用語の解説


1.量子エンタングル状態

 2つの光子1と2の波動関数が次のEPR(Einstein-Podolsky-Rosen)状態

にあるとする。この状態は次の4つの特徴を有している。

(1) 線形重ね合わせ:光子1と光子2は共に垂直偏波|V〉と水平偏波|H〉に同時にまたがって存在している。いわゆるシュレジンガーの猫状態(猫が生きている状態と死んでいる状態に同時にまたがって存在している)である。
(2) 量子相関:光子1が垂直(水平)偏波と測定されると光子2の偏波は水平(垂直)偏波とユニークに決まる。
(3) 非局在・非分離性:光子1と光子2は空間的にどんなに速くに離された後にも、上記の波束の収縮は光速での情報伝達を超えて瞬時に起こる。
(4) 遅延選択:2つの光子を空間的に十分分離した後、光子1に対する偏波測定のベースを直線偏波から円偏波に変えても、全く同様の結果が得られる。すなわち、光子1が右(左)回り円偏波|R〉1(|L〉1)と測定されると、光子2の偏波は左(右)回り円偏波|L〉2(|R〉2)とユニークに決まる。このようなEPR状態は、ベルの不等式の破れを実現し、隠れた局所変数を仮定する古典論を否定し、量子論の正当性を実験的に証明するために使われる。また、この量子エンタングル状態は、量子コンピューティング実現の鍵となるものである。同様に3つの光子が量子エンタングル状態にある場合を、GHZ(Greeberger-Horne-Zeilinger)状態という。

2. ポラリトンとドレストアトム

 量子井戸(電子の波長10 nm程度の半導体薄膜)に閉じ込められたエキシトンを光の波長(300nm)程度の共振器に閉じ込められた光子と強く結合させると、エキシトンと光子の性質を半分ずつ持つ正規モード=ポラリトンが形成される。ポラリトンは量子力学のスピン統計仮説に従えばボゾン粒子であるが、フェルミ粒子(電子とホール)から構成された複合粒子であるため、純粋なボゾン粒子である光子と異なり、弱い相互作用をする。同様に、強結合を起した2準位原子と共振器は原子と光子の性質を半分ずつ持つ正規モード=ドレストアトムを形成する。ドレストアトムの構成要素、2準位原子はフェルミ演算子で記述されるため、ドレストアトムはポラリトンと異なり強い相互作用を行う。

3. ボーズ凝縮と誘導放出

 熱平衡状態にある3次元のボーズ粒子系で、粒子の密度がn >2.62/λ3Tなる関係(n:粒子密度、λT:熱平衡ドブロイ波長)を満足すると、粒子は次々と基底状態へ凝縮していく。絶対温度零の極限では全ての粒子は基底状態にあり、巨視的なコヒーレンスが形成される。これがボーズ・アインシュタイン凝縮である。ボーズ凝縮は1次元系や2次元系では起こらない。一方、非平衡状態にあるボーズ粒子系で、基底状態にある粒子数が1を越えると、励起状態にある粒子は誘導的に基底状態への遷移を強いられる。これを誘導放出と呼び、次元性に関係なく起こる。光の誘導放出を用いてコヒーレントな光波を発生するレーザに対比して、コヒーレントな物質波(ドブロイ波)を発生する装置を原子レーザ(もしくは物質波レーザ)と呼ぶ。


This page updated on December 3, 1998

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