血中過酸化脂質の高感度測定装置


(背景)
望まれていた過酸化脂質の高感度測定

 生体内に存在する脂質は、活性酸素等の作用を受け酸化されて過酸化脂質を生じることが知られている。過酸化脂質(特に、細胞膜を構成しているリン脂質の主要成分のフォスファチジルコリンが酸化して生成するフォスファチジルコリンヒドロペルオキシド)は、近年、動脈硬化などの疾病や細胞老化現象への関与が指摘されるに伴い、臨床検査、基礎医学等の研究分野において、血液中の過酸化脂質を高感度測定する方法の開発が求められている。
 従来、血液中の過酸化脂質の測定は、チオバルビツール酸法(過酸化脂質とチオバルビツール酸の反応により生成した色素を蛍光測定)や、呈色法(過酸化脂質とメチレンブルー前駆体との反応により生じるメチレンブルーの生成量を測定)があったが、どちらも複数の化合物から構成される脂質が酸化された過酸化脂質の全量をまとめて測定するものであり、また、試料の前処理や煩雑な操作を手作業で行うことに加え、測定感度に限界があった。

(内容)
血液より脂質の全自動抽出、液体クロマトグラフィによる分離、化学発光の検出を至て過酸化脂質量を高感度測定

 本新技術は、採取した血液(血漿・血清)を有機溶媒で処理して総脂質を含む抽出液を全自動で得、次いで高速液体クロマトグラフィーにより過酸化脂質を分離した後、発光試薬を添加して生ずる化学発光を検出することによって、過酸化脂質を高感度測定する装置に関するものである。
 本新技術による装置は、検体試料調製部、高速液体クロマトグラフィー部、発光検出部、データ処理・記録部から構成される。本新技術による血中過酸化脂質の測定方法は次の通りである。

(1) 検体試料調製部では、クロロホルム−メタノール系の溶媒を用いて、血液から総脂質を全自動により抽出する。
(2) 高速液体クロマトグラフィー部では、抽出液をイソプロピルアルコール−メチルアルコール−水系の溶出溶剤とともにカラム内に流入して測定対象とするリン脂質及び過酸化脂質からなる分画を得る。
(3) 発光検出部では、過酸化脂質とのみ反応する発光試薬(チトクロムCとルミノール)を添加し、化学発光(430nm)させ、これを光電子増倍管により増幅して検出する。なお、発光の仕組みは、チトクロムCが過酸化脂質と反応し活性酸素が生成し、この活性酸素がルミノールを酸化する際に発光することを利用する。
(4) データ処理・記録部は、発光検出部より得られるデータを基に測定試料中の過酸化脂質濃度を求め、記録する。

 本新技術の装置により、リン脂質の構成成分毎(注)の過酸化脂質が初めて測定できるようになったうえ、従来法に比べ検出感度が103〜104倍(10-12〜10-13mol)に向上し、測定時間が4分の1にあたる15分に短縮できた。

(効果)
成人病の臨床検査や医学研究の分野で利用が期待される

 本新技術による測定装置は、

(1)
本装置に検体をセットするだけで、全自動で過酸化脂質量が測定できる
(2)
高速液体クロマトグラフィーを用いた分離操作が本装置にはあり、各脂質成分毎の過酸化脂質を測定できる
(3)
従来法と比べ、103〜104倍の感度と測定時間が4分の1に短縮できるという特徴をもつことから
(1)
動脈血管の内壁などが過酸化脂質の作用により障害を起こすことが引き金と考えられる動脈硬化症、心筋梗塞など各種血管症、また、リポタンパク質や脂質の種類やその変動との関係が示唆される糖尿病や高脂血症などの成人病などの疾患の臨床検査
(2)
生体中における脂質代謝のメカニズムの解明など基礎医学の研究分野などに広く利用が期待される。

(注)リン脂質はフォスファチジルコリンのほか、コリンの部分がエタノールアミンやセリンに置換したものなどがあり、今回初めてこれらの成分毎に測定が可能となった。


This page updated on September 3, 1998

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