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中国・四川地域での実証試験が進む日本の水処理・水利用システム技術
2013年05月11日〜12日 中国・四川大学

新しい処理システムで浄化した再生水を手にしてみた。透明で臭いもなく、水質は極めて清浄で、飲料水にしても問題はなさそうだった――。中国・四川大学のキャンパスに設置され、実証試験が進む新たな下水処理システム「IISS(地域水資源利用システム、Integrated Intelligent Satellite System)」を5月に視察したところ、順調に稼働し予想通りの効果を上げていた。水処理・水利用システム技術の導入が世界的に求められている中で、このシステムが早く実用化され、普及することに強い期待がかけられていると感じた。

人口増加や経済発展、気候変動などの影響で、安全で安定した水資源の必要性が地球レベルで高まっている。こうした水問題の解決策の一つとして、CREST「持続可能な水利用を実現する革新的な技術とシステム」領域の研究チーム代表、中尾真一・工学院大学教授は、地域の生活排水の処理と、再生水を地域単位で有効活用することを目指して研究を進めている。

IISSは、膜分離活性汚泥法(MBR)にナノろ過膜・逆浸透膜(NF/RO膜)を組み合わせた新しい下水処理システムである。ゴミが目詰まりしにくい低ファウリング膜や、ファウリングを抑制するMBRシステム、無線データ通信技術を使った自立運転支援システムなどを組み込み、処理水の安全性も評価しながら、最適なシステム作りを目指している。

2009年10月にスタートしたこの研究プロジェクトで、IISSを構成する各要素技術の研究開発が進められてきた。この3年間の成果をシステムに組み込み、2012年8月から中国の四川大学キャンパスで約3年間の実証試験に入った。中尾教授は、水資源にあまり困っていない日本国内ではなく、緊急性の高い国外の小規模都市や地域で試したいと四川大学を選定した。実証試験の目的として、実社会にどの程度適用可能か、どんな課題があり、改善の見通しはどうかなどを探っている。

今回の視察では、運転開始から約9ヶ月が経過したのを機に、中尾教授や研究プロジェクトのメンバーと共に、CREST「水利用」領域研究総括の大垣眞一郎・東京大学名誉教授、副研究総括の依田幹雄・鞄立製作所インフラシステム社技術主管らが進捗状況を見て回った。

四川大学キャンパスは広大で、この中に学生寮や職員宿舎はもちろん、幼稚園から小学校、マーケットまであり、一つの街のような構成になっている。IISSは教員宿舎付近に設置され、宿舎からの下排水(400世帯規模、毎日約40トンの排水)の処理運転を行っている。いくつかの水質項目を調査し、処理前後の数値の比較や、季節変動による影響、使用エネルギーの変動などを調べ、最適な運転条件を見出すのが狙いだ。これまでの運転は順調で、今後、長期運転によって生じる問題等を探ることにしている。

研究チームに参加している四川大学の関係者からは、「中国人の水質保全への意識は決して十分ではない。実用化を本格的に進めるには、地元政府の理解や協力が欠かせない。このシステムは非常に有効なので、是非実現に向けて進めていきたい」と大きな期待が寄せられた。中尾教授は、「実証試験でIISSの技術の優位性を理解してもらうために、CREST終了後もIISSを現在の場所に展示し、一般の人々から政府関係者までの多くの人々に見てほしい」と、実用化への意気込みを語っていた。

水処理・水利用システム技術は、交通や送配電技術などとともに、社会生活を支えるための社会インフラとして急速に注目され始めた。開発途上国などへの輸出が、今後の国際競争力の鍵になると注目されている。今回の視察は、そのことを再認識する機会ともなり、CREST「水利用」領域としても世界に向けて成果の発信や提案をもっと積極的にアピールすることも必要だと感じた。

(戦略研究推進部 CREST「水利用」領域担当・吉田有希)