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有識者−北澤理事長バーチャル対談
(第1回目 吉田光昭氏)

北澤理事長
北澤理事長

第1回目 吉田光昭氏
吉田光昭氏

JSTを温かくときに厳しく見守る有識者の方に、JSTへのご意見をおうかがいしました。いただいたご意見について北澤理事長にもインタビューし、バーチャルな対談形式でご紹介します。

今回の有識者は、(財)癌研究会 癌化学療法センター所長/東大名誉教授、またJST戦略的創造研究推進事業SORST 研究総括でもある、吉田光昭氏(略歴はページ末尾)です。

(聞き手:JST戦略的広報推進タスクフォース 小宮泉、嶋林ゆう子)

JSTに期待すること

目標も「成長する」ことを忘れないで

(吉田) 研究では初めに目標を設定します。そして努力を重ね研究を進めると、成果が出る。すると自分自身も成長して、見えなかったものが見えてくる。そして次に掲げる目標も成長します。
JSTの業務でも同じことがいえます。JSTの最終目的である、「世の中に役立つ」というのは基本精神で、これは変わらないでしょう。でも、それを「どういうふうに形にするべきか」、つまりその時々に応じてどのような目標を掲げるかというのは、時代とともに変わらなくてはなりません。まずこの点を理解しておいてほしいです。

「とげ」を持って

こういったことを前提にJSTに期待したいのは、省庁(国)ではできないことをしてください、ということです。独立行政法人であるJSTだからこそできること。それは「とげ的」提案であり、「とげ的」実践です。

省庁(国)は、色々な人の言うことに耳を傾け、最も批判が少なく、多くの人が賛成できることに取り組むことが多いでしょう。これは国の役割でもありますから、当然そうあるべきです。
一方で、平均値からオリジナリティのある研究は生まれません。省庁(国)は偏ったことはできない。このこと自体がオリジナリティのある良い研究を進めるということと矛盾しているのです。

JSTは国から委託を受ける機関ですから、もちろん公平さがなくてはいけない。ですから多くの人の意見をじっくり聞くことは重要です。でも理由がある場合には、意志をもって民主的じゃないこと、すなわち「とげ的」なことを実行する。これができる組織ではないでしょうか。
だからこそJSTには、ここぞというときに「とげ的」な機能を発揮する精神を持っていてほしい。「とげ的」機能を果たす割合は時代によって変わるでしょう。今なら感覚的には1〜2割かな。しかし、この「とげ的」機能の発動には、その理由や判断の根拠をきちんと説明できるようにしておくのは言うまでもありません。
国の財政状態や仕分けなど、最近特にJSTの存在意義が問われていますね。税金を使っていますから、今後も問われていくでしょう。
そういったとき、JSTの価値を示すのが「とげ的」機能です。「とげ的」機能の価値を認めてもらうのは簡単ではありません。理屈を並べても済まないかも知れない。人々が認めてくれるのは、それまでの実績があってこそ。これも忘れてはなりません。

研究課題の事後評価の意義

評価結果を生かすのはJST

(吉田) 研究課題の事後評価を実施する意義とは何でしょう。私は事後評価とは、研究費を出した側すなわちJSTを評価するものと考えています。
基礎研究は、10人選んで1人うまくいけばいいという世界です。その1人すら出ない時代が続いたら、選び方を見直さなくてはいけない。この振り返りができるのが事後評価です。

そのため事後評価では、その研究を採択した経緯が重要となってくる。どういう理由で採択されたのか、そのときどんな議論があったのか、採択に反論はあったのか、その内容は?
JSTは、これらの経緯と事後評価の結果をつき合わせて解決策を見出し、次のプログラム設計や運営に反映させていかなくてはなりません。

膨大な評価結果は財産

こうしてJSTに、採択時と研究終了時の評価委員による議論や評価結果が、どんどん蓄積されていく。この膨大なデータはJSTの財産です。これを分析していけば、次の採択のとき評価委員の議論を聞いて、「あ、これは大事なことを言っているな」と気づくことができるようになります。これこそがJSTの専門性です。

JSTがサイエンスそのものの中身を理解するのは容易ではありません。それは我々研究者がやります。JSTに求めたいのは、サイエンスそのものを専門とする研究総括や評価委員の議論から何を汲み取るか、これを聞き分けられる鋭敏な耳と分析能力です。
このような資金配分機関の専門性を高めるために、JSTには、担当者の人事異動に関わらずデータと経験が蓄積され継承されていく仕組みを組織として整えてほしいですね。

(北澤) ご指摘の背景には、これまでの担当者の頻繁な異動があると思います。JSTは、癒着や不正を防止するため人事異動を頻繁に行ってきました。しかし今や、競争的資金制度には公募、ピアレビュー(研究者同士による審査・選定のこと)など、透明性・公正性が担保できる仕組みが整いましたので、その心配はなくなりました。今後は人事異動の頻度を減らし、各職員が一つの事業を長く担当できる仕組みを整えていきたいと考えています。
また、評価結果の分析に充分な時間を割けていなかったことは反省すべき点です。戦略目標の設定は妥当であったのか、研究総括の選び方は適切であったのかなど、不成功の原因を抽出し、今後の制度設計に生かすべく、環境整備や職員の意識醸成といった努力をしています。

(吉田) 私は研究総括として研究課題を評価してきましたが、専門家としてどこまで任されているのか曖昧であり、その時々によって大きく異なると感じることがありました。事業の性格などによって大きく異なることには異論がありませんが、担当者や部署によって異なることがないよう、組織としてぶれない大きな方針を見えるようにしてほしいと感じました。

(北澤) 研究総括とJSTの役割分担が充分に徹底されていないのかもしれません。これは私に責任があります。 研究総括に期待することは、思いの丈をぶつけて欲しいということです。 JSTは責任をもって研究総括を選出します。選ばれた研究総括は、それぞれの個性を思いっきり発揮して、研究をマネジメントしてください。 研究開発で大きなブレイクスルーを出すことこそがJSTの使命です。ですから、戦略目標にとらわれてがんじがらめになるのではなく、ブレイクスルーを目指して柔軟にマネジメントしていただきたい。JST職員はこれをサポートする役割を果たすよう努めます。

誰にどんな情報を届けたいのか

(吉田) 受け手は誰か、その人たちはどんな情報をほしいと思っているかという議論なしで、「こんな良いことができました、すばらしい発見がされました」と一方的に発信しても効果はありません。JSTの広報では、このような議論を十分にしてほしいです。JSTの各種広報が、誰にどのように役立っているのか調査するのも一案でしょう。

新聞記者に科学技術レクチャーをしては

それから、国民の科学技術への意識を高める仕掛けとして、JSTが新聞記者を対象にレクチャーをするというのはどうでしょうか。 国民の多くが科学技術の知識を得るのは、マスメディアを通してです。ならば、新聞記者が科学技術への関心を高めるように継続的に働きかけるのが効果的だと思うのです。
例えば1ヶ月に1回、いろんな分野の研究者に研究の背景と成果をしゃべってもらう。
この取り組みを積み重ねると、将来的には新聞記者が科学技術への嗅覚を持つようになるでしょう。それだけでなく、記者は記者ならではの「掘り下げる能力」も高めていくでしょう。そうすると、研究者から直接見聞きしたことだけでなく、「科学者はこう言うが社会的にどうか」といった問題点も含めて記事にできる記者も増えてくるのではないでしょうか。
このように、マスメディアとしての専門性を発揮しつつ、科学的にも正確に国民に科学技術を伝えられる新聞記者を増やす仕掛けが必要です。
この手の取り組みの効果はすぐには出ません。それを社会のみなさんに理解してもらう必要があります。同時に、うまくいっているのかいないのか、自己チェックする仕組みをJST内に備えておくことも必要でしょう。

(北澤) 賛成です。これは、JSTが2009年に策定した「広報に関するビジョン」に合致します。 現在JSTの広報は、「情報を隠す広報」から「積極的に発信していく広報」へ180度の転換を図ろうとしています。「広報に関するビジョン」は、この一環としてJSTの「発信力の強化」を実現するために策定したものです。
マスメディアとも、新しい関係を築こうとしています。従来は、研究成果のプレス発表を通してしか接する機会がありませんでした。でも、今年5月に開催したグリーン・イノベーション関係の国際シンポジウムでは、シンポジウム終了後に記者会見を開き、記者と直接やりとりできる場を設定しました。このようにマスメディアと、より積極的に交流しようとしています。

  国際シンポジウム「低炭素社会を目指すグリーン・イノベーション促進のための国際協力」

JSTの今後に向けて〜北澤理事長から〜

(北澤) JSTは2003年に独立行政法人化され、法人として意志を持つことが認められました。JSTは文部科学省が作成した中期目標の達成に向かって自ら効率的・効果的な運営方法を設計し、実施することを任されています。この役割をきっちりと果たすためにも、JSTはもっと実力をつけなくてはいけないと考えています。
この実力というのは例えば、研究現場のことはJSTが良く知っている、この研究についてはJSTに聞かなくては分からない、という存在になるということです。
現在、このような考えのもと、人員の配置や業務の整理など、JSTが実力をつけるべく、その環境作りを始めたところです。

(以上)

JST Partners 「低炭素社会戦略センター」研究統括 松橋隆治氏_4

吉田 光昭 (よしだ みつあき)氏の略歴

1939年生まれ。61年 富山大学薬学部卒業、67年 東京大学大学院薬学系博士課程修了、東京大学薬学部助手。69-71年 英国MRC分子生物学研究所客員研究員。75年(財)癌研究会癌研究所ウイルス腫瘍部研究員。77年に主任研究員、83年に部長。89年より東京大学医科学研究所教授、96年-98年には所長を務めた。99年に定年退官(東京大学名誉教授)、萬有製薬(株)常務取締役つくば研究所所長に就任。05年 東京大学大学院新領域創成科学研究科客員教授、退職後、現職にいたる。84年高松宮妃癌研究基金学術賞、85年武田医学賞、87年朝日賞、99年日本癌学会学術賞吉田富三賞を受賞。00年に紫綬褒章授章。
がんウイルスの分子生物学で世界的に知られる。