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十倉好紀 博士にトムソン・ロイター引用栄誉賞

トムソン・ロイター(本社:米国ニューヨーク、日本オフィス:東京都港区)は、十倉好紀 博士(理化学研究所 創発物性科学研究センター センター長、東京大学 大学院工学系研究科 教授)に「トムソン・ロイター引用栄誉賞」を授与することを発表しました。今年の受賞者・27名のうち、唯一の日本人受賞者です。

同賞は、過去20年以上にわたる学術論文の被引用数に基づいて、化学、物理学、医学・生理学、経済学分野の上位0.1パーセントにランクする研究者で特に注目すべき研究領域のリーダーと目される研究者の中から選ばれています。また学術論文の引用とノーベル賞受賞者に対する評価は強い相互関係があることから、「ノーベル賞有力候補者」として発表されています。

十倉博士は過去に、「超伝導化合物の発見を含む、強相関電子酸化物に関する傑出した研究、および巨大磁気抵抗現象に関する研究」により、同賞を受賞されています。今回は、「新しいマルチフェロイック物質に関する先駆的研究」による、新たな受賞となります(カリフォルニア大学バークレー校のR.ラメシュ教授、ケンブリッジ大学のJ.F.スコット教授との共同受賞)。

同賞のもととなる十倉博士の研究成果の多くは、JSTの創造科学技術推進事業・ERATO十倉スピン超構造プロジェクト(2001年度から2006年度)ならびに、戦略的創造研究推進事業・ERATO十倉マルチフェロイックスプロジェクト(2006年度から2011年度)によるものです。

「マルチフェロイック物質」とは、磁石の性質(強磁性)と誘電性(強誘電性)の性質を併せ持つ物質のことで、電場(電圧)により磁石の強度を制御でき、また、磁場によっても電気分極の強度を制御できるという画期的な機能を持った物質を指します。19世紀末、ピエール・キュリー(1903年ノーベル物理学賞 受賞者)によって電気磁気効果(磁場で電気分極を、また電場で磁化を起こす効果)を示す物質の存在が予言されました。1960年頃になって、ようやくロシアの研究者によって電気磁気効果の基となる物質相が発見されましたが、その効果は非常に弱く、応用上の意味を持つまでには至りませんでした。

十倉博士は、一連のERATOプロジェクト等において、磁化と電気分極の強い相関を持つマルチフェロイックスの創製と、その物性を説明する学理の構築をテーマの一つとして、研究に取り組みました。その結果として、多彩なマルチフェロイック物質群の探索、理論モデルの構築、特異な電気磁気効果の光学応答の観測などに成功しました。また、電子材料として普遍的に用いられている物質が、マルチフェロイック物質としての機能を有していることも明らかにし、今後の応用展開への波及も期待されているところです。今回の受賞は、これらの成果が世界的にも注目され、展開が進んでいることを表しているものと思われます。

<十倉博士の受賞に当たってのコメント>
マルチフェロイック物質やそれを用いた巨大電気磁気効果の研究は、開始して10年余になりますが、現在は、より広く「トポロジーと磁性」についての研究へと発展中です。この間の進展には、共同研究者の方々に非常に多くを負っており、また、理研、東大、産総研、JST、JSPSに は、関連したプロジェクト研究を行う上で、大きな支援を頂きました。この機会に深く感謝したいと思います。私自身は、新たに頂いたトムソン・ロイター引用栄誉賞をビタミン剤に今後も一層研究に精励したいと存じます。