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Workshop on the Conley-Morse Database Project 開催報告
2012年3月19日(月)〜22日(木) 米国ハワイ州 Kauai Beach Resort

戦略的創造研究推進事業 CREST http://www.jst.go.jp/kisoken/crest/

JST研究領域「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」における CREST研究課題「ダイナミクス全構造計算法の発展による脳神経-身体リズム機構の解明と制御」(研究代表者:國府寛司 京都大学大学院理学研究科教授)では、外国人研究協力者である Konstantin Mischaikow 教授(米国 Rutgers 大学)と共同で、2012年3月19日〜22日の日程で米国ハワイ州カウアイ島のホテルを会場として Workshop on the Conley-Morse Database Project(コンリーモース・データベースプロジェクトワークショップ)を開催しました。

当該 CREST 研究では、時間と共に変化するシステムの数学的定式化である力学系の大域的構造や、パラメータの変動に伴うダイナミクスの変化としての力学系の分岐を、計算機も援用して数理的に解析し、それを歩行に代表される脳神経系と身体骨格系によって協調的に生成されるリズム運動の機構を理解し制御することを目標に研究を進めています。本ワークショップは、そのための数学的手法とそのソフトウェア実装についての研究プロジェクトの現状と今後の発展の方向を討議するために開催されたもので、約30名が参加し(うち国外参加者は19名)、23の講演とディスカッションにより充実した討議が行われました。著名な海外研究者としては、Charles Weibel(米国 Rutgers 大学教授)、Marian Mrozek(ポーランド Jagiellonian 大学教授)、 Thomas Wanner(米国 George Mason 大学教授)、William Kalies(米国 Florida Atlantic 大学)らが招待講演を行い、また Tomas Gedeon(米国 Montana 州立大学教授)らが参加し、貴重なコメントをいただくなど議論を盛り上げてくれました。更に米国、ブラジル、ポーランド、日本からこの分野で研究を行っている若手研究者が参加・講演し、活発な議論が行われました。ただ、招待講演者であったMartin Berz 教授と Kyoko Makino 准教授(共に 米国 Michigan 州立大学)が、航空機のトラブルのため参加できなくなってしまったことは大変残念なことでした。

今回のワークショップの主要なテーマの1つは、本 CREST 研究チームと海外研究協力者の研究グループなどが共同で開発してきた Conley-Morse graph の方法という力学系の大域的構造と分岐の解析方法を実現するソフトウェアのほぼ完成に近づいた新バージョンを紹介し、そこに取り入れられた新しいアイディアやアルゴリズムについて討議して、その有用性と更に改良するべき点などについて検討することです。これについては、主として開発の中心となってリードしてきた Rutgers 大学の若手研究者の Shaun Harker 博士とそれをサポートしてきた本 CREST 研究の研究員やブラジルの若手研究者らが講演し、さらに高性能の解析を行うためのパラメータ空間の効率的計算法などの有益な提言なども出て、大変有意義な議論ができました。特に、この方法を微分方程式などの連続時間の力学系に適用することが大きな課題の1つであり、これについてはトラブルのために参加を断念された招待講演者の Berz 教授の研究グループで開発されている計算方法とソフトウェアをどのように融合するかがポイントとなっています。Berz 教授は残念ながら参加できませんでしたが、最近、Berz 教授と密接な研究連絡をとっている本 CREST 研究チームのメンバーがそれを補う講演をして、ポーランドの研究グループの方法との比較検討を行うのが重要であるとの方向性を得て、ワークショップ後に計算結果などの交換をするなど、順調に研究を進めています。

本ワークショップのもう1つの重要なテーマは、Conley-Morse graph の方法の新たな応用の可能性を探ることであり、これには招待講演者を初めとする多くの講演者によって、自身の研究と関連する様々な方向性を示唆する興味深い講演が行なわれ、大変刺激に満ちた議論をすることができました。特に、本 CREST 研究で行っている時系列解析への応用については、具体的な応用研究の実例の紹介や、時系列解析に適用する場合の数理的な課題とその解決のための試みやアイディアの報告などが発表され、有益な情報が得られました。また、ノイズを含んだシステムの取り扱いや、偏微分方程式などの無限次元の諸問題への応用、区分的定数ベクトル場に対する位相的な取り扱いの紹介、さらに、力学系の双曲性や位相的エントロピーの評価などの Conley-Morse graph の方法では直接扱えないような力学系の大域的構造についての情報との関連性など、多くの有意義な発表と議論が行われ、このような研究分野の今後の進展に大きな期待を持つことができました。

今回のワークショップは3日間の講演セッションと最終日のディスカッションセッションとからなり、講演セッションでは、時間を細かく決めずに比較的柔軟なプログラムで上記のような有意義な講演と議論が行われ、またディスカッションセッションでは講演セッションで出された様々なアイディアや方向性を今後、どのように数理的方法やソフトウェアに取り入れて行くかについて開発者を中心とした活発な討議が終日、行われました。

このワークショップは本 CREST 研究の今後の遂行に重要なアイディアや方向性を示唆してくれただけでなく、参加者に我々の数理的方法の有用性や可能性を強く印象づけることができたと思われ、大変大きな意義があったと考えています。これにより、この方面の研究が国際的にもますます活発になり、将来、さらに多くの成果が生まれるであろうと期待されます。