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未来を築く一粒の希望 SATREPSインターン:杉江 郁美
2011年10月22日(土)、11月23日(水) 木原研究所・横浜市立大市民フォーラム

「一粒の麦が人類の文明を生み出し、そして未来を築いていく。」

真剣な瞳でそう話すのは、横浜市立大学の坂智広教授。現在、SATREPSの枠組みの下、同大学を含む日本とアフガニスタンの研究機関とで、「持続的食糧生産のためのコムギ育種素材開発」の共同研究に取り組んでいます。坂教授が日本側研究代表者を務めるこの研究プロジェクトが主催のイベントが、昨年の秋に2つ開催されました。

1つ目は10月22日に横浜市の舞岡の横浜市立大学木原研究所で行われたアフガニスタンの若手研究者と日本の学生との交流会です。日本側は、横浜市立大学の学生4名とSATREPSでインターンをしている国際基督教大学(ICU)の学生3名の計7名、アフガニスタンからは横浜市立大学や東京農業大学に留学中の研究者約10名が参加し、プロジェクトについての理解を深めながら、お互いの国について活発な意見交換をしました。交流会の開始前には、この共同研究に関連の深い木原記念館と日々の研究活動が行われている研究室や圃場も見学しました。


参加者にSATREPSの紹介をするインターン生たち

そして2つ目のイベントは、約一ヶ月後の11月23日に同大学で行われたSATREPS市民フォーラムです。一般市民・約200人が集うこの大イベントでは、午前中に「カラコルム」という映画の上映会、午後には公開シンポジウムが開催されました。また、屋外では、アフガニスタンの踊りが披露されたり、ナンやケバブなどのアフガニスタン料理を初めとする食べ物屋の露店が立ち並んだりと、賑わいを見せていました。

私たちSATREPSインターン4名も、プロジェクトの写真を10枚ほどの大きなパネルにして展示し、足を止める参加者に説明するなどしてSATREPSのプロモーション活動をしました。今回は、この両方のイベントの参加を通じて私が得た、3つの気づきを共有したいと思います。


たくさんのサンプルが木原研究所で大切に保管されています。

まず私が注目したのは、このプロジェクトの持つ歴史的な繋がりです。木原記念館に案内された時に特に印象的だったのは、1955年に木原教授がアフガニスタンから持ち帰ったたくさんの小麦のサンプル。アフガニスタン在来の小麦は耐病性、耐旱性(乾燥に強いこと)に優れています。そこで、このプロジェクトでは、木原研究所でずっと大切に保存・保管されてきたこれらの遺伝資源を利用し、近代の優良品種を掛け合わせることによって、高品質、高収穫量を持つ新たな小麦の開発をしています。

11月の市民フォーラムで上映された「カラコルム」は、正にこのプロジェクトで使われている小麦が、いかに木原教授率いる学術探検隊によってアフガニスタンで探索され、日本に持ち帰られてきたかを記録した学術探索記録映画です。市民フォーラムの多くの一般参加者に、映画で出てくる小麦が今日進められている研究プロジェクトの核となっているという歴史的な繋がりを、知ってもらうよい機会となりました。


約60年ぶりにアフガニスタンへ
里帰りした小麦故郷の土で
元気に育っています


若手研究者(中央)と学生の交流

フォーラム開催のつい3週間前には、木原教授が持ち帰ったこの小麦が、プロジェクトのメンバーによってアフガニスタンに里帰りしたばかりでした。歴史的な繋がりを知った上で、すくすくと育っている小麦の写真を見たとき、60年の時を経て、日本で保存されていたアフガニスタンの小麦を故郷に返す瞬間は、どれほど感慨深かったことだろう、と感じました。

過去、現在、未来といった多様な時間軸で考えれば、プロジェクトの意義をより深く捉えることができるのだと、このイベントを通して学びました。

二つ目は、人々の関心が課題解決の大きな糧となるということです。

10月の交流会ではまず、アフガニスタンの食生活における小麦の重要性を知りました。アフガニスタンでは国内経済の約8割が自給自足的な営みであり、またGDPにしめる農業の割合は3割です。この共同研究プロジェクトが実を結び小麦の生産性が向上すれば、アフガニスタンの経済発展と生活水準の向上につながります。

その後、会話が小麦からアフガニスタンの日々の生活や文化について広がる中で私たちインターンが感じたのは、私たち日本人はメディアという小さな窓からアフガニスタンを見ているにすぎない、ということでした。留学生から聞くアフガニスタンは、地形や民族、言語などの様々な多様性が混在する文化の幅の広い国で、homogeneous societyと称される日本とは正反対。しかしその日常生活は、朝起きて挨拶をし、学校に行き、夕食を家族で囲むという、日本でもありふれた生活です。どうして違うところに注目してしまいがちなのか、と意見交換を重ねるうちに一つの理由が浮かび上がってきました。それはメディアという大きな存在です。日本のメディアで頻繁にとりあげられるのは、銃の乱射事件や武装勢力の襲撃のような事件。しかしそれが全てではなく、むしろ特殊な状況であると留学生のアルフィさんは言っていました。小さな窓から見つめるだけでなく、扉から一歩飛び出して広い視点からアフガニスタンを考え、共通項を見いだし、相互に助け合えるような関係を築きあげていくことが大切なのだと、この交流を通して感じました。


公開シンポジウムの様子
一般参加者からの質問もでました

11月の市民フォーラムの公開シンポジウムでも、市民から講演者やパネリストに対してたくさんの質問があり、アフガニスタンへの強い関心が感じられたのが嬉しかったです。こうしたイベントを通して多くの人が関心を持つことが、プロジェクトにとって大きな追い風となります。私も両イベントで学んだアフガニスタンの日常について自分の家族や友達に伝えたりしながら、小さな個人が大きな世界の問題との繋がりを持つきっかけとなるような活動を続けていきたいと感じました。

三つ目は、開発援助において、ハード面の充実と人材育成を含むソフト面の両方の支援があって初めて、持続的な発展に繋がるということです。

市民フォーラムの公開シンポジウムの講演は、アフガニスタンの復興に向けどのようなアプローチが可能かという内容でした。小麦の研究だけでなく、教育・人材育成などに携わる日本の開発援助の様々な分野の専門家が参加し、それぞれの視点からの復興支援を話していました。

農業分野のハード面の充実といっても、ただ単に農業機材の供与だけでは足りません。例えば、生産された小麦などの作物を国内外のマーケットに流通させるためには、商品運搬のために道路が整備されており、備蓄倉庫も十分でなければなりません。農業支援一つとっても国のインフラ問題などにも繋がっており、複雑な要因が絡み合った問題の解決には様々な分野の連携が必要不可欠であるということを痛感しました。

また、このシンポジウムでは、研究者の育成を通して相手国の問題解決能力を高める支援の意義が強調されていました。短期的に効果の出る、資金面や物資面での援助はもちろん有効ですが、長期的な視野を持って人材育成のような将来の持続的発展の芽を育てる援助を行うことも重要です。

例えばこのプロジェクトでは、アルフィさんのようなアフガニスタンからの若手研究者が日本に留学して、技術を学んでいます。短期的な援助と長期的な援助、両方の形の支援を通して被援助国が自己解決能力を高めていくと、問題解決能力を持つアクターが増え、お互いが自立して協力し合う関係に発展すると思います。そうなれば、現在私たちが抱えている地球規模の課題解決もより進むのではないかと感じました。

今回私が両イベントで学んだ、「多様な時間軸で問題を捉えること」、「関心を持って問題に取り組むこと」、そして「多角的なアプローチから問題に取り組むこと」は、どのような問題に対しても重要と言えることです。従って今後は、常にこれらを意識しながら物事に取り組んでいこうと思います。

最後に、坂教授の素敵な言葉を紹介します。

「『腹が減っては戦はできぬ』ではなく、『腹が減るから戦が起こる』」
一粒の小麦は、戦をやめさせ、未来を築く力を持っているのです。このプロジェクトの研究成果がアフガニスタンの復興を大きな前進させ、さらに世界人口の増加や気候変動にともなう食糧問題の解決への足掛かりとなっていくよう、これからも応援していきたいと思います。

<筆者紹介>
杉江 郁美 : 国際基督教大学3年生、経済学専攻。2011年9月からSATREPSのインターンとして活動。世界各国で行われているプロジェクトについて取材し新しいことを学ぶたびに、驚き、感動し、世界が少し近くなるのを実感します。このSATREPSの魅力をイベントでのプロモーション活動やメルマガの配信などを通して、多くの人に伝えたいです。

登録制SNS「Friends of SATREPS」にて、さらに詳しいインターンの生の声を聞けます。ぜひご覧ください。
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