大視野3次元X線CT装置


(背景) 胸部などの大視野を高速で撮像できる新しいX線CTの出現要請

 がん、脳血管疾患、心疾患をはじめとする疾患の早期発見と治療を効果的に行うには、診断技術が担う役割は大きい。なかでも画像による診断機器としてX線CTは非観血で体内の構造が観察できることから、欠くことのできないものになっている。
 現在、広く利用されているヘリカルCTを含むX線CTでは、人体の横断面を基本の診断画像としている(図1-1)。しかし、これらの方法においては、(1)横断面の分解能に対し体軸方向は分解能が劣ったり、2次元断層像の間に不連続部を含んだりするため、初期肺がんなどの病変部の見落としの可能性があること、(2)胸部や頭頸部など広い領域を観察するには投影データを逐次収集していくので10分前後の時間を要する、などの欠点があった。
 このため、胸部、腹部などの広い領域において、息止め1回で高解像度の3次元画像が得られる新しいX線CTの開発が望まれていた。

(内容) 円錐状の広がりを持つX線を被写体の広い領域に照射し、高解像度の3次元画像を構築

 本新技術は、胸部や頭頸部などの広い領域に円錐状のX線を照射して蛍光板とCCDカメラからなる検出器より多数の2次元X線投影像を撮影し、計算処理により3次元画像を構築する大視野3次元X線CTに関するものである(図1-2)。X線源と検出部は一体となって被検部の周囲を1回転する間に2次元投影像を多数撮影し、これをもとに構築された3次元画像は広い領域において不連続部を含まず高解像度を有するため、任意断面での断層画像を得ることができる(写真1)。さらに、投影の重なりによる像のボケ、X線源や検出器の特性によるノイズなども補正し、歪みのない画像を得ることができる。
 撮影に要する時間は12秒(検出器1回転時間)であるため、被検者は息止め1回でよく、3次元画像構築においても専用のプロセッサーにより高速演算が行われるため、約6分で終了し、迅速な診断が可能である。
 本装置の基本システムは、次により構成される。また、装置の外観を写真2に示す。

(1) 検出部:X線源、蛍光板及びCCDカメラから構成される。X線源はX線管と電源部からなり、被検体を12秒で1回転する間に1゜づつ合計360枚の2次元投影像を撮影し、その撮影タイミングに同期してX線をパルス状に発生させる。
(2) 駆動部:検出部駆動装置及び移動寝台からなり、制御系の信号を受けて検出部の周回や寝台の移動を行う。
(3) 制御・演算部:検出部、駆動部の制御を行う制御系と、投影像のA/D変換、3次元再構成及び表示を行う演算系より構成される。

 特に2次元投影像から3次元画像構築においては、画像処理を高速に行う数値演算プロセッサーを複数用い並列処理させることによって、計算時間の大幅な短縮が可能となった。
 さらに、3次元画像を用いた観察、診断においては専門医が装置と対話的に操作することで、視覚的にわかりやすい画像として表示することが可能である。

(効果) 肺、骨および循環器など広い範囲の診断、治療計画の支援等への利用を期待

本新技術による大視野3次元X線CT装置は、
 (1)大視野3次元X線画像を構築するのに必要なデータは短時間(12秒)の撮影で得られる
 (2)構築された3次元画像の空間分解能は1mmであり、断層面や体軸方向など各方向に等方性を持ち、不連続部を含まないため、任意断面の画像を見ることができる
などの特徴を持っている。
また、臨床応用については、
 (1)肺、骨、造影血管に対し広い範囲で高解像度3次元画像を構築できること
 (2)頭頸部腫瘍、肺がんの診断と治療計画に対して有効性であることなどを確認するデータが得られた。
 本装置は被検部を広い範囲で診断できるようになり、今後、診断、治療に役立つものと期待される。


This page updated on December 16, 1998

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