パルス燃焼乾燥によるし尿処理システム


(背景) 小規模な施設で、し尿を短時間で効率良く多量処理できる、新しいし尿処理技術が望まれていた

 我が国における生活排泄物(大便と小便)は、下水道への放流のほか、家屋に設置された浄化槽、くみ取り収集により処理されている。このうち、くみ取り収集によるし尿と浄化槽での処理により発生する浄化槽汚泥は、し尿処理施設や海洋投入等により処理されている。近年、下水道の整備が進みつつあるが、未だ半数近くがくみ取りし尿と浄化槽であり、また、環境保全の観点から海洋投入処理から陸上処理へ移行しており、今後もし尿処理施設の整備が必要とされている。
 現在、ほとんどのし尿処理施設では、微生物による有機物やアンモニア等の分解を行った後、濾過膜により水分と濃縮汚泥に分離し、水分をさらに活性炭吸着等の高度処理をして放流するとともに、濃縮汚泥は焼却等により処理する方法(生物処理・膜分離法)が行われている。この生物処理・膜分離の際には、複数の微生物処理槽や凝集槽などが必要となるため、比較的複雑で大規模な施設となる。
 このため、広い設置面積を必要としない単純な構成であり、かつ、環境保全の点から排水や焼却灰の排出がなく、多量のし尿を短時間で効率良く処理できる、新しいし尿処理技術が望まれていた。

(内容) し尿をパルス燃焼により発生する衝撃波を用いて乾燥・粉体化する技術。乾燥物は、固化して有用物として利用、もしくは焼却処理が容易。

 本新技術は、し尿をパルス燃焼により発生する衝撃波を用いて乾燥・粉体化する技術に関するものであり、比較的小規模なシステムで簡便にし尿を処理することを可能とするものである。このシステムで得られる乾燥物は固化して肥料原料として利用、もしくは焼却することが容易となる。
 次の工程に基づきパルス燃焼乾燥が行われる(図1)

 (1)燃焼工程
 圧縮空気と燃料を燃焼室に送り込み燃焼させる。運転開始時は点火プラグにより、連続運転時は燃焼室に残存する熱(約1300℃)により点火する。
 (2)膨張・排気工程
 燃焼により生じた高温・高圧ガスは衝撃波を伴い燃焼室外(乾燥室)に噴出する。吸気口からは圧縮空気を送り続け、逆流が生じないようにする。乾燥室内の温度は約150℃まで急激に低下する。
 (3)吸気・混合工程
 噴出したガスの慣性力により燃焼室内は負圧となり、圧縮空気と燃料が供給される。
一方、乾燥室ではスラリー状のし尿を供給する。この(1)〜(3)のプロセスは約125回/秒で繰り返されるため、し尿は、衝撃波により水分と固体に分離するとともに、その固体内の水分も内部からしみだして、瞬間的に乾燥・粉体化される。燃焼燃料の約80%が乾燥熱量となり熱効率が良く、また、燃焼室には弁がないなど簡単な構造である。乾燥したし尿は、肥料原料等の資源化として利用され、また、含水量約10%以下のため焼却も容易である。

本新技術によるし尿処理システムは以下の構成からなる(図2)。
(1)投入槽:収集車により収集したし尿を投入する。
(2)前処理装置:し尿中の夾雑物を除去する。
(3)貯留槽:夾雑物を除去したし尿を一時的に貯留する。
(4)乾燥装置:パルス燃焼により、スラリー状のし尿を乾燥・粉体化する。
(5)集塵装置:乾燥し尿粉体を回収する。
(6)脱臭装置:乾燥装置の排気ガス中の臭気成分を分解し、脱臭を行う。
(7)固化装置:焼却のため乾燥し尿粉体を固化する。

(効果) 新しいし尿処理技術として期待される

 本システムは、広い設置面積を必要としない単純な構成で運転・維持管理が容易であり、多量のし尿を短時間で効率良く処理でき、さらに、無放流でし尿を処理できるため水質汚染に対する懸念がないことから、新しいし尿処理技術として、し尿処理施設の新設や更新に適用されることが期待される。
 なお、本システムから排出される乾燥粉末し尿は、肥料原料としての利用が見込まれ、また、焼却処分も容易である。


This page updated on October 21, 1998

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