間環境学研究院 教授

主な実施者
■田中 展史:福岡市教育委員会 指導主事 ■久保田 和子:福岡市立若宮小学校 校長
■小松 直人:福岡県岡垣町立岡垣中学校 校長 ■宮原 高子:朝倉市立立石小学校 校長
■山田 洋平:福岡教育大学 ■松本 亜紀:福岡大学人文学部
■瀬里 徳子:福岡市こども総合相談センター こども相談課長
■中村 知靖:九州大学大学院人間環境学研究院 准教授
■小松 佐穂子:九州大学大学院人間環境学研究院 学術研究員

協力者
■福岡市立若宮小学校父母教師会 ■福岡県岡垣町立岡垣中学校PTA
■友清 直子:福岡県立福岡学園 心理判定員 ■福岡県立福岡学園 ■辻 健次:福岡保護観察所 保護観察官
■栗野 美穂:福岡保護観察所 保護観察官 ■仲西 綾:福岡県立福岡学園 主任主事
■白山 淳一:福岡県立福岡学園 主事 ■蒲池 みゆき:工学院大学 准教授
■白倉 潤一郎:大牟田市立銀水小学校 校長
※所属・役職は、参加終了時のもの。詳しくは研究開発実施終了報告書を参照。

【論文】

■小松 佐穂子,箱田 裕司(2012) 子どもの無表情から感情は認知されるか,九州大学心理学研究,第13巻,67-72.

■小松 佐穂子,箱田 裕司(2012) 子どもの表情画像データベースの構築と評価―表情御方言の応力の検討―,心理学研究,第83巻,217-224.

【メディア報道・投稿】

■2011年9月8,9日,RKBラジオ,「<We Love Human>子どもを犯罪被害から守るための予防教育」.

■2011年10月18日,西日本新聞朝刊,「<連絡帳>福教大教授が心理教育の実践書を出版』.

■2011年11月8日, 読売新聞朝刊,「<知の先端>人間関係育むコツは」.

■2012年2月9日,FBS福岡放送TV,「<めんたいワイド>SEL-8Dのアンガーコントロールスキル(「怒った時の天津飯」)」.

【その他】

■2011年9月10日,「社会性と情動の学習(SEL-8S)の導入と実際」,小泉令三,ミネルヴァ書房.

■2011年12月10日,「社会性と情動の学習(SEL-8S)の進め方―小学校編―」,小泉令三,山田洋平,ミネルヴァ書房.

■2011年12月10日,「社会性と情動の学習(SEL-8S)の進め方―中学校編―」,小泉令三,山田洋平,ミネルヴァ書房.

■2012年1月11日,「心理学:心と行動のメカニズムをさぐる」(第15章 犯罪・非行),越智啓太編著,樹村房.

■2010年10月,「情動的知能(EI)とは何か」,小松佐穂子,箱田裕司,教育と医学,慶應義塾大学出版会, 58巻10号,962-970.

■2011年3月,「第2章 情動的知性と知能」Matthews G.著,小松佐穂子訳.,箱田裕司(編), 現代の認知心理学7 認知の個人差, 北大路書房, 26-51.