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途上国の大臣の「夢」とは? SATREPSインターン:伊藤 拓哉
−2011年10月28日(金)北海道大学 学術交流会館−

シンポジウム参加者で記念写真。予定していた撮影スペースでは入りきらないほどの盛況ぶりでした。
シンポジウム参加者で記念写真。予定していた撮影スペースでは入りきらないほどの盛況ぶりでした。

セドゴ大臣(左)から日本の若者へ「私の夢はブルキナファソの若者が“君のように”働くことだ。」
セドゴ大臣(左)から日本の若者へ「私の夢はブルキナファソの若者が“君のように”働くことだ。」

セドゴ大臣と握手。感動の瞬間です。
セドゴ大臣と握手。感動の瞬間です。

シンポジウムの様子。研究成果を発表する外国人研究者(左)と、真剣に耳を傾ける学生の参加者(右)たち。
シンポジウムの様子。研究成果を発表する外国人研究者(左)と、真剣に耳を傾ける学生の参加者(右)たち。

国際水環境技術学院(2iE)で学ぶ若手研究者と
筆者 (中央) とてもフレンドリーでみなさん笑顔がすてきです。
国際水環境技術学院(2iE)で学ぶ若手研究者と筆者 (中央) とてもフレンドリーでみなさん笑顔がすてきです。

西アフリカ、サハラ砂漠の南に位置する内陸の小国ブルキナファソでは、1,500万人が日本の本州ほどの広さの国土に暮らしています。ブルキナファソとは現地語で「清廉潔白な人の国」という意味ですが、国民の約40%が安全な水、衛生的なトイレを使えない生活をしています。し尿に適切な処理がされないため、感染症などが多発し、多くの命が奪われています。

JSTとJICAの支援の下、日本と途上国が二人三脚で研究する国際科学技術協力プログラム「SATREPS(サトレップス)()、」に、「アフリカサヘル地域の持続可能な水・衛生システム開発」というプロジェクトがあります。この共同研究では日本側が北海道大学を筆頭にチームを作り、ブルキナファソの研究機関である国際水環境技術学院(2iE)と、し尿を再利用できる安価なトイレと排水リサイクルの仕組み、農作物の栽培とマーケティングの枠組みを考えます。

10月28日(金)、北海道大学と同技術学院の研究者の研究成果を発表するためのシンポジウム「アフリカ・サブサハラにおける衛生問題に対する挑戦」が、北海道大学の学術交流会館にて開催され、プロジェクト関係者や一般学生も多く参加し、席数が196席の会場は、ほぼ満員となりました。

SATREPSでは、難しい言葉の飛び交う国際協力の最前線をわかりやすく伝えるコミュニケーター(通訳)として、理解者協力者連携促進員(※2)の大学生をこのようなイベントに派遣しています。今回は、国際基督教大学2年生の伊藤が、JST職員に同行し、北海道での取材をしました。

1泊2日の取材旅行では、シンポジウムと、前日に開催されたプロジェクト関係者の懇親会にも参加させて頂きました。多くの人との出会いや話はどれもとても素晴らしいものでしたが、その中から3つのことを報告します。

1つ目は、思いがけない人と話ができたことです。
 懇親会には、日本とブルキナファソ両国のプロジェクト関係者が多数出席していました。中でも、中心人物はブルキナファソの水・衛生問題の指揮をとっているローレン・セドゴ農業水利省大臣でした。一国の大臣と同じ場にいるだけでも胸がいっぱいでしたが、先生方の計らいにより、一つだけ質問をさせて頂くことができました。
「大臣の夢は何でしょうか?」
考えておいた渾身の質問をしました。
「いい質問だね。」大臣は質問を温かく迎えてくれました。
「君のように働くことだ。」突然、大臣が僕を指さし言いました。
「えっ?」
「私の夢は、ブルキナファソの(社会や経済の)スケールが日本の50%になること。そのためには若者が働かなくてはならない。そう、僕の夢はブルキナファソの若者が“君のように”働くことだよ。」

思いがけない言葉を頂いて、なんと応えればいいかわかりませんでした。ただ、何とも言えない充足感が満ちたことを思い出します。大臣という立場の人がなかなか口にする言葉ではないでしょう。自国の若者と日本の若者、その両方への大きな期待の現れがこの言葉なのだと思います。僕の肩を叩き、目を見据えて語る姿から、大臣としての威厳と国を動かす使命感が伝わってきました。大臣という肩書き以上に、「清廉潔白な人」であることを思わせ、世界中の多くの若者を鼓舞させる迫力がありました。

2つ目は、シンポジウムでの研究発表です。
セドゴ大臣に叩かれた肩の熱が冷めやらぬまま向かったシンポジウムは、大臣のオープニングスピーチで始まりました。1人15分という短い時間の中で、し尿や不衛生な水の再利用等の問題に多彩な視点から、挑戦していました。

し尿を肥料として再利用するのにどうするのが一番良いのか、放置時間、置かれる環境、水と混ぜられる割合などの様々な条件を変えて調べる実験ではバケツが使われていて、現地でも無理なく使える技術が応用されている印象を持ちました。ある発表によると荒川の方がブルキナファソの地下水より汚れているという結果も出たということには驚きました。

質疑応答も活発に行われ、普段は遠く離れたアフリカで研究をしているだけに、直接言葉を交わし合う議論は熱意に満ちていました。

3つ目は、ブルキナファソの研究者との会話です。
セドゴ大臣の下で働くソンド農業水利省局長は、今のブルキナファソには全てが足りないことを、全身を使って訴えていました。そのために日本の若者にぜひブルキナファソに来て欲しいと言っていました。日本の青年海外協力隊は地域に密着してとても良い活動をしていると評判です。僕も大学を卒業したら一度来るようにと、勧められました。ブルキナファソにある水工学系の専門教育機関であり、このプロジェクトにも関わっている2iEでの研究は大歓迎とのことです。

その2iEで研究をしている若手研究者たちは、とても陽気な人が多く、笑い声の絶えない楽しい食事をしました。ブルキナファソには海がなく、生魚を食べる習慣もないため、北海道のおいしい刺身におそるおそる箸をのばしていた姿が印象的でした。

ところがシンポジウムでは一転して、真剣な表情に変わり、議論に集中していた姿は、さすがに国を代表して参加しているだけあって責任感にあふれていました。これからのアフリカをリードする指導者たちとふれあうことはとても刺激的であり、もっともっとこういう機会があれば日本の若者も世界に飛び出すきっかけになるのではないかと考えます。

ブルキナファソは世界で最も貧しい国の一つですが、今回の取材で出会った人々は国のために真剣に取り組んでおり、その姿は国名の意味となった「清廉潔白な人」たちそのもので、多くの人が持っているアフリカに対するイメージを覆すはずです。志のある若手研究者をセドゴ大臣やソンド局長がまとめていくという理想的な姿が見られました。

また、日本の若者への大きな期待も感じられました。セドゴ大臣からの言葉が全てを表しています。若者が働かなければ未来はありません。今回のシンポジウムを通して、参加した日本の学生も自分たちの勉強が国際協力に活かされる意味を感じたことでしょう。そして、何より僕は若者を力強く後押しする、このSATREPSの活動がもっと広く知られ、より良い取り組みができることを願っています。

きっと、誰もが飲めるきれいな水がブルキナファソの人々のもとに届く日も訪れることでしょう。その水で、いつか大臣と乾杯できることを祈ります。

※SATREPSとは・・・地球規模課題対応国際科学技術協力(Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development)の略称
近年、地球温暖化などの一国では解決できない地球全体の問題が注目されています。特に途上国はその影響を強く受けてしまいます。解決のためには、途上国における科学技術の発展が不可欠です。そこで、日本の優れた科学技術と政府開発援助(ODA)を組み合わせて、途上国の科学技術力向上や国の発展のためにSATREPSプログラムが行われています。この枠組みの下、現在、世界33カ国で60プロジェクトが「地球のために 未来のために」日夜、研究を続けています。

※2理解者協力者連携促進員とは・・・SATREPSの活動をわかりやすく伝えるため、イベント活動や色々な場所に取材等に行く際の、学生の呼称

<筆者紹介>
伊藤拓哉
国際基督教大学2年生 2011年4月からSATREPSのインターン
SATREPSの活動をわかりやすく伝えることが役目。北海道での取材の他にも国内外でたくさんの現場を見て、かけがえのない経験を将来に活そうと奮闘中です。今は、ブルキナファソに行く方法を模索しています。「科学技術と途上国協力」のコンセプトを多くの人に知ってもらいたいと考えています。