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CREST「ナノ界面技術の基盤構築」研究領域 国際会議「先端光源を用いたソフトマテリアルの研究動向:生体と合成の境界領域と産業化への橋渡し」 開催報告
−2010年09月01日(火)〜03日(金) SPring-8−

CREST「ナノ界面技術の基盤構築」研究領域 国際会議「先端光源を用いたソフトマテリアルの研究動向:生体と合成の境界領域と産業化への橋渡し」 開催報告_1 
CREST「ナノ界面技術の基盤構築」研究領域 国際会議「先端光源を用いたソフトマテリアルの研究動向:生体と合成の境界領域と産業化への橋渡し」 開催報告_2 
CREST「ナノ界面技術の基盤構築」研究領域 国際会議「先端光源を用いたソフトマテリアルの研究動向:生体と合成の境界領域と産業化への橋渡し」 開催報告_3 

ERATO 高原ソフト界面プロジェクト(以下 高原ERATO)と、CREST 「ナノ界面技術の基盤構築」研究領域の研究課題「DDS粒子のナノ界面と鳥インフルエンザワクチン等への応用」(研究代表者:櫻井 和朗)(以下 櫻井CREST)が合同で、先端光源を用いたソフトマテリアルと界面に関する国際会議を開催いたしました。

高原ERATO「自然に学んだソフトインターフェースの設計」では自然界に学んだ高性能のソフトインターフェース(ソフト界面)の研究を進めています。櫻井CRESTでは薬物運搬システム内部のナノ界面構造を放射光を用いて解析して新しいDDSナノ粒子の設計概念を提出することを目指しています。両方のプロジェクトにおいて、中性子散乱や放射光X線散乱は極めて重要な手法ですので、9月1日〜3日に兵庫県播磨のSPring-8(世界最大の放射光施設)において、上記の国際会議を開催いたしました。海外からの招待講演者8名、国内からの招待講演者11名が実質2日間にわたり熱心な討議を行いました。

講演の内容は大きく4つに分類されました。1つ目は、ソフトマテリアルが形成する特異的な界面を放射光や中性子を用いて分子レベルから明らかにしようとした試みで、Tadanori Koga 博士(Stony Brook Univ.)、Moonhor Ree 博士(POSTECH)、Naoya Torikai 博士(Mie Univ.)、Sushil K. Satija博士(NIST)らが講演しました。Koga 博士が試みた界面のミクロな粘弾性と分子構造を関連させた議論は先進的な取り組みでした。また、この分野の草分けであるRee 博士の研究は幅が広く感銘を受けました。韓国のこのグループは今後もX線における界面化学の分野で先端を走り続けるでしょう。

2つ目の分野は、超分子自己組織体の構造とその形成メカニズムを明らかにしようとする研究です。この研究は、DDSの基礎研究につながるとともに、生体内で起きているDNAの折りたたみ構造等を人工的に再現することで、生体での反応を深く理解しようとする試みでもあります。この分野を最初に切り開いたCyrus Safinya 博士(Univ. of California, Santa Barbara)、Hsin Lung Chen 博士(Tsinghua Univ.)、 Marcin Sikorski博士(APS)、Hideki Seto博士(KENS)らが講演しました。Cyrus Safinya 博士の講演では、生物物理と超分子化学の間にはすでに境界がないところまで進んでいることを認識させられました。

3つ目の分野は、先端光源を使うことにより、汎用の高分子材料の今まで理解できなかった問題が解決できることを示した研究です。Takashi Sakurai博士(Sumitomo Chemical Co.,)とAlexander Norman 博士(Exxon Mobil Research and Engineering Co.)は産業界の立場からそれを示されました。また、Yuya Shinohara博士(Univ. of Tokyo)、Toshiji Kanaya博士(Kyoto Univ.)、Mikihito Takenaka 博士(Kyoto Univ.)とShinichi Sakurai 博士(Kyoto Inst. Tech.)は高分子化学の立場から深い考察を示されました。Shinohara博士のX線光子相関法や、Takenaka 博士の電子顕微鏡像を用いた可視化は今後発展する分野であるとの印象を受けました。

4つ目の分野は、たんぱく質や脂質の溶液散乱や構造生物学です。Hideki Seto博士(KENS)、Naoto Yagi 博士(JASRI)、Satoshi Koizumi博士(JAEA)、Mamoru Sato 博士(Yokohama city Univ.)、 Mitsuhiro Hirai博士(Gunma Univ.)、Michael Sztucki博士(ESRF)らが発表しました。ここでは、原子の異常吸収端を利用したコントラスト変調法がこれからどのように進展するか期待できると感じました。

世界各地で放射光施設の建設が活発に行われており、将来の有機・生物材料の研究にますます不可欠な測定技術となりつつあります。事実、SPring-8では産学連携による世界で最強の光を有するソフトマテリアル専用ビームラインが建設中です。また、次世代光源としてのSASE 型 XFEL 開発が進められている昨今、コヒーレントX線やフェムト秒放射光源の有機材料への利用に関する議論が進められていくと考えられます。SPring-8における放射光を用いた有機・生物材料の研究レベルが、今後とも世界の最先端の位置を維持しつづけるためには、装置の高度化に加え、有機・生物材料における最先端の問題にいかに取り組んでいくか、またそれらの成果をどのように産業技術に生かしていくかが問われます。

有機材料や生物材料の小角散乱のコミュニティーは独自に発展してきた歴史性から、同じ現象を異なる言葉で記述するなど、研究分野での交流が必ずしも活発とは言いがたい状況です。また、各企業における産業技術への利用は、製品の機密の根幹部分に抵触することがあるため、公の論文として発表されることが少ない状況です。

以上の背景から、本シンポジウムでは、次世代の放射光科学の新しい装置開発、生物物理や超分子集合体の分野、高分子や液体表面の研究者、高分子固体の分野のなかから、世界的なレベルで活躍している研究者を招待して、お互いの分野の交流をはかるとともに、次の10年の有機材料や生物材料における放射光研究の方向性をさぐることに大いに貢献できたと考えます。