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国民の生活や社会の発展を支え、未来を拓く鍵ともなる科学技術。

JSTは、科学技術と社会、地球の未来を見据え、国際社会と協調しながら、長期的な広い視野を持って科学技術の振興を進めている。その事業は多岐にわたり、制度設計から実施に至るまで多くの方々と協働している。大学や研究所、企業などで科学技術に熱い思いで取り組む人は多いが、それを支援するJST職員の思いも決して負けてはいない。

「JST独創的シーズ展開事業 委託開発」1)の支援を受けた都甲潔教授(九州大学大学院システム科学研究院 主幹教授)と池崎秀和氏((株)インテリジェントセンサーテクノロジー 代表取締役社長)は味覚センサーの開発・商品化に成功し、「味の数値化」という新概念を切り拓いた。今回はこのプロジェクトを支援してきたJST産学連携展開部 剱持由起夫副調査役に、都甲教授と池崎氏の成果についての感想やJSTの果たす役割について聞いた。

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JST Partners 「JST産学連携展開部」剱持 由起夫 副調査役_1

JSTプログラムオフィサー、味覚センサーを語る

剱持は、JST職員の中でも特別な存在だといえる。
現在8名しかいない“JSTプログラムオフィサー(以下、JST−PO)”の一人なのだ。

JSTでは、国の研究費の選考・評価・配分という重要な判断において有力な研究者の力を借りることが多い。有力な研究者は研究とプロジェクト運営の両面に長けているからだ。しかし、研究費総額が増えるにつれて業務量も増え、研究者の負担になっていることが昨今の課題となっている。

一方、海外ではこのような業務をプログラムオフィサーという専門職が担っている。そこでJSTでも、自然科学系の博士号を持つ職員をJST−POとして養成・資格認定を行う制度を作った。剱持は2年半の研修や海外専門誌への論文投稿などを行い、認定委員会の厳しい審査を通過した初めての職員である。2)

「味覚センサーの開発は、企業が主導で取り組んだから成果が出たのではないでしょうか」
剱持はこう分析する。
「都甲教授はあの通り豪快な先生です。しかし、味覚センサーを真に支えたのは、豪快さというより、先生が地道に積み重ねられてきた基礎研究の成果であったと思います。ベンチャー企業の池崎氏も、都甲教授から引き継いだ研究を粘り強く進めました。基本五味に対応する膜をひたすら探し続けるのですから、成功に向けた確固たる信念がなければ務まりません。しかもこのような研究は論文としてまとめることが難しいので、大学で行うことはできなかったでしょう」

大学では、論文になるような研究が優先される。論文が教員・研究員の実績となるからだ。だからこそ、味覚センサーの開発は、製作、販売が実績となる企業主導で行うしかなかった。その過程には多くの苦労があったのだと剱持は続ける。

「何回も繰り返し使えるような装置にするために、当初はセンサーとなる膜の組成を変えて耐久性を上げようと試みました。しかし、この方法では上手くいきません。そこに池崎氏のアイデアが光りました。膜単価当たりの使用回数が増えれば良いのだ、売れるものを作るのだという、いかにも企業的発想で計画を変更したのです」

池崎氏は、膜の耐久性そのものを向上させるのではなく、膜の耐久性が下がりにくいようにする計測システムを作った。評価会では、実用に耐える製品という点が高く評価されたのだという。

計画変更を認めるかどうか。最初の判断はJST職員

JST Partners 「JST産学連携展開部」剱持 由起夫 副調査役_2

剱持は味覚センサーの技術について、まるで自身が開発現場にいたかのように語る。これらは企業や大学の研究者から集めた情報だそうだ。しかし、なぜそこまで詳細な情報を集めていたのだろうか。

「このプロジェクトの担当でしたから勉強するのは当然です。計画変更の妥当性を最初に見極めるのは担当者ですから」。剱持はこともなげに笑う。
「私たちはプロジェクトを何とか成功させて、国益に結び付けたいと思っています。税金を使っていますからね。しかし、採択時の審査で“成功する可能性が高い”と評価されたものでも、計画通りに進まないことがあります」

それは事業の性格上、仕方のない面もあるのだそうだ。そもそも委託開発という事業は、成功すれば国民にとって有益ではあるものの、企業が二の足を踏むような開発リスクの高いものを支援する制度である。そして開発が成功すれば企業は受けた支援を全額JSTに返済する義務を負うが、失敗であれば返済は一割に免除される。つまり企業のリスクを国が負担する仕組みだ。開発が始まっても一筋縄ではいかないことがほとんどなのだそうだ。計画の変更を余儀なくされる場面も多いらしい。

「計画を変更して継続するのが妥当か、あるいは早期に中止すべきか。外部有識者にご判断いただく前に、JST担当者が企業や研究者と調整する必要があるのです」。剱持は言う。

「企業から見れば、成功すれば借金を抱えるわけです。ですから、開発自体が成功と認められるだけではなく、返済を行っても利益が上がることが企業にとっては非常に重要です。その面でも都甲教授たちの計画変更は妥当だと思いました。当初の課題であった耐久性の向上は『味覚センサーが商品として売れるために必要なことは何か』に対する答えのひとつにすぎませんからね」

JST担当者は配分した開発費の使われ方、妥当性を最後まで見届けなくてはならない。その最終判断は専門家である外部有識者に任せるとはいえ、企業や研究者からの日々の相談にはJST担当者が対応するのだそうだ。そのためには現場の状況を常に把握し、研究の内容もある程度理解しておく必要がある。味覚センサーの開発の舞台裏には、こうした専門性を持ち、常に熱いハートを持ったJST職員がいた。

さらに次のStepへ

独創的シーズ展開事業からA-STEPへ。3)昭和33年から続いてきた委託開発事業は少し姿を変えた。委託開発が独立して運営されていた時代は年に約20件が採択されていたが、A-STEPと統合されてからは、返済義務の生じない別の制度に応募が集中してしまい、応募数、採択数が極端に減った。

「本当はもう少し採択数を増やしたいですね。やはり成功する開発というのはほんの一握りです。ですが採択数が多ければ多いほど成功する事例が出てくるでしょう。計画変更の話もしましたが、『成功するものは最初から何か違う』わけではないようです」。剱持は少し寂しそうだ。

「やはり間口は広くして、採択数を増やすことが成功する開発を見出すポイントになります。もちろん予算が限られていますから、単に採択数を増やせばよいというものではありません。効率的に国の予算を使うために、たとえば1年目は多くを採択して支援するけれども、二年目は進捗具合を見ながら半分くらいのプロジェクトだけに継続支援を行う、3年目はさらに半分というように、初めから五年の支援を始めるのではなくて、少しずつ延長していくような仕組みを作ればよいのかもしれません。それはそれで別の問題も出てくるのですけれどね」

剱持はさらに次のステップを目指して試行錯誤を繰り返す。時には研究者の目線で、そして時には行政の視点から。かつては総合化学メーカーの研究者であった剱持は今、より良い支援制度をつくろうと研究を重ねている。

1) 独創的シーズ展開事業 委託開発 Webサイト http://www.jst.go.jp/itaku/

2) JSTトピックス 「初のJST−PO資格認定を授与」 http://www.jst.go.jp/report/2009/090710.html

3) A-STEP 研究成果最適展開支援事業 Webサイト http://www.jst.go.jp/a-step/

(文:米澤崇礼、写真:浜島初美)

※本記事のJST職員所属部署は本記事掲載時現在のものです。

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