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CREST「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」研究領域 国際シンポジウム
−2010年04月29日(木)〜05月02日(日) 弘前大学50周年記念会館−

CREST「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」研究領域 国際シンポジウム

戦略的創造研究推進事業CRESTにおける研究領域「新機能創出に向けた光・光量子科学技術」で実施されている研究課題「超伝導による連続THz波の発振と応用」では、銅酸化物高温超伝導固有ジョセフソン接合系に関する第7回目の国際シンポジウム“The 7th International Symposium on Intrinsic Josephson Effects and Plasma Oscillations in High-Tc Superconductors (PLASMA 2010)”を、2010年4月29日〜5月2日の4日間、CREST関係者が主体となって弘前大学で開催されました。

この国際シンポジウムは2007年、我が国で世界に先駆けて高温超伝導体の固有ジョセフソン接合から強力なTHz帯域の電磁波発振現象が発見され、その後、約2年半の間に蓄積された成果を、関係する研究者はもとより全世界へ公表すると同時に、多角的な意見や批判を仰ぐ絶好の機会となりました。

このような画期的な成果は、遡れば1995年、初めて高温超伝導体の固有接合を用いて超伝導体のジョセフソンプラズマ(超伝導プラズマ)現象をマイクロ波領域で我々が観測したことに端を発しています。通常の超伝導電子は結合エネルギーが〜meVであるのに対し、プラズマ励起に必要なエネルギーは電子密度が大きいため〜eVのエネルギースケールにあります。従って、プラズマ振動を励起すると超伝導対は自動的に破壊され、準粒子状態へ移行してしまいます。従って、超伝導電子のプラズマ現象は超伝導体では観測されないと考えられていました。しかし、超伝導電子の集団励起の存在はGoldstone modeとして理論的には予言され、電子の長距離相互作用の結果、k=0ではギャップを持つことがP. W. Andersonによって指摘されていました。これは後に、Anderson-Higgs-Kibble機構として素粒子論で活躍するアイディアにつながったことはよく知られた事実です。これを実験的に検証するため、層状超伝導体やジョセフソン接合を用いれば可能であることは、やはり理論的に指摘されていましたが、実験的に観測されたという報告は1995年までありませんでした。これが、高温超伝導体の固有ジョセフソン接合を用いることによってマイクロ波のジョセフソンプラズマ吸収として初めて観測することに成功したのです。

このジョセフソンプラズマの励起エネルギーが超伝導ギャップエネルギーより十分低いため、鋭い励起状態として存在すること自体、大変、興味あることですが、逆に、このジョセフソンプラズマを何らかの形で励起できれば自ずと強力な鋭いスペクトルを持つ電磁波として取り出すことができるのではないかという素朴なアイディアが生まれ、この現象の探求が2000年頃から我が国を中心として盛んに行われるようになりましたが、なかなか実現できませんでした。これが、2007年に我々によって実現したのです。

このように、この一連のシンポジウムは我が国で発祥した超伝導プラズマという現象から一大研究分野へ発展したことから2年ごとにその成果をまとめ、全世界へ公表するという重要な役割を担ってきました。この15年間、この新分野から発見される現象は、研究者を魅了し続けてきました。飽くなき探求に日夜努力を重ねる研究者の情熱が一同に結集する場であったのです。特に、この第7回目は、念願のTHz波の発振が観測され、その成果の集大成が公表される重要な場でありました。また、この背景には世界で最も高品質の高 温超伝導体の大型単結晶の存在があったことも見逃すことはできません。「新しい材料科学は新しい材料から始まる」ということをここでもまざまざと見せつけられる結果となったのです。

このような経緯から、固有ジョセフソン接合の第一人者で発見者でもあるPaul Mullerエルランゲン大学教授、Reinhold Kleinerチュービンゲン大学教授をはじめ、このシンポジウムでは20名ほどの海外からの招待講演者を招き、4日間、密度の大変濃い研究発表や討論を行い、相互理解を深める重要な機会となりました。当初、なかなかTHz発振が他のグループで観測されなかったのですが、2010年に入ってようやく複数の研究機関で独立に観測できるようになり、この分野がいっそう活気づいてきた状況にあります。

会議の内容はホームページ(http://kadowaki.ims.tsukuba.ac.jp/~plasma2010/)等に譲り、ここでは特に注目すべき話題を2,3取り上げるのみとします。まず、なぜ強力なTHz波が発振するかという基本的な問いに対してはほぼ一致する答えが得られていると考えられています。それは、同等の原子層レベルの固有ジョセフソン接合が多数非線形結合し、交流ジョセフソン効果によって励起される超伝導振動電流が全固有ジョセフソン接合に渡って共鳴状態を作る同期現象が起こるためと理解されています。しかしながら、これを厳密な理論として構築することにはもう少し時間がかかるように思われます。その理由は、ジョセフソン接合系は非線形現象であるため数学的な困難が伴うこと、ある条件下で位相をそろえた同期現象を引き起こすこと、さらに複雑なことは、超伝導体を孤立して取り扱ってはならず、周りの空間と一体化して取り扱う必要があることなどがあげられます。

実験的にはKleiner教授とWang博士(NIMS)の共同チームはレーザー顕微鏡という手法を用いて、第一に、高電流側でホットスポットと称するメサ内部に発熱のため部分的に超伝導が壊れる現象が起こること、第二に、超伝導と考えられる残りの部分に縞状パターンを観測し、それを電磁波の定在波として解釈したことなどが示されました。しかし、このような非平衡状態で実際観測される現象が何であるのかかがよくわかっておらず、今後の研究課題として残されています。

門脇グループはTHz波の分光実験を多数のメサで行い、発振周波数と超伝導メサの形状の関係を明らかにし、発振現象に必要な条件を確立したこと、THz発振強度の空間分布を測定し、アンテナ理論によるモデル計算と照合することによってメサ内部で励起されているプラズマモードを同定したこと、発振強度を強めるための必要条件を実験、理論両面から追求したことなど数多くの成果が発表されました。メサ内部では単なる空洞共振器モデルでは説明できない複雑な現象が実現されており、さらなる詳細な実験がその神秘な現象を解明するために必要であることが指摘されました。

現状ではまだ最大強度が〜30μWですが、これを1mW程度まで引き上げることが最大の課題となっています。

シンポジウムは講演数41件(plenary talkが4件)、ポスター発表20件、総参加者数74名(外国人29名)でした。