大面積透明ダイヤモンド・ライク・カーボン成膜装置


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景) プラスチック等の表面の高硬度化への要望

 ダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)は、天然ダイヤモンドと同じ炭素のSP3結合とグラファイトと同じ炭素のSP2結合それに水素との結合を含むアモルファス構造となっている。DLCは、高硬度、低摩耗、低摩擦、表面平滑性に優れるという特徴を持ち、金型、工具、摺動部品などにコーティングされ利用されている。その成膜方法として、プラズマCVD法やスパッタ法が主に用いられている。プラズマCVD法は、真空容器中で高周波電力等を用いて発生させたプラズマのエネルギーを利用して、低圧環境下で原料ガスの分解及び結合等の化学反応を起こさせることにより100〜200℃に加熱した基材上に薄膜を形成させる方法である。スパッタ法は、真空容器中で電場等を利用して低圧環境下でAr等の不活性ガスの電離を行いその電離されたイオンを加速しターゲット材に打ち込み、それによりはじき出された原子が対向する基板に堆積し薄膜が形成される方法である。
 一方、アクリル、ポリカーボネートなどのプラスチックは透明で成形・加工が容易、比較的軽量、安価という特徴を持つが傷が付きやすい難点があることから、その表面を高硬度化したい要望があった。このため、高硬度の特徴を持つDLCをプラスチック表面に成膜することが考えられるが、従来の成膜方法では、広範囲にわたって均質なプラズマが得られず、均質な膜が形成できる領域は限られ大面積化が困難(最大60cm角程度)なことや低圧環境下で行うため成膜速度が遅い(1〜10μm/h)こと、また真空容器を使ったバッチ式であるため生産性に難点があるなど、実用化には至っていなかった。

(内容) プラスチック等の表面に透明なDLCを高速で大面積に成膜する装置を実現

 本研究者は、大気圧下での電極間にある絶縁物表面の放電現象がプラズマコーティングとして利用できることを着想し、試作・実験したところ透明なDLC膜が高速で形成されることを見いだした。
 本新技術は、炭化水素系ガスを原料ガスとして、表面放電プラズマによってプラスチック等の電気絶縁体表面に透明なDLCを成膜するもので、常圧、基板温度60℃程度の条件で大面積、高速成膜を可能とする装置である。
 本装置の基本構成は、プラスチック等の電気絶縁体基板を保持する保持部材、基板を移動させる移動機構、高電圧パルス発生部、放電電極、原料ガス供給部等からなる。移動機構により基板を走査移動させながら放電させるようになっている。放電電極は、一つの接地電極を挟むように二つの高圧側電極が平行に設置され、これらの電極は移動する基板表面から間隔が空くようになっている。炭化水素系の原料ガス中を基板表面に平行にアーク放電させ、かつ放電電極を多数個構成することにより、大面積で透明なDLCを高速で成膜することができる。本装置は、従来技術に比べ、1気圧程度下でのアーク放電で成膜できることを最大の特徴とし、プラスチック等の表面の連続加工が容易に行える。

(効果) 表面硬化アクリルシート等への利用が期待される

本新技術には、次のような特徴がある。

1. DLCの大面積、高速の成膜ができる。
2. 光透過性に優れた高硬度膜を形成できる。
3. 比較的低温(45〜60℃)での成膜が可能となる。

 従って、表面硬化アクリルシート(50インチ大型TVフロントパネル、高速道路遮音板、自動車等車両窓材、建材用窓材等)等への利用が期待される。

(※)この発表についての問い合わせは、電話03(5214)8995 佐藤または古賀までご連絡下さい。

参考:本件に係る事前評価は、新技術審議会において行われ、評価結果などは別添の通りです。


This page updated on March 4, 1999

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