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沖縄の新たな水利用に向けて ~「美ら島(ちゅらしま)、未来のおきなわ、水の循環利用シンポジウム」開催報告~
2013年11月01日(金)沖縄タイムスホール

美しい島々、沖縄。

その一つ、沖縄本島の南部地域では、地形や気候、人口の集中などの要因によって、長年水不足に悩まされてきた。現在は北部ダムの建設などによって概ね都市の水不足は解消されるようになったが、今後、気候変動の影響や、人口増加・産業活動の活性化といった新たな局面に対応した水資源の確保が必要とされている。その中で、新たな持続可能な水資源として下水処理水を活用した下水再生水が注目され始めている。

さる11月01日(金)に、那覇市の沖縄タイムスホールで、「美ら島、未来のおきなわ、水の循環利用シンポジウム」が開催され、下水道や農業に携わる産官学の関係者約180名が参加した。このシンポジウムは、CREST「持続可能な水利用を実現する革新的な技術とシステム」領域の中で進められている「21世紀型都市水循環系の構築のための水再生技術の開発と評価」というプロジェクトの研究成果を、沖縄県が進める「沖縄21世紀ビジョン」等へ情報提供し、連携することを目的に開催されたものである。

このプロジェクトの代表者を務める京都大学の田中宏明教授は、現在開発中の都市水循環利用システムを用いた実証実験を、沖縄などいくつかの場所で進めている。田中教授が構築を目指すシステムでは、水の輸送などのエネルギー消費量の改善、そして河川水や下水処理水などに含まれる病原微生物などのリスク要因の制御を重視した水のカスケード利用を目指してしている。そのためCRESTのプロジェクトでは、膜などの水処理技術で生み出される再生水の利用用途と安全性、エネルギー、環境負荷の特徴を明らかにしつつ開発を進めている。

シンポジウムでは、2001年に「水のノーベル賞」ともいわれるストックホルム水賞を受賞した浅野孝氏(カリフォルニア大学デービス校 名誉教授)より、「水資源総合管理における水再利用の役割」と題する基調講演があり、水不足の南部地域へ北部地域から水資源を長距離運んで利用しているカリフォルニア州における水再利用の事例が紹介された。この事例は、同じ悩みを抱える沖縄にとって、良いモデルケースとなるだろう。

沖縄県側からは、「沖縄県の下水処理水の再利用と可能性」や「沖縄農業と水の循環利用」についての発表があった。沖縄県における水の需要増加や水源の不安定性といった状況を踏まえ、下水処理水を有効活用していくことは重要であり、トイレの洗浄用水や散水用水、修景用水にとどまらず、水道原水としての利用についても今後検討していく必要があるという。

また、沖縄本島の中南部地域では、かんがい施設整備の水源確保が農業振興上の大きな課題となっている。以前、那覇市にある県の浄化センターの下水処理水を水源とした国営かんがい排水事業島尻地区の計画が立てられたが、水の価格の高騰などで実現ができず、中断されたままとなっていた。しかし今回、新たに再生水利用に強い要望を持つ糸満市を中心に農業への利用の検討が進められようとしている。その際には、再生水を受け入れる農家の理解だけでなく、再生水により生産された農産物に対する消費者の理解も必要不可欠であるということであった。

パネルディスカッションでは、CREST「水利用」領域・大垣眞一郎研究総括(水道技術研究センター 理事長)の進行のもと、CREST領域アドバイザーの宮崎毅氏(日本水土総合研究所 理事長)、田中宏明教授、加藤裕之氏(国土交通省下水道部 流域管理官)、大城忠氏(沖縄県下水道課)、川辺貢氏(沖縄県南部農林土木事務所)が議論を行い、沖縄本島の南部地域において農業用水が不足しているという現状に対して、再生水利用が大きな解決策となりうる。また、沖縄都市部に加えて、沖縄県内の離島においても、高い水質の確保とエネルギー・コストの削減が可能な再生水利用が強く期待されている。今後、実際の導入にあたっては、農家や都市の人々が再生水の安全性と環境負荷の削減効果などを正しく伝え、納得して受け入れることが必要不可欠である。そのためには、さらに実証実験を行いながら、その成果を適切に提供していかなければならない。その一方で、都市と農村が協働して水の再利用を進めていくことも重要であるという指摘もあった。

田中教授のCRESTでのプロジェクトは平成27年3月で終わりをむかえるが、プロジェクト終了後も沖縄県が主体となって、その成果を活用したと糸満市での再生水の農業利用を進めるなど、水の科学技術における沖縄発のモデルケースを作っていくことが期待される。

(JST戦略研究推進部・CREST「水利用」領域担当 吉田有希)