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有識者−北澤理事長バーチャル対談
(第2回目 平澤 泠氏)

北澤理事長
北澤理事長

第2回目 平澤 泠氏
平澤 泠氏

JSTを温かくときに厳しく見守る有識者の方に、JSTへのご意見をおうかがいしました。いただいたご意見について北澤理事長にもインタビューし、バーチャルな対談形式でご紹介します。

今回の有識者は、平澤 泠氏(東京大学 名誉教授)
略歴はページ末尾)です。

(聞き手:JST戦略的広報推進タスクフォース 小宮泉、嶋林ゆう子)

今のJSTは資金配分機関としての高い専門性が集積されてきていて、府省内部ではできない案件を処理する能力がついてきていると思います。しかし、省ごとの縦割りの関係や省との上下関係、さらには行政改革や事業仕分けなど、置かれている立場からくる様々な難しさに翻弄されていて、本来やるべきことに力を発揮できていないのではないでしょうか。

ここで参考になるのが、行政組織の体系が日本と近いヨーロッパです。ヨーロッパでは行政組織からファンディング機能が専門分化し、行政組織の下部機関ではなく中間組織としての独立性を保持したり、大臣直轄の機関に位置づけられたりして、資金配分機関の独立性が強くなっています。これを参考にするなどして、JSTの本来あるべき姿を確保していって欲しいと思います。

体系的な計画策定、組織構造の構築を

「JST長期ビジョン」と「中期目標」「中期計画」の関係、これらの計画と組織構造との整合性が取れていませんね。つまり、組織経営の基本的枠組みに問題があるように思います。

制定や見直しの時期がずれていることは、言い訳の理由にはなりません。独法化以来10年近く経っていますから、その間に次第に一致させていく機会は何度もあったはずです。また、先進的な独法では、もはやこの種の食い違いはありません。

例えば、JSTにはいくつかのセンターがありますが、これらが何をするところかという位置づけが計画からは見えてきません。
本来であれば、まず内部の長期計画があり、それをもとに中期目標、中期計画が作られ、さらにこれらを踏まえて、組織改革が行われていくものだと思います。 

また、「JST長期ビジョン」には、「ミッション」はあっても「ゴール」についての記載がありません。「ゴール」は、組織の使命「ミッション」とペアになる概念で、具体的な必達目標です。実現すべきターゲットとそこに至る道筋を含めてまず「ゴール」を明確にし、その実現に向けて組織等を整備したりして、ひとつひとつ確実に実現していくべきです。

制度の「プログラム化」を

個々のプロジェクトではPDCAサイクルが回るようになり、雑音があるにしても、きちんとした評価ができるようになってきている印象を受けます。しかし、JSTの組織全体を対象にしたPDCAサイクルは、まだ確立していないのではないでしょうか。

そのためには、個別プロジェクトと組織全体との関係を、構造化しておく必要があります。

まず、プロジェクトを生み出す制度を「プログラム化」する、という作業が必要です。
プログラムとは政策展開の単位ですが、単に「制度」を意味しているのではありません。位置付け・目的・手段・体制に係るシステムを「手順化した仕掛け」です。
「プログラム化」すると、プロジェクトから、評価に必要な的確な情報を収集できるようになり、その母体となる制度の効用を分析することが可能となります。さらにこれによって、プログラムを展開する組織全体を、個別プログラムのコスト・パフォーマンスの総和として評価することも可能になります。

我が国では、この構造化が完全に行われている資金配分機関は、まだありませんね。しかし、先進的な独法には、プログラムに相当する事業単位で構造化ができている所もあります。

「プログラム化」では、制度の目的を設定しなくてはなりません。ここが最も重要かつ難しい部分です。幸い科学技術領域に限定すれば、優れた研究者の先見性を利用できます。そのためには研究者ネットワークの活用が早道ですが、これは、JSTが最も得意とするところではないでしょうか。

(北澤) 戦略的創造研究推進事業の主な制度としてさきがけ・CREST・ERATOがあります。これらの制度における現在の仕組みが必ずしも理想的であるとは思いませんが、常に様々な改善を検討し取り入れていく中で、今の形に落ち着いています。ERATOの採択の仕組みとして、数名の委員の合議による採決を廃止し、決定権、責任を1人の委員に集約するパネルオフィサー方式を導入したことも1つの例です。海外の制度も視野に入れ、今後も良い案があれば取り入れて常に改善していくようにしていきたいと思います。最近は、アメリカなどでERATOの仕組みを取り入れる動きがありますし、日本の資金配分制度は世界から注目されるようになってきています。

JSTの強みを生かした課題解決型基礎研究を

科学技術領域に限定するという点をもう少しお話しします。

まず、JSTが目標としている「イノベーション」について考えてみましょう。
イノベーションとは、社会経済的な付加価値を創ることです。80年代までは、新しい技術をつくれば新しい産業ができるという、工業経済の時代でした。しかし、90年代以降は違います。先進国では知識基盤型社会の様相が強くなり、技術開発と社会経済的な付加価値とが直結し難くなってきました。NEDOや経産省の評価にも関与してきた私は、我が国でも同じ現象が起こっていると感じています。

このような現状において、本来の意味でイノベーションを目指すのは大変です。
まず、将来の社会経済を分析し、解決すべき「真のイシュー(課題)」を見つけ出さなくてはなりません。次に、「真の課題」と技術開発の活力との間をつなぐシステムを設計し、体制を整え、効率的に運用する必要があります。さらに、その途上で「システムの失敗」を克服する必要もあります。
これらはいずれも技術開発を成功に導くのとはまったく異なるスキルです。
果たしてJSTにこのようなスキルがあるのか、私には疑問です。

また、イノベーションを目指した場合に解決すべき社会経済的な「真の課題」と、技術開発を成功に導くために解決すべき「課題」は異なるものです。
JSTは他の機関と異なり、世界に誇れる研究者ネットワークを構築しているという大きな強みがあります。先導的な技術開発にターゲットを絞り、そこで技術開発の「課題」を見つける。JSTには「課題」を見つけ出すノウハウが充分備わっていると思います。そしてそれを解くための「課題解決型研究」を推進したり、新技術領域を創出したりしていく。それで充分に独自性のある資金配分機関としての役割を果たしていると言えるのではないでしょうか。

(北澤) JSTの強みを生かし、技術開発にターゲットを絞って支援すべきというご意見に賛成です。iPSの山中先生や超伝導の細野先生はまさに技術分野における課題を見つけ出し、それを解くための「課題解決型研究」を推進したからこそ、大きな成果への発展に繋がっていると考えています。

関連してもう一言。社会技術研究開発センターは、「社会のための科学技術」の実現という明らかにこれらとは異なる使命をもった組織です。ここでは、その特性に合わせた別種のマネジメント体制が必要です。将来社会にとって極めて重要な領域ですので、イノベーション型に徹することができるように、他とは異なるマネジメント体制で、強化した方がよいのではないでしょうか。

JSTの専門性とは

以上のことを踏まえ、JSTに求める能力は、プラクティショナー(成熟した実践者)とアナリストとしての専門性です。

前者は、プログラムのPDCAサイクルを管理していく力です。例えば、プログラムを設計し、課題審査の際に技術開発の質的側面を判定できる評価パネルを組織し、その運営を管理し、採択したプロジェクトの進行状況をモニタリングし、それらの情報に基づきプログラムを見直す、といったものです。

しかし、社会経済的イノベーションの場合では、既にご説明したように、プログラムや評価パネルの設定がまったく変わってきます。社会経済的な「真のイシュー(課題)」の質を判断できる研究者なんていません。そもそも、ここでいう質は価値に関わっていて、論理的に詰めることが可能な部分は限られています。

後者アナリストとしての能力を備えるには、まずデータを集める仕組み作りから始めなくてはなりません。海外の資金配分機関には、データを収集し分析する専門部門があります。
我が国ではNEDOが、独法化と共に悉皆的なデータ収集システムを整備しました。しかし内部の分析体制には、まだ改善の余地があると思っています。
海外の資金配分機関でも、内部のアナリストだけで限界がある場合には、外部の専門家に調査分析を委託しています。アナリストを機関内に大勢抱える必要はありません。しかし、その専門性の高さがプログラムの的確な見直しを実現し、資金配分機関の質的レベルを高めていると言っても過言ではありません。その意味で資金配分機関にとって必須の人材です。JSTも、ぜひアナリストのポストを整備していってほしいと思います。

(北澤) JSTは「プラクティショナー」と「アナリスト」としての専門性を備えていくべき、というご意見に賛成です。JSTはJST-POとエキスパートという2種類の人材を育てていく方針を打ち出しています。これらの人材は、資金配分業務を行う場合にはJST-PO、それ以外の場合にはエキスパートという役割です。来年度(平成23年度)の4月から本格的に始動していく予定です。

(以上)

第2回目 平澤 泠氏

平澤 泠氏の略歴

1968年東京大学大学院工学系研究科工業化学専攻博士課程修了。工学博士。東京大学教養学部化学教室助教授を経て1987年に同基礎科学科第二教授に就任。1998年より東京大学名誉教授。
科学技術政策研究所総括主任研究官、政策研究大学院大学、北陸先端科学技術大学院大学教授を歴任、この間、内閣府、文部科学省、経済産業省等の審議会、評価委員会の委員を多数務める。
専門は科学技術イノベーション政策研究、技術イノベーション経営論、システム論。