量子もつれプロジェクトの概要


 量子力学における測定理論は、量子物理学全般において最も中心的な問題である。しかし、ごく最近に至るまでの物理学における実験は、この理論の難解で神秘的な側面に触れることなく、波動関数の確率解釈という量子論の一側面のみで理解することが可能であった。しかし、1990年代に入ると、単一原子、単一電子、単一光子の状態を人工的に操作し、また複数の粒子に量子相関を持たせることが可能になってきた。これら最先端の実験では、量子測定理論の不可思議な概念を避けて実験結果を理解することはできない。またこれらの実験技術を用いて量子論の出発点というべき基本仮説を直接検証することもできるようになりつつある。
 一方、このような量子相関を持った複数の光子や電子(量子エンタングル状態という)を情報処理や通信に応用し、古典的なコンピュータと通信の限界を克服しようとする研究も近年盛んになりつつある。
 本研究では、このような潮流の中心的概念「量子もつれ(Quantum Entanglement)」を量子光学、原子物理、メゾスコピック(固体)物理、プローブマイクロスコピーの実験技術を駆使して解明する。また、将来の量子情報技術(量子コンピュータ、量子暗号、量子誤り訂正符号など)の中核となる技術の確立を目指す。
 この研究により、量子力学の測定理論における最も本質的な概念「量子もつれ」をより広く深く理解することができるものと予想される。また、この研究の過程で得られた知見と新たに開発される実験技術は、将来の量子情報技術にインパクトを与えるものと期待される。


This page updated on December 3, 1998

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