グラファイトX線光学素子の製造技術


(背景)
望まれていたX線の照射強度の向上

 物質の微少部分の構造や組成の分析を行うX線分析(X線回折装置、蛍光X線分析装置など)では、通常、線源から放射されるX線をスリットやピンホールにより細いビームとし、必要に応じてモノクロメーターなどにより単色化(単一の波長のX線のみを取り出すこと)して、試料に照射している。しかし、このような方式では線源から放出されるX線の極一部しか試料照射に利用できず、照射強度が著しく弱くなる。そのため弱い信号が雑音に埋もれたり、測定データを得るまでに長時間を要するなどの問題点があった。このような問題を解決するため、鏡で光を集光するように、X線を集光することにより強度を高める方法として、グラファイトやゲルマニウムなどの層状の結晶に外力を加え湾曲させたものを「X線の鏡」とする方法がある。これらは、結晶面が乱れることから、変形量を大きくできず、X線の集光倍率は10倍程度にとどまっていた。

(内容)
湾曲面に沿ってグラファイト層状結晶が整ったX線集光素子の製造

 本新技術は、高分子フィルムを出発原料として、不活性ガス中で加熱して炭素化し、所望形状に湾曲させた後、熱処理することにより、集光に適した形状を持ち、かつ結晶面が整ったグラファイトからなるX線光学素子を製造するものである。
 本研究者らは、高分子フィルムを高温処理すると炭素化してグラファイトが生成することを見出し、この成果を基にしてブロック状グラファイトの製造を可能とし、その後の研究により、グラファイト化の途中工程では可塑性があって、円弧状などに湾曲させて、さらに加熱・加圧処理すると、湾曲した表面に平行に結晶面が整っているグラファイトが生成し、X線集光素子になり得ることを見出した。
 本新技術によるグラファイトX線光学素子の製造工程は次の通りである。

(1)
材料調製工程:原材料であるポリイミドフィルムを切断、積層する。
(2)
予備処理工程:積層されたフィルムを不活性ガス雰囲気中で加熱し、分子中から酸素、水素、窒素等を除去する。酸素等と結合していた炭素原子が再結合し、ほとんど炭素のみからなるグラファイトの前駆体が生成する。
(3)
高温処理工程:前駆体を不活性ガス雰囲気中にて所望の形状の型に載せ、圧力を加え、圧着しつつさらに昇温すると、残留している窒素が除去されるともに、結晶面が発達し、型の形状に応じたグラファイトが得られる。
(4)
超高温処理工程:さらに、3,000℃の超高温で処理することにより、結晶配向性を向上させる。
(5)
組立工程:得られた湾曲したグラファイトを3つ組み合わせてトロイダル形状(樽のように筒の中央部が膨らんだ形状)の集光に適したX線光学素子を得る。
(効果)
X線を集光倍率200以上にできるX線集光素子の実現

 本新技術によるX線集光素子は、湾曲形状に沿って結晶面が成長しているため、結晶配向性が高く、X線の集光倍率が200倍以上と既存品が10倍程度に比べ、きわめて良くX線を集光できる
 従って、このX線光学素子をX線回折装置や蛍光X線分析装置などに取り付けることにより、試料へのX線の照射強度が向上するため、測定精度の向上(S/N比の改善)、測定時間の短縮、微少試料や微少領域の測定などが可能となる。
などの特徴があり、次の用途が期待される。

(1)
照射損傷の大きい生体物質の構造解析
(2)
測定時間が短縮でき、反応プロセスや結晶析出過程の時分割測定
(3)
微少領域(10μm程度)の夾雑物・析出結晶などの構造や組成及びその分布
(4)
複合材料や傾斜機能材料など界面や構造の解析
(5)
シリコン結晶製造時などにおける結晶の方位や夾雑物の有無など、製造工程の検査・管理
(6)
製造工程における二次X線測定による不純物の同定・管理
(7)
X線照射部が小型化でき、大きな物体を移動させることなく任意の角度で検査などの用途で広く利用できるものと期待される。


This page updated on August 3, 1998

Copyright© 1998 Japan Science and Technology Corporation.

www-pr@jst.go.jp