電子衝撃脱離による表面分析装置


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
半導体産業分野での、基板最表面層における微小領域分析装置への要望

 半導体産業の分野では、素子の高密度、高集積化に伴って、回路パターン等の微細化が進んでいる。半導体微細加工技術の最先端に位置するメモリ分野におけるパターン寸法は、 2001年には0.18μm(マイクロ・メートル、1μm=10-6m)、2010年には0.07μmの設計ルールが採用されると見られている。また、膜厚についても既に10nm(ナノ・メートル、1nm=10-9m)を下回っている。このような素子では、表面の汚染は、1nm程度の厚さであっても重大な欠陥をもたらすため、製造プロセスの管理はますます重要になっている。その際、汚染部位や汚染状況、汚染物質を明らかにすることが、汚染の生ずるプロセスを明らかにする上で非常に重要である。このため、微小領域(直径10nm)における最表面層(単原子層)の原子、分子の種類を、高感度で同定可能な表面分析装置が求められている。微小領域における表面の原子、分子の種類を同定する方法としては、オージェ電子分光法(AES)や二次イオン質量分析法(SIMS)などがあるが、単原子層程度の最表面層の分析に用いるには限界があるとともに、基板そのものと表面吸着物の区別や、有機物の分析が困難であるなどの問題点がある。そのため、既存の装置の高性能化が検討される一方で、新たな方法が模索されてい る。

(内容)
電子衝撃脱離で発生するイオンによる表面物質の同定と、走査型電子顕微鏡による表面の形状観察が可能

 本新技術では、電子線を試料の表面に照射した際に、電子衝撃脱離という現象により発生するイオンを分析して、表面の原子、分子の種類を同定する。電子衝撃脱離は、表面の原子、分子が電子線の照射によりイオンや、電荷を持たない中性粒子となって飛び出してくる現象で、従来は表面吸着物に限られると考えられていた。本新技術では、電子線の強さを従来よりも高めることで、基板最表面(単原子層程度)の構成原子も飛び出させることができ、表面吸着物に限定されない表面の分析を可能とする。また、照射する電子線を細く絞ることで、直径10nm程度の微小領域の分析が可能となる。基板表面の構成原子と吸着物では、それらを電子衝撃脱離でイオンとして発生させるのに必要な電子線の強さに差があるので、電子線の強さを制御することで、基板表面の構成原子と吸着物を明確に区別して分析することができる。分析は、発生するイオンの質量分析により行うため、水素などの軽元素を含む全元素分析が可能である。また、電子衝撃脱離を起こすのに必要な電子線の強さでは、有機物の分子構造が破壊されにくいため、有機物の分析も可能である。試料表面への電子線の照射は、電子衝撃脱離によるイオンの発生とともに、二次電子線の発生を伴うので、これを検出することにより、走査型電子顕微鏡による表面形状の同時観察が可能である。

(効果)
半導体産業分野や、固体最表面における物理現象等の研究への利用

本新技術による表面分析装置は、

1.
表面の原子、分子の高感度定性分析と、形状の同時観察ができる。
2.
基板最表面の単原子層程度、あるいは表面吸着物を高感度で区別して分析できる。
3.
軽元素や有機物の定性分析が可能である。

などの特徴を持つため、

1.
半導体製造プロセス等における評価。
2.
固体最表面における物理現象等の研究。

などに広く利用されることが期待される。

(※)この発表についての問い合わせは、電話03(5214)8994 蔵並または坂本までご連絡下さい。


This page updated on March 3, 1999

Copyright© 1999 JapanScience and Technology Corporation.

www-pr@jst.go.jp