2013年3月31日をもちまして、領域の活動は終了致しました。

 昨今、子ども向けにさまざまな防犯教育が行われていますが、「知らない人には近づかない」など危険に出会うことを前提にした教育では、子どもたちに社会への不安感や不信感を植えつけてしまうこともあります。子どもへの犯罪を防ぐには、自分で身を守る力をつけてもらうことがなにより大切とされています。

 そこで、子どもの自尊感情を育て、主体的に危険から身を守る力をきたえる教材を開発しました。教材はe-learning形式で、小学校の小・中・高学年用に3タイプつくりました。今回開発した学習テーマは「登下校と外出時の安全」で、○×形式の設問から答えが一つとは限らないものも含め、学年別に13~20本の内容が含まれています(図1)。

 教材作成のために、全国の小学生約15,000人にアンケートを行いました。その結果、地域や安全教育の取組み状況、学年、性別などにより、安全への意識や行動に差があることが分かりました。例えば、防犯ブザーのみ所持している児童は携帯電話のみと比べ、出かける時に行き先や帰る時間を伝える割合や、急いでいる時に、暗くても近い道より遠くても明るい道を通ると回答した割合が高いなど、安全な行動をとっている傾向がうかがえました。

 このように、単に何かを持たせる教育ではなく、何をどう持たせたらよいのか、実践的な安全を意識した教育の必要性が浮かびました。また、知識はあっても行動できない児童も多く、どのような行動が安全や危険に結びつくのかを自ら気づかせたり、家庭や学校が一体となって安全の気づきを促す重要性も確認しました。

 複数の小学校で実際に授業を行ってもらい、児童や保護者、教員へアンケートを実施し、学習前後の変化や、保護者の学習への影響などを調べました(図2)。その結果、もともと安全教育がカリキュラムに位置づけられ、防犯意識の高い大阪教育大学附属池田小学校では顕著な変化が見られませんでしたが、児童の安全への意識や行動が高まった学校もありました。また、保護者が学習の記録を見てコメントしたり、家庭でよく話をしたりと、保護者との関わりが深い児童ほど、より安全な行動をとる傾向が見られた学校もあります。

 児童からは、学びが楽しいという意見も多く見られたほか、保護者からは今後も続けてほしい、教員からは子どもの関心を得やすいという声も多く聞かれました。今後も全国の小学校に紹介し、活用しながらよりよい教材づくりに取り組んでいきます。

代表者・グループリーダー
■藤田 大輔: 大阪教育大学 教授
■刈間 理介: 東京大学 准教授
■西岡 伸紀:兵庫教育大学 教授
■木宮 敬信:常葉学園大学 准教授
■阪田 真己子: 同志社大学 准教授

主な実施者
■豊沢 純子:大阪教育大学 講師 ■中川 亜也子:大阪教育大学 技術補佐員
■三崎 宏美:大阪教育大学 技術補佐員 ■内藤 英恵:大阪教育大学 技術補佐員
■佐々木 靖:大阪教育大学附属池田小学校 校長 ■井上 伸一:大阪教育大学附属池田小学校 主幹教諭
■松井 典夫:大阪教育大学附属池田小学校 教諭 ■浅田 正志:大阪教育大学附属池田小学校 教諭
■佐藤 学:大阪教育大学附属池田小学校 教諭 ■垣内 幸太:大阪教育大学附属池田小学校 教諭
■能川 正人:大阪教育大学附属池田小学校 教諭 ■岩井 陽介:大阪教育大学附属池田小学校 教諭
■原田 朋哉:大阪教育大学附属池田小学校 教諭 ■小山 健蔵:大阪教育大学 教授
■大道 乃里江:大阪教育大学 准教授 ■河野 奈美:大阪電気通信大学 准教授
■徳珍 温子:大阪信愛女学院短期大学 准教授 ■内海 千種:徳島大学 准教授
■衛藤 隆:東京大学 教授 ■越智 啓太:法政大学 教授
■村上 元良:京都府中丹教育局 指導主事 ■武藤 孝司:獨協医科大学 教授
■村上 佳司:天理大学 准教授 ■辰本 頼弘:関西福祉科学大学 准教授
■西牧 真理:関西福祉科学大学 講師 ■中薗 伸二:びわこ成蹊スポーツ大学 准教授
■長谷川 ちゆ子:湊川短期大学 教授 ■堀 清和:兵庫医科大学 研究生
■村上 征勝:同志社大学 教授 ■八村 広三郎:立命館大学 教授
■鈴木 直人 同志社小学校 校長 / 同志社大学 教授

協力者
■岡 則明:いの町立伊野南小学校 校長 ■松本 康平:天草市立佐伊津小学校 校長
■西塚 徹夫:十和田市立三本木小学校 教頭 ■飯島 仁:出雲市立遙堪小学校 教頭
■矢崎 良明:板橋区立高島第一小学校 校長 ■牛島 三重子:台東区立金竜小学校 校長
■保手濱 和益:広島市立矢野西小学校 校長
■田中 和枝:宇治市立小倉小学校 教諭 / 京都府教育委員会 指導主事
※所属・役職は、参加終了時のもの。詳しくは研究開発実施終了報告書を参照。

【論文】

■堀 清和,他(2009)安全教育のためのeラーニング教材開発に関する基礎安全教育学研究,9, 49-56.

■藤田 大輔(2009)共感・共生を基盤とした「学校安全」の展開 ―危険発生論から安全共感論に基づく学校安全へ―,学校危機とメンタルケア, 1,3-10.

■西岡 伸紀,武藤 孝司,他(2009)小学生の防犯能力の測定,評価に関する予備的研究-誘拐防止を中心とした先行研究の分析-,日本セーフティプロモーション学会誌,2,74-78.

■豊沢 純子,藤田 大輔(2009)ドイツ連邦共和国における学校安全の取り組み ― ベルリン市ノイケルン区の小学校を訪問して―,学校危機とメンタルケア,1,11-18.

■藤田 大輔(2009)「学校安全」の授業配信実験 ~四大学連携による e ラーニング授業として~,大阪教育大学情報処理センター年報, 12 ,16-17.

■木宮 敬信,阪田 真己子,他(2010)携帯電話および防犯ブザーの所持が児童の安全能力に与える影響,学校危機とメンタルケア,3,44-55.

■木宮 敬信,堀 清和,他(2010)小学生を対象とした安全に関する調査の分析,安全教育学研究,10,47-55.

■Kiyokazu Hori, Takanobu Kimiya,他(2011)Grade and Sex Differences in Safety Consciousness,Knowledge and Behavior in Primary School Students,日本健康教育学会誌,19,289-301.

■村上 佳司,堀 清和,木宮 敬信,他(2011)小学生の安全と防犯教育の関連, 日本教育保健学会年報,18,15-3.

■豊沢 純子,藤田 大輔(2012)児童はどのように犯罪者と要援助者を区別しているか-小学校3年生児童を対象とした検討-,安全教育学研究,12,15-20.

【メディア報道・投稿】

■2012年3月11日,読売新聞朝刊, 防犯ブザーの所持に関する調査データとコメント.

■2012年6月5日,朝日新聞朝刊,「ネットで学ぶ安全 附属池田小事件教訓に」.

■2012年6月8日,朝日小学生新聞 ,「大阪教育大 池田小事件から11年 安全をネットで学ぶ 教材開発」.

■2012年6月1日,毎日新聞朝刊,「防犯教材でタッグ 悲しい事件乗り越え 大教大付池田小と広島・矢野西小」.

■2009年8月,AERA,3日号,86-87,「家でサイトで狙われる少女」特集記事において調査結果の一部が掲載.