1.総括責任者
大津元一(東京工業大学大学院総合理工学研究科 教授)
2.研究の概要
光を利用した技術の進歩は速く、その利用分野は広範にわたっており、現代社会の基幹技術の一つとなっている。特に、量子光学、光エレクトロニクスの進展は著しく、レーザの発明による光の高パワー化、短波長化、高コヒーレント化などが実現し、さらにスクイズド光(振幅揺らぎなどの雑音が制御された光)を生み出した。最近、これら通常の伝搬する光ばかりでなく、伝搬しない特別な光についても注目されて来ている。それは、ガラス等の物質を透過する光が全反射される際、一部反射されないで物質からにじみ出す光であり、この光の広がりは、物質の極めて近傍にとどまり伝搬しない。その性質を利用することにより、先端をナノメータ以下まで尖らせた光ファイバーに光を入射させ、先端部の空間にナノメータ以下の領域に局在した光(局在フォトン)を発生させることが出来るようになってきた。さらに、この光と原子等の微小物質との間の相互作用に基づく力(共鳴現象)を用いて、微小物質を自由に操作し新規な材料を創出するための方法を確立することも可能であろうという提案もなされている。一方、この物質からにじみ出す光の振る舞いは独特のもので、理論は未成熟であり、物質との相互作用等についての実験的研究もほとんど着手されていないのが現状である。
本研究は、局在する光の本質を理解するために、光の波長よりもずっと小さなサイズの空間にエネルギーが集中している光を理論的、実験的に探求し、さらに、この発生する光を利用する技術の探求を目指すものである。このような光は、極微小な物質の表面に存在し、伝搬しない表面波である。従って、極微小性以外にもその特性は通常の伝搬光とは著しく異なり、光が単独で存在せず、物質と強く相互作用しているため、光の本質に関する新たな領域に切り込むことになる。また、微小物質の種類と振動数で変化する特異的な共鳴現象の検討及びその応用として、共鳴現象を利用した原子操作法による新材料の創製やこの光を用いた超微細加工技術、超小型の光素子への応用の可能性を探求する。
本研究によって、未開拓であった局在する光の理論体系の確立や極限的光学測定法に基づく極微弱光検出装置をはじめとする光学分析装置、原子を直接操作できることによる電子・光デバイスなどの高密度化や高速・大容量情報処理システムの実現への手がかりが得られることが期待される。
3.研究の進め方
本研究では、(1)理論解析、(2)ナノ・フォトニクス、(3)アトム・フォトニクスの3グループを設定し、相互に密接な連携を保ちつつ展開する。それぞれのグループでは局在フォトンの発生及び測定の理論的、実験的基礎研究と、物質との共鳴現象の研究及び原子との共鳴による原子操作研究を有機的に組み合わせて研究を行う。
4.研究事項
(1)理論解析
ここでは人類が今まで手にすることがなかった新しい形態の光としての極微小な光、すなわち局在フォトンを発生させ、その本質について研究する。そのために、局在フォトン発生装置とその特性測定法について検討する。また、局在フォトンの理論に関しては全く着手されていないので、その理論構築を行うとともに、その理論を原子をプローブとして用いて検証する。
(2)ナノ・フォトニクス
ここでは光スイッチ及び光増幅への局在フォトンの応用の可能性を探るために、その非線形光学現象(1)並びに共鳴現象について検討する。また、局在フォトンの材料工学への応用として、局在フォトンと物質との共鳴現象に基づいたナノメータサイズの物質創製法を追求する。
(3)アトム・フォトニクス
ここではナノメータサイズの物質の究極である原子を対象に局在フォトンと原子との間で生ずる共鳴現象について検討し、これを応用した原子誘導と原子捕獲の技術的確立を目指す。これにより、単一原子レベルでの物質の創製が可能であることを示す。
5.研究期間
平成10年10月1日〜平成15年9月30日
用語解説
(1)非線形光学現象:光の現象において原因に対し結果が比例しない現象。
This page updated on September 30, 1998
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