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代謝機構制御による生命科学の新たな潮流(International symposium “New Frontiers of Metabolism Research in Biomedical Sciences”)開催報告
2012年9月27日(木) 〜2012年9月28日(金)  東京大学弥生講堂一条ホール

戦略的創造研究推進事業CREST研究領域 「代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御基盤技術」(研究総括:西島正弘 昭和薬科大学学長)における国際シンポジウム「代謝機構制御による生命科学の新たな潮流」が東京大学弥生講堂一条ホールにて2012年9月27日、28日にわたり開催された。オーガナイザーは三浦正幸教授(東京大学薬学系研究科、CREST「個体における細胞ストレス応答代謝産物の遺伝生化学的解明」研究代表者)が務め、参加者198名、口頭発表22名、ポスター発表45名を得て、成功裏に終了した。

代謝機構調節分野の進展には国内の研究者の貢献が大きいが、メタボローム分野の技術革新を背景に、生命科学・医学研究のアプローチが世界的に大きく変わろうとしている。代謝制御という視点から見る研究が新たな生命科学の潮流を作り出している現在、その現状と将来の研究展開を見据えた国際シンポジウムが重要と考えられ、国内・外の第一線で活躍する研究者が一同に介して発表・討論を行う国際シンポジウムが企画された。本CREST研究領域は故鈴木紘一先生の先見性の構想により発足し、西島先生に引き継がれ大きく発展した。初めに、西島研究総括からCREST研究領域発足時の趣旨と、その展開が紹介された。海外の研究者から、日本独自のグラントシステムであるCRESTに大きな関心が寄せられた。

引き続き、コロラド大学からR. C. Murphy博士による最新の脂質メタボローム解析による脂質酸化の新規メカニズムと動脈硬化に関する詳細な発表があった。その後のオーラルセッションおよび夕刻からのポスターセッションでは、線虫、ショウジョウバエ、マウスといったモデル生物を用いた代謝研究、微生物、植物、疾患モデルでの研究、そして最新の代謝分析技術に関する研究発表が行われ、海外からの招待講演者を交えた非常に密度の濃い議論がなされた。初日は、ポスターセッションでの熱気をそのまま引き継いだレセプションで終了した。

翌朝のセッションでは、ユタ大学からのC. S. Thummel博士によって、ショウジョウバエ遺伝学とメタボロームを組み合わせた糖尿病モデルの発表があった。HNF4はヒト若年発症成人型糖尿病MODYの原因遺伝子の一つとされているが、ショウジョウバエオーソログの解析によって、脂質代謝と糖尿病様の表現型発症とを遺伝学的に結びつけて解析することが可能になった。コーネル大学のF. C. Schroederは線虫を用いたメタボロームと遺伝学を用い、線虫の行動や発生のタイミングを調節する個体間の情報交換に使われる化学信号物質として、一連のascarosideを同定し、その生合成に関わる遺伝子を同定した。複雑な個体の行動制御を、代謝産物の同定から遺伝子経路の解明へと展開するアプローチはこれからの生物研究の新たな方向性を示すもので大きなインパクトがあった。ハーバード大学からのJ. W. Locasaleは、近年彼らが解明してきた、エネルギー代謝経路の調節が癌細胞の増殖・生存に果たす役割についてのエレガントな研究を紹介し、さらに胚性幹細胞の生存において1-carbon代謝経路が果たす役割について最新の知見を報告した。

日本からは、CREST代謝研究領域の研究代表者、さきがけ「代謝と機能制御」(研究総括 西島正弘 昭和薬科大学学長)の研究者に加え、慶應義塾大学の曽我朋義教授のCE-MSによる肝疾患解析、同大学の末松誠教授(ERATO末松ガスバイオロジープロジェクト研究総括)によるイメージングマススペクトロメトリーによる大腸がん研究、そして同大学の須田年生教授によるHIFによる代謝スイッチの詳細な解析が発表され、代謝研究の最前線を実感した。

本シンポジウムではポスターから選ばれた口頭発表のセッションも企画され、代謝研究の広がりを実感させるものであった。また、会場には多くの大学院生、若手研究者が参加していて、講演に対して活発な議論をする姿が印象的であった。海外からの招待講演者からも日本の代謝研究の広がりとレベルの高さが印象深かったとの感想を聞いており、今後さらに代謝機構制御という観点からの医学・生物学研究の発展が期待される。終始セッションは熱気につつまれ、2日間に渡って行われたシンポジウムは閉幕した。