準結晶分散型アルミニウム合金の製造技術


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
強さと伸びにバランス良く優れたアルミニウム合金への要望

 自動車や航空機など、運輸産業の分野では、低燃費化は常に主要な課題の一つである。低燃費化を実現する方策として、軽量化やエンジンの効率向上のために、従来の鉄系部品のアルミニウム化が進められている。とりわけ、コンロッドの軽量化は、エンジンの効率を直接的に向上するものとして期待されている。しかし従来のアルミニウム合金は、強さ(強度や剛性など)が増すと、伸び(延性)や靱性が減少する傾向にあるとともに、耐熱性に欠けるという問題があり、コンロッドのアルミニウム化は実現されていない。このため、強さと伸びにバランス良く優れたアルミニウム合金の実現が強く望まれている。

(内容)
アルミニウム結晶中に準結晶を微細分散させ、強度・高温強度・剛性・靱性に優れ、かつ高延性で加工成形性に優れたアルミニウム合金を製造

 本新技術は、アルミニウムにクロム、マンガンおよび遷移金属元素や希土類元素などを少量加えたアルミニウム合金から、アルミニウム結晶中に超微細な準結晶を均一に分散させた粉末を作製し、これを固化成形することにより、強度・高温強度・剛性・靱性に優れ、かつ高延性で加工成形性に優れたアルミニウム合金を製造するものである。
 準結晶は、1984年に発見され、結晶でもアモルファスでもない新規な構造を持つ相として注目されている。正5角形や正7角形以上のタイルを床に敷き詰めることはできないが、隙間を埋める別の形のタイルを使うことで、床を隙間なく埋めることができる。同様の理由により、原子が周期的に並ばなければならない結晶では、正5角形や正7角形以上の対称性を持つことはできないが、準結晶では、それらをつなぐ原子配列を間に入れることで、空間が隙間なく埋められている。準結晶は、結晶のような周期的な構造ではなく、アモルファスのように無秩序な構造でもない。この特殊な構造のために、準結晶は非常に硬く、高剛性で低熱膨張性であるなどの材料として魅力的な特質をもつ。その反面、極めて脆いという欠点が応用の障害となっていた。
 本新技術では、準結晶の原子配列の一部をアルミニウム原子で置き換え、準結晶が持つ脆いという欠点を改善するとともに、この準結晶をナノ・メートルレベルの粒径と粒子間隔でアルミニウム結晶中に分散させた複合組織とすることで、準結晶による強度・高温強度・剛性・靱性などの向上と、結晶の高延性を両立させることに成功した。
 以下に製造プロセスを示す。

(1)
合金粉末作製:
原料となる金属を特定の比率で混合する。これを加熱・溶解し、噴霧して、準結晶分散型アルミニウム合金粉末を作製する。
(2)
圧粉体作製 :
合金粉末をプレスして、円柱状の圧粉体に予備成形する。
(3)
押し出し  :
圧粉体を高周波加熱により300〜400℃に急速昇温した後、押し出し加工し、準結晶分散型アルミニウム合金の棒材とする。
(4)
型鍛造   :
棒材を型鍛造し、準結晶分散型アルミニウム合金部品とする。
(効果)
強さと伸びにバランス良く優れた性能の要求される高速摺動部品などの軽量化

 本新技術により製造した準結晶分散型アルミニウム合金は、

1.
高強度・高剛性・高靱性である。
2.
高温での強度および比強度に優れている。
3.
高延性であり、冷間での加工性に優れる。

などの特徴を持つため、

1.
自動車のコンロッドをはじめ、運輸産業分野における高速摺動部品。
2.
OA機器その他の高速回転軸受け部品のような各種精密機械などの高速摺動部品。

などに広く利用されることが期待される。

(※)この発表についての問い合わせは、電話03(5214)8994 蔵並または坂本までご連絡下さい。


This page updated on March 3, 1999

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